第123話:瀬戸内の急流に鍛え上げられた八本足の海魔(呉線・たこめし)
兵庫の山奥で、最強の肉魔法(但馬牛めし)を心ゆくまで堪能した私は、さらに商人ギルド網を西へと移動し、広島県の東の玄関口……三原駅へと辿り着いていた。
「フスッ……。明石の海で『ひっぱりだこ飯(陶器の牢獄に封じられたタコ)』を討伐したばかりだが、ここ三原もまた、瀬戸内海有数のタコ(八本足の海魔)の生息地として知られている」
三原の沖合は、島々が複雑に入り組み、極めて潮流が速い。
そんな過酷な水属性のフィールドで鍛え上げられた魔物たちは、底知れぬ物理的防御力(弾力)を持っていると噂されていた。
私は三原駅で駅弁ギルド『浜吉』の看板アイテムである『たこめし』を確保し、あの巨大メロンパンの罠にハメられた懐かしき路線……瀬戸内海沿いをのんびりと走る『呉線』へと乗り込んだ。
「さあ、見せてもらおうか! 明石のタコとはどう違うのか!」
私は四角いパッケージの蓋を開け放った。
「おおっ! ひっぱりだこ飯のような『醤油ベースの濃い茶色』ではない! うっすらと出汁の色づいたご飯の上に、タコ本来の『桜色』が鮮やかに広がり、さらに錦糸卵とグリーンピースが散らされているぞ!」
「明石の海魔は、特製ダレによる『激しい煮込み魔法』の末に、歯茎だけでも崩れるほどの柔らかさへと弱体化させられていた。しかし……この三原のタコは違う!」
見た目からも、パッツンパッツンに張った吸盤と、引き締まった脚の筋肉繊維が伝わってくる。
「最低限の塩と出汁の結界に留め、素材本来の持つ『物理的ポテンシャル(弾力)』を一切殺さずに封入しているのか!」
私は魔術スティック(箸)を使って、その最も太そうな桜色の脚の破片をつまみ上げた。
「いざ、実食ッ!」
口の中へ放り込み、上下の顎に力を込める。
「……モギュッ! ブリンッ!!」
「ッ!? ガハァァァァァッッ!!!」
「なんという反発力! 私の斬撃(噛み砕き)を、強靭な筋肉の鎧(ゴムのような弾力)が完全に弾き返してきたぞ!」
噛み切れないという意味での固さではない。
「噛めば噛むほどに、反発力と共に『淡白だが力強い海の旨味(タコの甘み)』が、じゅわっ、じゅわっと染み出してくる無限湧きポイントだ!」
「美味い……! これは顎の力が試される『武闘派ご当地魔法(駅弁)』だ!」
甘辛く煮込まれたタコとは全く違う、素材の力に全振りしたような硬派な魔法体系。
「そして、下にあるこの出汁ご飯! タコの旨味だけでなく、おそらく他の海産エキス(鰹や昆布)のマナも融合させ、極めて上品で薄味の『和の結界』を構築している!」
タコを噛み、反発力を楽しみ、旨味が口に広がった最高のタイミングで、出汁の効いた優しいご飯をかき込む。
「このローテーションが、呉線車窓から見える『煌めく瀬戸内海と島々』の穏やかな景色と完璧にシンクロしているぞ!」
「……ふぅっ、ハァッ。完全なる制圧(大完食)だ!」
激しい咀嚼運動によって少しだけ疲れを感じながらも、私は心地よい満腹感と共に、桜色に染まっていた空箱をそっと閉じた。
「同じタコ(海魔)であっても、兵庫(淡路屋)は『甘辛い軟化の魔法』を用い、広島(浜吉)は『弾力を楽しむ武の魔法』を用いる。ギルドごとの解釈の違い……実に興味深い!」
海と山のアーティファクト。
肉、魚、タコ、植物。
私の冒険はいよいよ終盤に差し掛かろうとしていた。
「次が……真の最後の強敵となるだろう。なにしろ、肉でも魚でもない、『謎の巨大な菌の魔力スポンジ』なのだからな!」
勇者は再び山陰地方(鳥取界隈)へと最後の大移動を開始した。
かつてない未知の属性魔法との最終決戦に向けて。




