第106話:異国騎士のシンプルな円盾(京都線・カルネ)
北陸本線の木之本で、パンの中に潜む『たくあん』という黄色き伏兵の奇襲を受けた私は、商人ギルド『JR西日本』の路線を使って再び静かなる古都……京都へと舞い戻っていた。
「フスッ……。和食と出汁の国、京都。だが私の『鑑定眼』によれば、この都市の冒険者(府民)たちは、全国でもトップクラスの『パン(小麦)』消費量を誇るという」
雅なる大和の国でありながら、異国の錬金術(パン作り)を極限まで洗練させているという特異な魔法都市。
私は京都駅の構内(地下深く)に陣取る、極めて巨大かつ影響力を持つ強力なパン・ギルドへと足を踏み入れた。
「その名も『志津屋(SIZUYA)』! 頼む、このギルドが誇る最強にして最もシンプルな防具……『カルネ』を私に供せよ!」
私の手に渡されたのは、透明な袋に封印された、一つの丸っこいパンであった。
「……ほう。これは……」
表面には砂糖のコーティングもなければ、派手な装飾魔石(フルーツ等)も乗っていない。
少し硬そうな質感を持った、ただの素朴な丸いフランスパン(カイザーロール)。
それはまるで、異国の地からやって来た誇り高き騎士が腕に装備している『装飾ゼロのシンプルな円盾』のような美しいフォルムをしていた。
「素晴らしい! サラダパンには不覚を取ったが、これならば間違いなく『ただの軽い軽食(癒やし)』として食べられるはずだ!」
私は安堵し、その丸い騎士の盾を袋から取り出した。
「いざ、実食ッ!」
「……バツンッ!!」
噛みちぎった瞬間、私の歯はフランスパン特有の『強靭な物理装甲(引きのある硬さ)』に阻まれ、心地よい抵抗感を生み出した。
「さすがは騎士の盾! だが……な、なんだこの内部から溢れ出す濃厚なマナは!」
パンに挟まっていたのは、ごく薄いハムと、薄切りの生タマネギだけ。
しかし、そのパンの裏側の全面に、信じられないほどリッチで塩気のある『特製魔導オイル(オリジナルマーガリン)』がたっぷりと塗り込まれていたのだ!
「フハハハッ! このマーガリンのコク! ただのパンを一瞬にして『極上のごちそう(超回復アイテム)』へと変異させる、恐るべきバフ効果だぞ!」
マーガリンの濃厚な旨味と、ハムの持つ獣の塩気。
このままでは口の中が脂(重いマナ)で飽和してしまうかと思った、その時であった。
「シャキッ! シャクシャクッ!!」
「……ッ!! なんだ!?」
突如として、口の中に鋭利な『水属性の物理斬撃』が走った。
「生タマネギの凶刃だ! 一切火の通っていない、生のタマネギの辛味と水気が、マーガリンの脂っこさをたった一撃で完璧に切り裂き、口内をリセットしてしまったぞ!」
ハム、マーガリン、そして生タマネギ。
たったそれだけの最少人数のパーティ構成でありながら、これほどまでに完璧な攻防一体の陣形が組めるとは!
「フスッ……。見事な魔法回路だ」
京都といえば、豪華絢爛な懐石や、甘く色鮮やかな和菓子(和装の魔法陣形)が有名である。
しかし、府民たちが日常的に食すこのパンの中においては、過度な装飾を一切許さない『引き算の美学』が極限まで貫かれていた。
「モギュ……シャキッ……ジュワァッ……」
適度な硬さのパンを噛みしめる度、タマネギが弾け、マーガリンが溶け出す。
「無限だ。派手さがない分、まったく飽きが来ない! これは一度食べ始めたら最後、日常のルーチンワークとして完全に魂(胃袋)を支配される類の『呪縛アイテム(ソウルフード)』だ!」
京都の民は、静かに、そして確実にこの最強の円盾を毎日噛み砕き、その高いステータスを維持しているのに違いない。
「……ふぅっ。完全なる制圧(完食)だ!」
ペロリとカルネを平らげた私は、その洗練された軽やかな防御結界の美しさに感嘆の息を漏らしていた。
「素晴らしい。まさしく羽毛のように軽く(少しマーガリンのカロリーはあるが)、次の冒険への活力を与えてくれる極上のポーションであった!」
これなら、まだまだ連戦がいける。
「よし、次なるパン魔法を求めて、再び巨大迷宮都市・大阪へと向かおう! あの街のご当地パンならば、きっとド派手な魔法で私を楽しませてくれるはずだ!」
完全に軽装モード(おやつ気分)へと切り替わった勇者は、大阪で待ち受ける『火傷しそうなほど分厚い黄金の鈍器』の存在を知る由もなく、軽快な足取りで京都を後にするのであった。




