第113話:黒き王牛の濃密な肉魔法(琵琶湖線・近江牛大入飯)
「フスッ……。海の結界(さんま寿司)は素晴らしく軽く、胃袋を完全に浄化してくれた。これで重い肉魔法を受け入れる準備は整ったぞ!」
紀伊半島から商人ギルド『JR西日本』の大動脈へと舞い戻った私は、特急列車を乗り継ぎ、近畿の水瓶……巨大な淡水結界『琵琶湖』を擁する滋賀県へと到達していた。
この地における最大の交通の要衝、米原駅。
「この地には、古くから旅人や武将たちの体力を支えてきた『黒き王牛(近江牛)』を使った強力な肉のアーティファクト(駅弁)が存在するという!」
私は駅構内の弁当ギルド『井筒屋』に赴き、数ある召喚獣(弁当)の中から、一際堂々たる威厳を放つ『近江牛大入飯』を買い求めた。
そしてそのまま、北陸の地へと向かう特急『しらさぎ』へと乗り込み、窓際の陣地(指定席)を確保した。
「さあ! 列車の疾走感(風属性のバフ)と、窓の外に広がる琵琶湖の美しき水属性の癒やし効果! これら全てのフィールド効果を利用して、最強の王牛を喰らってやる!」
私は膝の上にその重厚な長方形の箱を置き、恭しく蓋(封印)を開け放った。
「おおおおおっ!! なんという茶色き覇気!!」
蓋を開けた瞬間、醤油と砂糖、そして上質な牛肉の脂が煮詰まった『甘辛き魔道ソース(すき焼き風のタレ)』の極上の香りが立ち昇った。
箱の中は、隙間など1ミリも存在しない。
一面に敷き詰められた茶褐色の防壁……すき焼き風に柔らかく煮込まれた『黒王牛(近江牛)の肉』が、ご飯の存在を完全に隠匿しているのだ。
「これだよ、これ! 小魚のサッパリとした剣撃も良いが、勇者の胃袋(HP)を爆発的に底上げするのは、やはりこの暴力的な肉の魔法だ!」
「いざ、実食ッ!」
魔術スティック(箸)を深々と肉の層へ突き立て、下層に隠されたご飯ごと豪快に掬い上げる。そして、口論へと放り込む。
「……モギュッ! ジュワァァァァッ!!」
「美味ぁぁぁぁぁぁいッッ!!!」
「驚異的な柔らかさ! 牛の脂身が、口の温度(熱属性)だけで瞬時に融解し、甘き特製ダレと共に旨味の激流となって脳内を駆け巡るぞ!」
肉自体が極上の魔法素材(近江牛)であるがゆえに、しつこさや臭みが全くない。
ただ純粋な「最高峰の肉の旨味」だけが抽出されている。
「むっ!? この下のご飯(白き土台)……。ただの白飯ではないな!」
肉の圧倒的火力に気が引かれていたが、肉を支えるご飯自体が、うっすらと茶色く染まっていることに気付いた。
「なんという芸の細かさ……! あらかじめ、牛肉の出汁を使って炊き込まれた専用の『属性付与ライス』になっているではないか!」
上に乗った肉から染み出したタレだけではない。
ご飯そのものが「牛の風味」を内包しているため、肉と一緒に食べた時のシンクロ率(親和性)が異常なまでに高められている。
「完全なる肉の包囲網……! これは琵琶湖の景色(癒やし)を見てのんびり消化している場合ではない。本能に従って、ガツガツと喰い尽くすべき武闘派の駅弁だ!」
「……ふぅっ、ハァッ。完全なる制圧(大完食)だ!」
特急しらさぎが福井県に差し掛かる頃には、私は箱を一粒の飯も残さずに空にしていた。
「風景による消化バフ効果……たしかにある。だが、それ以上にこの黒王牛(近江牛)の持つ絶対的な引力(美味さ)が、私の顎の動きを強制的に加速させていた!」
車窓をぼんやりと眺めながら、重厚な肉の魔法によって限界ギリギリまで膨れ上がった胃袋をさする。
「これほどの強力な肉魔法の後は、日本海の恐るべき魔獣たち(カニ等)の力を借りるしかなかろう」
私は次なる魔法の箱(携帯アーティファクト)と出会うため、商人ギルド『JR西日本』の特急網をさらに西へ……山陰ルート(鳥取方面)へと舵を切るのであった。




