第116話:真紅のカニ型プラスチック・アーティファクト(北陸本線・越前かにめし)
山陰の地で、漆黒の極厚海草結界(吾左衛門鮓)という見事な保存魔法を打ち破った私は、特急列車を乗り継いで一気に北上し、再び恐竜が眠る地……福井県(北陸本線エリア)へと進入していた。
「フスッ……。鳥取で出会った『元祖かに寿し』は、八角形の美しい陣形の中に封じられた、極上の『酢魔法』であった」
だが、この北陸の福井に存在するカニ特化型アーティファクト(駅弁)は、山陰のそれとは全く毛色の違う進化を遂げているという。
「酢による清涼な魔法ではなく、より力強く泥臭い『熱の錬金術(炊き込み)』が施されているというのだ。さあ、見せてもらおうか!」
福井駅のギルド(番匠本店)でその弁当を手に入れた私は、関西と北陸を結ぶ特急『サンダーバード』の座席へと身を沈めた。
「むっ……! これは……!」
私はトレイの上に置いた弁当箱を見て、思わず言葉を失った。
「真紅の……魔獣の形そのもの(カニ型プラスチック容器)ではないか!!」
八角形の洗練された陣形とは真逆である。
それは、カニ(ズワイガニ)の造形をそのまま真っ赤なプラスチックで成形した、あまりにも直球で、ともすれば安っぽくすら見える強烈な呪具(おもちゃのような容器)であった。
「フハハハッ! なんと凶悪で露骨なヴィジュアル! これぞご当地魔法結界の醍醐味だ!」
私はその『プラスチック製の偽装甲(蓋)』を、力任せにカパッと取り外した。
「おおっ!? なんだこれは……ご飯結界の色が、鳥取の時とは全く違うぞ!」
中にはカニの解し身が敷き詰められているが、その下にあるのは真っ白な酢飯ではなかった。
それは、薄暗い茶褐色に染まり上がった『炊き込みご飯の地層』であった。
「……なるほど! メスガニ(セイコガニ)の卵巣(赤こん)やカニ味噌(脳髄の毒)を、米と一緒に極限まで炊き込んだ、『特濃カニ出汁マトリックス』というわけか!」
「いざ、実食ッ!」
私は茶色いカニ飯を、上に乗った身もろとも大きくすくい上げて口に運んだ。
「……モギュッ! ほわぁぁぁッ!!」
「美味ぁぁぁぁぁぁいッ!!! なんだこの重厚な旨味は!」
酸味のない、完全に『熱属性と出汁の暴力』に振り切った濃厚なコク!
「カニ味噌の泥臭さと、卵(赤こん)のプチプチとした食感が、ご飯の芯まで完全に一体化している! カニという素材を『保存』するのではなく、完全に『爆発』させるための最強の炊き込み陣形だ!」
「ガハハハッ! 箸が止まらん!」
特急サンダーバードが北陸の広大な平野を疾走する中、私は無我夢中でこの真紅の呪具(プラスチック容器)の中を掻き回していた。
鳥取のカニ寿しが「エレガントな酢の魔法」だとするならば、この越前かにめしは「泥臭く力強い炎のバフ」である。
「酢の清涼感がない分、HP(胃袋)にダイレクトに重み(カロリー)が蓄積していくのがわかる……。だが、車窓から見える雄大な白山の風防属性が、見事に私の消化器官をサポートしてくれているぞ!」
流れる景色は、駅弁の最強のスパイスであった。
私は次々と茶褐色の魔力結界を噛み砕き、我が血肉へと変えていった。
「……ふぅっ、ハァッ。完全なる制圧(完食)だ!」
真紅のプラスチック容器をピカピカの空にした私は、満足げな吐息を漏らした。
「同じ魔獣を素材にしても、地域が変われば全く異なるアプローチの魔法が生まれる。これだから、動く魔法箱(駅弁)巡りの冒険はやめられないな!」
熱く重厚なカニ魔法の効果で、私のステータスは完全に限界値でキープされている。
「よし、このまま特急列車でさらに東(北上)へ向かおう。……富山の地に、極限の物理的圧力(プレス魔法)をかけられた『桃色の魔魚』が眠っているというからな!」
特急サンダーバードは、満腹の勇者を乗せていよいよ日本海の最終防衛ライン……富山へと向かって疾走を続けるのであった。




