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第104話:漆黒の呪術液と黄金装甲(北陸新幹線・ソースかつ丼)

 山陰の冬が育んだ真紅の海の魔力(カニカニ丼)を堪能した私は、商人ギルド『JR西日本』の最新鋭の青き魔導列車……北陸新幹線へと乗り換え、一気に北東へと駆け抜けた。

「フスッ……。恐竜の化石が眠り、禅の修行僧たちが集う厳格なる国……『福井』か」

 京都、大阪、神戸、岡山、広島、鳥取と続いてきた『箱庭結界どんぶり』を巡る私の冒険も、いよいよこの北陸の地で最終局面ラストバトルを迎えようとしていた。

「様々な具材(魔法)が複雑に絡み合うのが丼の醍醐味ではある。……だが、最後に挑むべきは、一切の無駄をそぎ落とした『引き算の極致』とも呼べる究極の陣形だ!」


 私は福井駅周辺に位置する、西洋の香りを残した歴史あるギルド(ヨーロッパ軒などの老舗洋食店)へと足を踏み入れた。

「オーダーだ! この地におけるカツ丼の絶対的覇者……漆黒の呪術液に水没したという『ソースかつ丼』を私に供せよ!」

 やがて運ばれてきた蓋つきの丼。

 私はこれまでの連戦で研ぎ澄まされた集中力を高め、その重厚な蓋(封印)をそっと外した。

「……ッ!!」

 蓋を開けた瞬間、私の鼻腔を強烈に突き刺してきたのは、鼻の奥がツンとするような鋭い酸味と、油で揚げた香ばしさの混じり合った、暴力的なまでの『黒魔法ウスターソースの香り』であった。


「な、なんだこれは……!? これがカツ丼だというのか!?」

 京都で食べたような『黄金の卵結界』は一切存在しない。

 岡山のデミカツ丼に乗っていたような『茹でキャベツ(緑の自然魔法の緩衝材)』すら、一欠片も配置されていない。

「純白の防壁(ご飯)の上に……ただ三枚の、漆黒の極薄豚カツが直置きされているだけだと!?」

 それは異常な光景であった。

 極めて細かく挽かれたパン粉(黄金の衣)に包まれた薄切りのオーク(豚肉)の装甲は、揚がった直後に秘伝のウスターソースの池に完全にドブ漬け(水没)され、全身が黒光りしている。

 その真っ黒な肉塊だけが、純白のご飯の上にドカッ!と置かれているのだ。


「潔すぎる……! 一切の誤魔化しが利かない、ソースとカツと白飯だけによる『純粋なる殴り合い』の陣形ッ!」

 私は魔術スティック(箸)で、その黒光りする一番大きなカツを噛みちぎった。

「いざ、実食ッ!」

「……サクッ! ジュワ……! ……ンンンッ!」

「……う、美味ぁぁぁぁぁぁいッッ!!!」

 驚愕した。薄い肉だからこそ、細かいパン粉がソースの水分を完全に吸い上げながらも、絶妙な「サクッ」としたクリティカルヒットの食感を残している。

「そして、このソース! ただのウスターソースではない! 香辛料のスパイシーな風味が、豚の甘い脂と奇跡的な融合を果たし、強烈な化学反応(旨味の爆発)を起こしているぞ!」


 私はたまらず、カツの下に広がる『白き大地の防壁』へと突撃した。

「フハハハッ! やはりだ! これだけ強烈なソースの魔力が、下のご飯に染み出していないわけがない!」

 カツから滴り落ちた漆黒の呪術液は、白飯の表面をうっすらとした茶色ソース・ライスに染め上げている。

カツを食い、酸味の効いたご飯を食い、また肉を食らう! 途中で口内をリセットするための野菜(キャベツ等)すら必要ない。ソースの持つ『酸味』自体が、見事な口直しの役割(状態異常回復)を果たしているのだ!」

 卵で閉じるという「足し算の魔法」ではない。

 極限まで要素を削ぎ落とした「引き算の魔法」こそが、この福井のソースかつ丼の真骨頂であった。


「……ふぅっ、ハァッ。見事な、見事すぎる陣形であった……!」

 三枚のカツと、ソースに染まった最後のご飯粒を飲み干し、私は大きく息を吐いた。

 丼という器の中で完結する、白飯と魔獣の究極のフュージョン・バトル。

「卵で閉じたもの、どて焼きの泥沼、ステーキの豪勢、カニ味噌の毒……。どれも素晴らしい箱庭宇宙(ご当地丼)であった」

 だが、この福井のソースかつ丼のように、ただ「肉とソースと飯」だけで私を完膚なきまでに制圧したシンプルで強靭な結界は過去に例がない。

 商人ギルド『JR西日本』のエリア内に点在する、多様で奥深いどんぶり魔法の数々に、私は改めて深い敬意を抱いた。

「よし! 極上の炭水化物バフを何重にも掛けられた私は、今ならどんな強大な魔王でも一撃で葬り去れる気がするぞ!」

 胃袋に宿った強大なマナ(満腹エネルギー)を漲らせながら、私は次なる未知のグルメ地帯へと思いを馳せつつ、北陸の風に向かって高らかに笑うのであった。


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