第121話:火と鉄の魔獣の中で食らう鶏魔法(山口線・かしわめし)
大和の国で、柿の葉を利用したエコで強固な大自然の結界(柿の葉寿司)に深い感銘を受けた私は、次なる絶景と魔法箱を求めて、商人ギルド『JR西日本』の管轄エリアの最西端近く……山口県へと一気にワープ(大移動)を行っていた。
「フスッ……。駅弁というアーティファクトを引き立てる最大のスパイスは『車窓からの景色』である。ならば、乗り込む魔導列車そのものの『クラス(特殊性)』を強烈に引き上げることで、さらなる極上のバフが得られるのではないか?」
その仮説を検証すべく、私が降り立ったのは山陽本線と山口線が交差する結節点、新山口駅であった。
駅のホームに鳴り響く、耳をつんざくような甲高い汽笛の音。
「おおっ! 来たぞ!」
黒き鉱石(石炭)を貪り食い、腹の中で轟々と炎を燃やし、白い雲(蒸気)を吐き出しながら突き進む、火と鉄の魔獣……!
「巨大なる蒸気機関車! 『SLやまぐち号』だ!」
近代的なモーター(雷属性の魔法)で走る列車とは全く違う、原始的で暴力的な生命力を感じさせるその魔獣の胎内(客車)へと、私は意気揚々と乗り込んだ。
そして私の手には、このノスタルジックな魔獣の旅に最も相応しいアーティファクト『かしわめし(鶏めし)』がしっかりと握られていた。
ガクンッ!という重厚な衝撃と共に、魔獣(SL)がゆっくりと走り出す。
窓から微かに吹き込んでくる、石炭が燃える香ばしい匂いと煤の香り。
「素晴らしい雰囲気だ。現代のクリーンな魔導列車にはない、この『泥臭いロマン』のバフ! さあ、この最高のフィールドでいただく駅弁は……!」
私は、レトロな掛け紙に包まれた長方形の箱を開封した。
「おおっ! これまた見事な……『大地の色(茶色)』一色ではないか!」
近江牛のような暴力的な牛肉ではなく、出汁と醤油で甘辛く炊き込まれた『コカトリス(鶏・かしわ)』のそぼろと、細切れの肉陣形。それが、全体を覆い尽くすように茶色のご飯(かしわ飯)の上に敷き詰められている。
「いざ、実食ッ!」
魔術スティック(箸)を使って、ホロホロに崩れる鶏肉と、そのエキスを限界まで吸い込んだご飯を同時に口へと運ぶ。
「……モムッ!」
「……うッ、美味ぁぁぁい!」
「牛肉のような重厚な脂(重さ)はない! その代わり、鶏特有のアミノ酸(旨味成分)が、おびただしい量でコメの芯まで完全に注入されているぞ!」
錦糸卵の黄色い魔法が、醤油ベースの濃い味付けを優しくマイルドな癒やしへと中和していく。
『ポォォォォォーーッ!!』
山口線の険しい山間部へと差し掛かり、SLが力強く汽笛を鳴らして斜面を登り始める。
「ガハハハハッ! 燃やせッ、燃やせ! 魔獣が石炭を燃やして突き進むように、私もこの極上の『かしわ(鶏)マナ』を全力で燃やし、胃袋の隅々へと巡らせてやるぞ!」
煤の匂い、木々の緑、そしてどこか懐かしい醤油と鶏の甘い香り。
この『かしわめし』というアーティファクトは、最新鋭の新幹線や光り輝くカフェで食べるものではない。
こういう泥臭く力強い旅の途中で、風に吹かれながらガツガツとかき込むように食べるのが正解なのだ。
「……ふぅっ、ハァッ。完全なる制圧(大完食)だ!」
津和野の駅が見えてくる頃、私は一粒の米も残さずに空箱を平らげ、心地よい疲労感と強大な満腹感に支配されていた。
「完璧な環境ボーナスであった。やはり、食べるという行為は『どこで、何を見ながら食べるか』で魔法(ステータス回復)の効力が数倍に跳ね上がるのだな!」
火と鉄の魔獣(SL)による最高のバフ魔法を堪能した私は、この勢いのまま、次なる山の超大物アーティファクトへの挑戦を決意した。
「よし! 次は黒き王牛(但馬牛)が待ち構える、兵庫の山奥……播但線エリアへと駒を進めるぞ! さらに険しい結界を越えるための、極厚の肉陣形だ!」
勇者は煙の匂いを服に染み込ませながら、次なる肉魔法を求め、軽快に次の列車へと乗り継ぐのであった。




