第115話:漆黒の海草結界に護られたサバの長装甲(伯備線・吾左衛門鮓)
鳥取駅にて、八角形の魔導陣に封印された『究極のカニの旨味(かに寿し)』を平らげた私は、そのまま山陰本線を西へと進み、鳥取県西部の最大ギルド……米子へと辿り着いていた。
「フスッ……。海の幸と山の幸が交差する商業都市・米子。ここから特急『やくも』に乗り継げば、中国山地(伯備線)を越えて岡山方面へと抜けることができる」
山越えという過酷なルートに挑む前には、当然、強力な回復アイテムの調達が不可欠である。
私は米子駅の弁当屋(道具屋)で、一際重厚で威厳のある長方形の箱……『吾左衛門鮓』を手に入れ、振り子式特急『やくも』へと乗り込んだ。
特急列車が山間部へと差し掛かり、独特のカーブで大きく車体を傾かせ始めた頃。
私は膝の上に置いた威厳ある箱の封印を解いた。
「……むっ? これは……!」
箱の中から現れたのは、これまでの海産弁当のような「ご飯の上にほぐした身が乗っている」形状の魔法陣ではなかった。
「真っ黒だ! 丸太のように極太のご飯(白き防壁)の上に何かの魚が乗っているようだが、その全体が分厚く漆黒な『謎の海草(昆布)』の結界によって、ぐるぐると何重にも強固にラッピングされているぞ!」
「防御力が高すぎる! 中の具材のマナ(匂い)すら一切外に漏らさない、完璧な封印結界だ!」
通常、関東(東の国)の冒険者であれば、「この黒い皮(昆布)を剥がして中身を食べるべきか?」と迷うほどの分厚さである。
しかし、私の鑑定魔法は正解を告げていた。
『否。この海草結界こそが、このアーティファクトの要である。結界ごと食い破れ!』と。
私は備え付けのプラスチック・ナイフ(小さな魔術短剣)で、その漆黒の丸太を分厚く輪切りにした。
「おおっ! 断面からついに現れたな! 丸々と太った銀色の背中……極厚のサバ(魔魚)の肉体が!」
「いざ、実食ッ!」
切り分けた最も太い一切れを、私は昆布ごと一気に口内へと放り込んだ。
「……モムッ……! ゴクリッ……ンンンッ!」
「……ガハァァァァァッッ!!!」
私は衝撃のあまり、特急やくもの激しい縦揺れも忘れてのけぞった。
「昆布の旨味(超高濃縮グルタミン酸)! この黒き防壁が口の温度で溶け出すと同時に、絶妙な酢加減で締められた極厚のサバの脂(イノシン酸)と合体し、とんでもない相乗効果(旨味のフュージョン爆発)を起こしているぞ!」
「美味い……! さんま寿司の爽やかな斬撃とは全く違う。こちらは『重戦士』だ!」
サバの身の分厚い物理的ボリューム感。
そしてそれをギリギリまで引き締める酢と、昆布結界の強力な味付け。
この重厚なる攻防戦の全てを、最下層の酢飯(白き大地)ががっちりと受け止め、米という名の安定したHPへと変換していく。
「特急やくもの揺れ……中国山地の起伏の激しい風景……! この過酷な道行きを乗り越えるためには、これくらいガツンと腹に来る極上のステータスバフが必要不可欠だ!」
昆布という海草の持つ『出汁の魔力』を、液体ではなく個体のまま直に食らう。
米子に伝わるこの究極の保存食は、私を完全に虜にしていた。
「……ふぅっ、ハァッ。完全なる制圧(完食)だ!」
漆黒の丸太を全て切り刻み、余さず胃袋に収めた私は、サバと昆布の力強い余韻を反芻しながら、伯備線の車窓から見える緑深い山々を眺めていた。
「肉厚なサバの脂を、昆布と酢が完璧に中和する……。やはり、駅弁(携帯型ポーション)の世界における『酸味結界』の汎用性は凄まじいな」
この戦法ならいける。私の限界はまだまだ先だ。
「よし、中国山地を無事に越えたら、再び日本海側……福井へとワープ(移動)するぞ! そこには、真紅の魔獣の形を模した不気味な呪具が存在するというからな!」
勇者の終わらない鉄道クエストは、さらに奇抜な造形の魔法箱を求めて、休むことなく次なるポイントへと向かうのであった。




