第105話:柔らかな枕に隠された異端の黄色き根(北陸本線・サラダパン)
福井の地でソースとカツと白飯の極限バトル(ソースかつ丼)を制覇し、HPゲージを限界まで跳ね上げさせた私。
だが、度重なる『炭水化物』による物理的な重量攻撃の連続に、私の食欲魔神も少しだけ戦術の変更を要求していた。
「フスッ……。米(白き大地の防壁)は素晴らしい魔法陣形だ。しかし、いささか質量が重すぎる」
そこで私は、商人ギルド『JR西日本』の管轄エリア内に存在する、もう一つの炭水化物に着目した。
――『パン(小麦の結界)』である。
「パンならば、その内部の半分以上は『空気』! 風属性の魔法をまとった羽毛のように軽いおやつ(回復ポーション)として、気楽に連戦をこなせるはずだ!」
私はこの時、日本のご当地パン特有の『騙し討ちの超質量トラップ』の恐ろしさを全く理解していなかった。
軽き羽毛を求めて、私がまず最初に降り立ったのは、広大な淡水結界(琵琶湖)を有する滋賀県の北部。
北陸本線の『木之本』という静かな魔導市街地であった。
「事前調査によれば、ここには『つるやパン』という歴史あるパン・ギルドが存在する。そして、その筆頭魔法が『サラダパン』だという」
サラダ。なんと平和で美しい響きだろうか。
「素晴らしい! 重厚な肉や脂ではなく、レタスやトマトといった『緑の草属性魔法』を挟み込んだパン! 荒れた胃袋を癒やすための完璧なチョイスだ!」
私はギルドに飛び込み、黄色と緑文字のレトロな紙袋に封印された『サラダパン』を意気揚々と買い求めた。
「さあ、見せてもらおうか! 滋賀の大地が育んだ、癒やしのフレッシュ・グリーン(野菜)の輝きを!」
私は紙袋の封印を解き、中から現れたふっくらとしたコッペパン(柔らかなクッション結界)をパカッと開いた。
「……むっ?」
私の思考回路が、一瞬だけ硬直した。
「……草(緑)が、ない……!? 赤もない!?」
パンに挟まっていたのは、新鮮な生野菜などではなかった。
白濁した謎の泥沼の中に、大量の『黄色く細かい物体』が刻み込まれて塗られていたのだ。
「サラダと名乗っていながら、この黄色い物体の正体はなんだ!? 得体の知れない錬金術の気配がするぞ……!」
「ええい、毒を食らわば皿までだ! いざ、実食ッ!」
私はそのフカフカのクッション(コッペパン)へと噛みついた。
「……フワッ……」
「さすがはパン! 空気を取り込んだ完璧な無重力防壁!」
だが、その直後だった。
「……コリッ! シャクシャクシャクッ!!」
「な、なんだとォォォッ!!!」
口の奥底で、極めて硬質でリズミカルな物理的斬撃(歯ごたえ)が炸裂したのだ!
「塩気と酸味!? これは……野菜は野菜でも、完全に干からびて漬け込まれた『異端の根菜』……すなわち『たくあん(大根の漬物)』ではないか!」
「バカなッ! たくあん(漬物)といえば、本来は白き防壁(ご飯)のお供として召喚されるべき和の魔法素材だ!」
それがなぜ、洋のマナである『パン』の中に、しかもマヨネーズという強烈な油の泥沼と混ざり合って潜んでいるのだ!?
「騙し討ちだッ! サラダという爽やかな名前に偽装した、たくあんとマヨネーズの極めてジャンクで重厚な物理トラップッ!」
だが……。
「……フスッ、フハハハッ! 美味いッ!!」
不思議なことに、甘みのあるコッペパンと、酸味・塩気のある『たくあんマヨネーズ』の相性が、冗談のように完璧なシンクロ率(フュージョン度)を叩き出していたのだ。
「……コリコリッ、モギュモギュッ」
私はたくあんのクリティカルヒット(歯ごたえ)にすっかり魅了され、瞬く間にコッペパンを一つ平らげてしまった。
「ふぅっ。見事な魔法の連携であった。マヨネーズ特有の酸味が、たくあんのクセを完全にマイルドな包容力へと作り変えていたな」
おやつ気分で軽々と一つ討伐したものの、マヨネーズとたくあんのカロリーは確実に私の胃への『重み』となって蓄積されていた。
「どうやら、ローカルのご当地パンギルドを甘く見ていたらしい。ただの空気の塊ではない……奴らの背後には、米を凌駕するカロリーが隠されているやもしれん」
私は気を取り直し、次なるパン結界を求めて、商人ギルド『JR西日本』の管轄エリアをさらに南、京都の地へと向かうのであった。




