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第32話:山賊王の巨大な砦と、暴虐なる竹串の魔禽類

 広島の尾道にて、魚介と背脂の恐るべきキメラ獣(尾道ラーメン)を腹に収めた私は、さらに西へ西へと駒を進めた。

 本州の最西端、山口県。

 私が狙いを定めたのは、広島県との県境に位置する美しい水鳥の城下町――『岩国イワクニ』であった。

 しかし、私の今回の目的地は、有名な五連アーチの魔法の橋(錦帯橋)でもなければ、美しい白蛇の神殿でもない。

「……ここから先は、大型魔導ゴーレム(路線バス)か、あるいはタクシー(小型の傭兵ビークル)を雇わねばたどり着けんか」

 私は岩国の駅から、さらに深く、暗く険しい山の中へと突き進むルートを選択した。

 車窓からの景色は、次第に民家もまばらな鬱蒼としたダーク・フォレストへと変わっていく。

 こんな山奥に、本当に私の求める『巨大なる回復魔法グルメ』が存在するのか。

 いささかの不安(MPの減少)を覚え始めたその時だった。

「……な、なんだ、あのおびただしい光の群れ(魔法の松明)は!?」

 私は、タクシーの窓にべったりと顔を押し付け、暗闇の中に突如として現れた異様な光景に目を見開いた。

 周囲には何もない真っ暗な山道。

 そのど真ん中に、数百、数千という数の提灯(赤い火属性の魔法陣)が煌々と燃え盛り、巨大な水車が『ゴトン、ゴトン……!』と地響きのような音を立てて回っている。

 さらに、山肌を利用した巨大な木造の砦(テーマパークのような超巨大店舗)が、これ見よがしにそびえ立っているではないか。

「……なんという圧倒的な威圧感プレッシャーと、悪趣味なまでの派手さだ! これはただのギルド(食堂)ではない。間違いなく……この山一帯を支配する『山賊王バンディット・キングの巨大要塞』だ!!」

 私の元勇者としての本能が、激しい警鐘を鳴らしていた。

 ここは、商人や冒険者が気軽に立ち寄れるような安全な酒場ではない。

 一歩足を踏み入れれば、荒くれ者たちが毎夜のように狂乱の宴(お祭り騒ぎ)を繰り広げている、無法地帯の最深部なのだ。

「……ふっ、くははは! 面白い。山賊どものメニューに、元勇者である私が正面から殴り込みをかけてやろう!」

 私は、タクシーの運転手(案内人のNPC)に銀貨(運賃)を叩きつけ、燃え盛る巨大要塞――『いろり山賊』の正面ゲートへと堂々と足を踏み入れたのである。

「……す、凄まじい熱気(マナの奔流)だ」

 要塞(いろり山賊)の内部へと潜入した私は、その恐るべきスケールと狂気に満ちた空間設計に呆然としていた。

 屋外のそこかしこで、巨大な焚き火(火属性の儀式跡)が赤々と燃え盛っている。

 池には色鮮やかな巨大な鯉(水属性の中型魔獣)が泳ぎ、木々の間を縫うようにして、無数の『こたつ(日本独自の野営用暖房結界)』が斜面を利用して配置されていた。

「……常軌を逸している。これほど巨大な防寒結界こたつを、屋根もない完全な屋外に展開しっ放しにしているだと!?」

 私の世界では、結界を屋外で維持するには莫大な魔力コストがかかる。

 それを、ここまで無造作に、何十個も山肌に点在させている。この山賊王オーナー、どれほど底知れぬ魔力量(資本力)を秘めているというのだ。

「……だが、都合が良い。屋外での野戦アウトドアならば、私のような鎧重装兵(という脳内設定)の力学が存分に活かせる」

 私は、滝の音が響く岩場の側にある『こたつ結界』の一つを占拠し、重い身体を沈めた。

 その瞬間、下半身からじわじわと這い上がってくる完璧な温熱魔法の効果に、思わず「あぁ~……」と間の抜けた声(油断)が漏れそうになるが、すぐに気を引き締める。

「……いかん、このこたつ(極上の罠)の温もりに骨抜きにされてなるものか。私は戦いに来たのだ」

 私は、テーブルの上に置かれた巻物(お品書き)を鋭い眼光で睨みつけた。

 そこには、山賊たち(客)の闘争本能を煽るような、荒々しい筆文字で数々の魔法陣メニューが記されていた。

 その中で、私の目を釘付けにしたのは、この要塞の絶対的二大巨頭――二つの『超質量兵器』の名前であった。

「……これだ。『山賊焼サンゾク・ヤキ』、そして『山賊むすび(サンゾク・ムスビ)』!」

 私は、近くを通りかかった給仕の女性(くの一のような忍びの衣装を着た店員)を呼び止め、力強く言い放った。

「その『山賊焼』という魔禽類の丸焼きと、『山賊むすび』という巨大岩石爆弾を一つずつ頼む。我が胃袋ブラックホールの容量、存分に試すがいい!」

「はーい、御意かしこまりました!」

 くの一(店員)は、ニコリと笑って闇(厨房の奥)へと消えていった。

「……あの身のこなし、只者ではない(ただのベテランパートさん)」

 私は、屋外の冷たい空気と、こたつの熱魔法による『半身浴状態(強力なリジェネ効果)』を維持しながら、間もなく訪れるであろう巨大なる暴力(山賊の宴)の襲来を、牙を研ぐように息を潜めて待ち構えていたのである。

「お待たせしました。『山賊焼』と『山賊むすび』です!」

 ドサッ、ドサッ!!

 くの一(店員)によって、私の目の前にある木製のテーブル(野戦用の丸太デスク)の上に、二つの『巨大な暴力』が投下された。

 私は、その一つを一目見た瞬間、あまりの質量スケールに息を呑んだ。

「……ッ!? な、なんだこれはっ!!」

 それは、私の顔の大きさほどもある、途方もなく巨大な『骨付き肉(魔禽類の脚)』であった。

 まるで、巨大なオークの棍棒メイスか何かのように、太く、そして禍々しい太い竹串が肉の中心を無骨に貫いている。

「……馬鹿な。コカトリスの脚だというのか? いや、これほどのサイズを誇る鶏など、私の世界の最深部ダンジョンに生息する『巨大怪鳥(ロック鳥)』くらいしか存在しないはずだ!」

 肉からは、照り焼き(ダーク・シュガーの結界魔法)のような甘辛い極上の香りが漂い、表面には炭火(豪炎魔法)で焼かれた生々しいススがへばりついている。

 この砦の至る所で燃えさかる巨大なかまどで、ただひたすらに、暴力的に炙り続けられた『肉塊(クリーチャーの足)』。

 これこそが、この砦のボス(ギルドマスター)が冒険者(客)に叩きつける、最初の物理攻撃(試練)――『山賊焼サンゾク・ヤキ』の圧倒的威容であった。

「……ふっ、くははは! 見事な威圧感プレッシャーだ。私の故郷(異世界)の酒場で食していたオークの丸焼きにすら匹敵する、これ以上ないほどの野性味溢れる陣形だ!」

 通常の日本のギルド(定食屋や唐揚げ屋)では、肉は一口サイズに切り分けられ、上品に装甲(衣)で包まれて提供される。

 だが、この山賊どもの砦では、そんな軟弱な加工ナイフとフォークなど一切許されない。

「……『己の牙で引き裂いて喰らえ』。それが、この巨大魔禽類からのメッセージというわけだな!」

 私は、箸(二刀流)を使うことを自ら放棄し、こたつ(結界)から身を乗り出すと、その太い竹串(オークの棍棒)を素手で鷲掴みにしたのである。

「……行くぞ、魔禽(ロック鳥)の足よ!! ングォォォォッ!!」

 ガブゥッ!!

 私は、己の口を限界まで大きく開け、その巨大な肉塊(山賊焼)に正面から喰らいついた。

 ブチブチッ、ジュワァァァ……!!

「……美味い!! なんだこの暴力的で、それでいて繊細な甘み(スイート・バフ)はっ!!」

 噛みちぎった瞬間、私の口いっぱいに広がったのは、圧倒的な熱を帯びた鶏肉(獣)の脂と、何層にも塗り重ねられた『甘辛い秘伝のタレ(暗黒魔法のソース)』の連撃だった。

 外側は炭火(大火炎)によってパリパリに香ばしく焼き上げられ、表面に付着した僅かな炭のススでさえも、肉の旨味を引き立てる最高のスパイス(スモーク・エンチャント)として機能している。

「……すさまじい。表面の甘いタレ(トラップ)に気を取られていると、内側から溢れ出す鶏の強烈なフレイム・バフで口の中を焼き尽くされそうになる!」

 私は、口の周りをタレでベタベタに汚し(前衛職特有の汚れ)、両手で肉塊を押さえ込みながら、骨(竹串)から肉をひきはがすように獣のように貪り続けた。

 ナイフもフォークもない。

 箸(二刀流)すら使わない完全なゼロ距離戦闘(肉弾戦)。

 肉を噛み切るたびに、周囲で燃え盛るたき火の煙が顔に当たり、屋外のこたつ(結界)の温かさと相まって、私が現在『過酷な野戦サバイバル』を行っているという実感ロールプレイを最高潮にまで高めてくれる。

「……フスッ、くっくっくっ! これこそが冒険だ! 綺麗に盛り付けられた皿(平和な陣形)では絶対に味わうことのできない、マナの奪い合い……!」

 私は、鶏肉の最後の一筋まで骨(竹串)からむしり取り、それを胃袋ブラックホールへと叩き込んだ。

 巨大なカロリーが全身に漲る。

 だが、この山賊の宴(試練)はこれで終わりではない。

 私の目の前には、魔禽の肉塊(山賊焼)の隣に鎮座し続ける、もう一つの巨大質量兵器――漆黒の『山賊むすび』が、無言の圧を放ちながら出番を待っていたのである。

「……ふぅ。魔禽(山賊焼)の一騎打ちは、どうやら私の辛勝(完食)に終わったようだな」

 私は、完全に骨(竹串)だけになった残骸を皿の隅に追いやり、その横で不気味なほどの存在感(沈黙のプレッシャー)を放ち続けている『漆黒の一塊(山賊むすび)』へと視線を移した。

 それは、私の両手ガントレットで抱え込まなければ到底持てないほどの超特大サイズの『おにぎり(マナの球体)』であった。

 表面は、ただの一分の隙間もなく、一枚の巨大な海苔(漆黒の防御フィルム)によって完全にラッピング(封印)されている。

「……なんという質量マス・ウェポンだ。かつて第4部で私が遭遇した和歌山・新宮の『めはり寿司(緑の岩石)』をも遥かに凌ぐ、絶望的なまでのサイズ感!」

 めはり寿司が、高菜の葉(自然の緑)で優しく包まれた『癒やしの岩石魔法』だとすれば。

 この山賊むすびは、海苔という海の暗黒物質を用いて、内部に秘められた強大なマナ(大量の白飯)の漏出を強制的に抑え込んでいる『漆黒の封印爆弾ダーク・マター・ボム』だ。

「……フスッ、よかろう。だが、この漆黒の結界(海苔の封印)は、破られた瞬間、どのような内包物(罠)が飛び出してくるか分からん」

 私は、両手についた鳥の脂(山賊焼のバフ)を紙おしぼりで雑に拭き取り、その巨大な漆黒の球体(山賊むすび)を両手でガシリと掴み上げた。

 ズシリ……重い!!

 「……これは、ただのご飯の塊ではないな。この重さ(魔力密度)……内部に何か複数の特殊なコア(核)が埋め込まれている!」

 私は、大きく息を吸い込み、その漆黒の装甲(海苔)ごと、巨大な球体に顔面(口)から突撃した。

 ムチャッ……。

 強烈な磯の香りと共に、分厚い海苔の封印が破れる。

 その隙間から、ほんのりと塩味(防御力低下の呪い)の効いた熱いご飯(光のマナ)が顔を出した。

 そして、私の歯が『第一のコア(具)』を粉砕した瞬間、口の中で爆発的な酸味が弾け飛んだ!

「……ングォォォッ!! なんだこの強烈な梅肉アシッド・ポーションの塊は!!」

 ただの梅干しではない。

 山賊どもの荒々しい気性をそのまま体現したような、顔の筋肉がひきつりそうになるほどの強烈な酸味(一撃必殺の酸属性ダメージ)だ。

「……油断した! これが山賊のトラップか! 魔禽の脂(山賊焼の重さ)で麻痺した私の舌に、あえて最強の『口直し(ショック療法)』を叩き込んでくるとは!」

 さらに私は、その巨大な質量(白飯の海)に向かって噛みつき続ける。

 すると、次々と内部に隠された別のコア(具)が姿を現し始めた。

 塩鮭の強固なミネラル(水属性の塩の結晶)や、昆布の佃煮(漆黒の粘性トラップ)など、いずれも単体でおかずの主役(メイン盾)を張れるほどの強力な具材が、一つの巨大な球体(爆弾)の中にギュウギュウに詰め込まれていたのである!

「……ふっ、くははは! どこから食べても違った属性(具材)の魔法が飛び出してくる。なんという恐ろしき『ビッククリランダム・トラップ』だ!」

 私は、その漆黒の爆弾の威力に顔を歪めながらも、両手でしっかりと球体を抱え込み、決して落とすまい(マナをこぼすまい)と必死に咀嚼(粉砕)を続けていたのである。

「……ふっ、ごふぅぅぅッ!!」

 私は、巨大な漆黒の爆弾(山賊むすび)の最後の一口――塩昆布の魔力が濃縮された『底の欠片』をなんとか胃袋ブラックホールの最奥へと押し込み、その凄まじい質量(超重量級の白飯)から完全に解放された。

 屋外のこたつ(結界)の中で、私の体は、外の刺すような寒さ(氷属性のデバフ)を完全に忘却するほどに熱く、真っ赤に燃えたぎっていた。

「……ハァッ、ハァッ。山賊王よ……貴様らの用意した質量兵器(宴の試練)、確かにこの全身(胃袋)で受け切って見せたぞ」

 私の体内で、巨大な魔禽(山賊焼の肉)と漆黒の岩石(米の超塊)の魔力が、凄まじい勢いで融合し、筋肉組織ステータスをゴリゴリと強制強化アップデートしていく。

 この山奥のテーマパークで、和歌山(めはり寿司)を超えるボリュームの壁を乗り越えたことは、勇者としての私に、完全なる『自信(過信)』を取り戻させていた。

「……完全制圧コンプリート・クリアだ。この過酷な山口の山岳要塞(いろり山賊)すらも、私の無限の胃袋ブラックホールにはついに屈したか」

 私は、こたつの強烈な捕縛魔法(リジェネ効果の罠)を気合で振り切り、山賊ども(店員)に銀貨の束を投げ渡して、燃え盛る巨大な砦を後にした。

 山を下り、岩国の駅(安全な中継拠点)へと戻った私は、冒険手帳(スマホの路線検索)を立ち上げた。

「……さて。山陰(鳥取)、山陽(岡山、広島、山口)の西の辺境は、あらかた平定(制圧)を完了した。次なるターゲット(新エリア)は……」

 私は、中国山地から大きく視点を動かし、私の拠点であった関西(京都・大阪)よりもさらに東、そして北に位置する巨大な『広域水層結界レイク・エリア』へと焦点を当てた。

「……滋賀県。その中でも、さらに北に位置する『長浜ナガハマ』か」

 情報によれば、そこには『琵琶湖』と呼ばれる、海と見紛うほどの巨大な淡水結界(内海)が存在しているという。

 そして、その広大なる水の結界の側で私が喰らうべきターゲットは……なんと、『焼いたサバ(魔の回遊魚)』と『そうめん(細い糸状の結界)』を魔融合させた、『汁なき麺の強制吸収魔法(焼鯖そうめん)』だという。

「……そうめんと言えば、氷水に浮かべられた『清涼な魔力(夏の回復魔法)』が基本陣形のはず。それを焼き魚の呪い(煮汁)で無理やり強制吸収させているだと!?」

 私の舌に、新たな恐怖(まだ見ぬ味覚への渇望)が走った。

「……ふっ、油断のならない国だな! 待ち受けていろ、長浜の要塞(琵琶湖)よ。この山賊どもの巨大な胃袋(拡張されたステータス)を以て、貴様らの特殊な強制吸収結界(焼鯖そうめん)を完膚なきまでに飲み干してやろう!」

 私は、体内で燃え盛る魔禽の脂(山賊焼のバフ)を推力に変え、一路、近畿の北を塞ぐ巨大水瓶(滋賀・長浜)へと向けて、長き魔導列車の旅路へと足を踏み入れたのであった。

(第32話 了)


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