第109話:甘き幻を放つ三日月型の結界(山陽本線・バナナロール)
神戸が生み出した『白き煉瓦(食パン)』に潜む赤い泥沼(大量のあんこ)の凄まじい物理的質量に胃袋を痛打された私は、商人ギルド『JR西日本』の山陽ルートをさらに西へと突き進んでいた。
「フスッ……。パンという形状であれば軽い、というのは明らかな私の誤認(慢心)であったな。油断すると、確実に丼(米)以上のダメージを受ける」
しかし、次なる私の目的地は『岡山』である。
「岡山といえば、桃やマスカットが豊富に実る果実(自然魔法)の国! パンの中に仕込まれる素材がフルーツ由来ならば、間違いなく消化に優しい回復アイテムとなるはずだ!」
私は淡い期待を胸に、岡山駅構内(あるいは周辺エリア)で幅を利かせている巨大なローカル・パン・ギルドへと歩を進めた。
「その名も『岡山木村屋』か! 頼む、このギルドで最も愛されている果実魔法を私に供せよ!」
店員から手渡されたのは、黄色いパッケージに包まれた細長い三日月型のパンであった。
「バナナロール……。バナナか! 南国の強烈な太陽光(光属性魔法)をたっぷり浴びた、滋養強壮の極致のような果実! それをフワフワのパンで包むとは、完璧な癒やしの陣形だ!」
あの柔らかなバナナの果肉が丸ごと包まれているのか、それともスライスされているのか。
私はワクワクしながら、その封印を破り開けた。
「……おおっ! 開けただけで、むせ返るような強烈なバナナの甘い香りが漂ってきたぞ!」
「いざ、実食ッ!」
私は白くてフワフワな三日月型の結界の端っこへと、大きく噛みついた。
「モフッ……! ……んんっ??」
パン生地の柔らかさは期待通りだった。
しかし、内部に包まれていた具材の正体に、私は思わず目を丸くした。
「バカな! バナナの香りは尋常じゃないほど強いのに……バナナの果肉(物理的実体)がどこにも存在しないではないか!」
私の舌に触れたのは、果肉特有のねっとりとした食感ではなく、驚くほど滑らかで甘い『特製の白いクリーム』であった。
「フハハハッ! 騙されたッ! これは本物の果実ではない!!」
岡山木村屋の錬金術師たちは、本物のバナナを使うという単純な物理魔法(足し算)には頼らなかった。
彼らは独自のクリームに『バナナの極上の香り(幻影魔法)』だけを強烈に付与することで、食べ手を完全に「バナナを食べている」と錯覚させる高度な幻術を完成させていたのだ。
「す、すごいぞこのクリーム! 滑らかな舌触りでありながら、本物のバナナ以上の『バナナらしさ(超濃厚なマナ)』を脳(味覚センサー)に直接叩き込んでくる!」
柔らかいコッペパンと、この幻惑のバナナクリームの相性は、まさしく悪魔的であった。
「モニュ、モムモムッ!」
「美味い……! 本物のバナナよりも遥かに軽く、口の中でスーッと溶けていく。だが、果特有のサッパリ感の代わりに、クリームがもたらす『暴力的な甘さの余韻(重厚なカロリーバフ)』がいつまでも舌に残るぞ!」
フルーツならば胃へのダメージも少ないだろう、という私の甘い目論見は見事に打ち砕かれた。
このバナナロールに詰まっているのは、純粋な『糖分とクリーム』という、米とは全くベクトルの違う『小麦と脂』特有の重力(質量)であった。
「ローカルパンの洗礼……! 一見安っぽく素朴な顔をしておきながら、その中毒性とカロリー量は、S級の魔獣クエスト(メインディッシュ)に匹敵する!」
「……ふぅっ、ハァッ。完全なる制圧(大完食)だ!」
三日月型の結界を全て胃袋に収めた私は、クリーム特有のズシリとした重さを腹に感じながらも、その幻惑的な甘さの余韻に酔いしれていた。
「本物を凌駕する幻影魔法……。素晴らしい錬金術であった!」
岡山の地の果実信仰(バナナへの憧れ)が生み出した、極上のフェイク・ポーション。
「だが、甘味の連撃で私のHPゲージ(満腹度)は既に80%を超えようとしている!」
私は額の汗を拭いながら、次なる甘き魔法の花が咲く特異点……山陰本線ルート(島根・出雲エリア)への過酷な道行きの準備を急ぐのであった。




