第107話:白壁に挟まれた黄金の分厚きクッション(大阪環状線界隈・厚焼き玉子サンド)
京都府民の誇るシンプルかつ極上の円盾を軽々と平らげた私は、商人ギルド『JR西日本』の管轄する大動脈を下り、再び巨大迷宮都市・大阪へと足を踏み入れていた。
「フスッ……。さすがに少し疲れたな。このネオンと欲望が渦巻く街で、静かに休息を取れるギルドはないものか」
私が迷い込んだのは、喧騒から少し離れた路地裏にある『純喫茶』と呼ばれる古い回復ギルドであった。
薄暗い照明とベルベットの椅子。そしてマスターと呼ばれる老練の錬金術師が静かにコーヒー(黒き覚醒ポーション)をドリップしている。
「素晴らしい。ここで極めて一般的な軽食を頼み、静かにHPを回復させるとしよう」
私は、東の国(トウキョウ等の関東圏)の冒険者たちから一般常識として教えられていた『玉子サンド』をオーダーした。
「固茹でした卵(ゆで卵)を細かく砕き、マヨネーズという泥沼で和えたものをパンで挟む……。攻撃力こそ低いが、安定した回復量を持つ初心者向けの魔法だな」
だが、ここは魔都・大阪である。
マスター(錬金術師)の背後からは、ゆで卵を砕く音ではなく、明らかに『フライパンで何かを豪快に焼く音(ジュワァァッという火属性魔法)』が響き渡ってきたのだ。
「……むっ? サンドイッチのはずなのに、なぜ火属性の魔法陣形を展開しているのだ!?」
数分後。私の前に召喚された皿を見て、私は我が目を疑った。
「な、なんだこれはぁぁぁッ!!」
思わず叫びそうになるのを、ギルド内の静寂な空気を察して必死に飲み込んだ。
私の目の前にあるのは『ゆで卵のペースト』などではない。
「分厚い! 分厚すぎるッ! 真っ白な食パン(白壁の防壁)の間に挟まれているのは、今まさに焼き立てで湯気を上げている、巨大で分厚い『黄金色のオムレツ(厚焼き玉子)』ではないか!」
一切の隙間なく、限界まで空気を含ませてふんわりと分厚く焼き上げられた黄金の結界。
それが見るからに柔らかい白刃(食パン)に挟み込まれ、自重でプルプルと震えている。
「関西圏の『玉子サンド』とは、これを指すのか! なんて攻撃的なヴィジュアル(魔力放射)だ!」
「いざ、実食ッ!」
私は分厚い玉子サンドを両手で丁寧に持ち上げ、大きく口を開けてその白き城壁と黄金のクッションとに同時に嚙みついた。
「……むぐっ! アッツゥゥゥッッ!!!」
パンは常温だが、中に挟まれている黄金のクッション(厚焼き玉子)は完全に焼きたての灼熱状態!
そして、歯を立てた瞬間にそのクッションからは、たっぷりと内包されていた『出汁(水属性の回復エキス)』の手痛い反撃が飛んできたのだ!
「フハハハッ! 美味いッ! 卵の甘味を抑え、完全に関西特有の『ダシの旨味』にステータスを全振りした強靭な結界魔法だ!」
「だが、ただ熱くて美味いだけではないぞ!」
出汁の効いた分厚いオムレツと、柔らかな食パン。その二つを繋ぐ接着面(パンの裏側)に、恐るべき伏兵が潜んでいた。
「……うむっ! バターの濃厚な油分……いや、違う! このツンとした鋭利な物理的斬撃は……『辛子(和製マスタード)』だ!」
分厚い玉子の圧倒的なボリュームに飽きが来ないよう、パンの片面に薄くマヨネーズと「練り辛子」の魔薬が塗られているのだ。
「素晴らしい! 出汁の優しさに包まれた直後、この辛子が鼻の奥をツーンと貫き、私の意識(食欲)を強制的に再覚醒させてくる!」
ただの軽食のつもりだったが、卵を何個も使ったこの黄金のクッションは、見た目以上にズッシリとした質量(強カロリー)を私の胃袋へ叩き込んでくる。
「……ふぅっ、ハァッ。完全なる制圧(大完食)だ」
黒き覚醒ポーション(コーヒー)と共に、最後の一切れの厚焼き玉子を胃袋へと封印した私は、喫茶ギルドのソファに深く沈み込んでいた。
「これだよ。たかがタマゴ、たかがパン。だが、そこに『出汁』と『熱』という魔法を加えるだけで、これほど重厚でリッチな回復アイテムへと変異するとは……!」
柔らかなパン(防壁)の中に隠された、火傷しそうなほど分厚い出汁の結界。
関西の魔導士たちの洗練された技術に舌を巻いた私は、次なるパン魔法を求めて、このまま西の港町……兵庫・神戸の地へと向かうことに決めた。
「そこには、さらに重い『泥沼』を隠し持った騙し討ちパンが存在するというからな……!」




