第117話:木枠と竹の円形圧力結界に圧し潰された桃色の魔魚(高山本線・ますのすし)
福井にて、カニの魔力(カニ味噌と赤こん)をご飯の芯まで炊き込ませた熱の結界(越前かにめし)を完食した私は、さらに商人ギルドの路線網を伝って北上し、日本海の最終防衛ラインとも言える富山の地へと到達していた。
「フスッ……。駅弁という名の魔法箱には、本当に限界というものがない。特急列車の車窓から流れる景色のおかげで、私のHPゲージ(満腹度)は驚異的な速度で回復を続けている」
次なるターゲットは、この富山の地において数百年もの歴史を持つとされる、極めて特異な『物理的圧力魔法』を施されたアーティファクトである。
「その名も『ますのすし(源)』。……さあ、その姿を見せてみろ!」
富山駅の駅弁ギルド(源)で買い求めたそのパッケージを見て、私は唸り声を上げた。
「なんと頑丈な……! これは弁当箱(ただの容器)ではない!」
それは、分厚い木の曲げわっぱ(円形の木枠)の上下を、太い青竹の棒で物理的に挟み込み、さらに強靭なゴムバンドでガチガチに固定した『超過酷な圧力容器』であった。
「中に入れた食材が腐敗しないよう、空気を完全に遮断し、限界まで物理的圧力をかけ続けるという強硬手段! これを開封するためには、まずこの竹の封印(物理ロック)を解除せねばならないのか!」
「ふんッ!!」
私はゴムバンドを引きちぎるように外し、上下の竹の棒(ロック機構)を解除した。
木枠の蓋を取ると、そこにはまた別の魔法陣が展開されていた。
「今度は幾重にも重ねられた『緑の笹の葉(大自然の抗菌結界)』か! どこまで厳重に封印されているのだ!?」
私は、その笹の葉を一枚、また一枚と、まるで儀式のように広げていった。
「……おおおおおッ!! 美しいッ!」
笹の葉を開ききったその中心には、一分の隙もなく完全に押し潰されて円形を描く、鮮やかな『桃色に輝く魔魚』の巨大な一枚肉が横たわっていた。
「魔術短剣の出番だな」
私はケーキを切るように、その桃色の円盤に十字の斬撃を加えた。
「……ッ!! なんだこの手応えは!? 上の魔魚と、下敷きになっている白飯(酢飯)が、一切分離していないぞ!」
数日にも及ぶ長時間の物理的圧力(竹の力)により、マスとご飯は完全に接着し、全く新しい『一つの完全な魔法物質』へとフュージョンを遂げていたのだ。
「いざ、実食ッ!」
私は切り分けた扇状の一切れを掴み、そのままガブリと噛みついた。
「モニュッ……! ……ああっ!」
「……美、美味ァァァァァァいッッ!!!」
マス特有の豊かな脂の甘みが、笹の葉の涼やかな香りと共に口の中に広がる。
そしてそれを迎え撃つ酢飯は、押し潰されているため異常なほど高密度(米粒がピッチリと整列した状態)でありながら、決して硬すぎず、口の中でホロリとほどけていった。
「強烈極まりない圧縮魔法! これにより、マスの脂が米の一粒一粒に微塵の隙もなく浸透している。これはもう『ご飯に乗せた刺身』ではない! 『鱒という名の新たな完全食』だ!」
さんま寿司の爽やかさとも、吾左衛門鮓の肉厚な重さとも違う。
極限まで圧縮されたことで生まれる、究極のステータス密度がそこにあった。
「ガハハハッ! 美味いぞ! だが……この高密度圧縮防壁(ご飯)、見た目以上に腹にズシリと来るな!」
富山の自然が育んだ究極の保存アーティファクト。
流れる景色バフを利用してもなお、この圧縮質量を受け止めるには少々の時間が必要であった。
「……ふぅっ。制圧(完食)完了だ。見事な腕力(圧力)であった!」
笹の葉の匂いを残した木枠だけが、トレイの上に静かに転がっている。
「日本海の力は、十分に堪能した。よし……次は一気に南下し、瀬戸内海へと向かうぞ! 明石海峡の近くに、弁当箱ですらない『本物の陶器(牢獄)』に海魔を封じ込めた狂気のアーティファクトがあるというからな!」
勇者は満足げに竹の棒を弾き、次なる標的……あの有名な『タコ』の魔導トラップを目指して、再び特急列車の大地へと身を躍らせるのであった。




