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第101話:異国魔導士の茶褐色マトリックス(山陽本線・デミカツ丼)

 神戸の地で王族クラスのステーキ丼(炎陣で焼かれた神の肉塊)という贅沢極まりない箱庭結界を攻略した私は、商人ギルド『JR西日本』の誇る山陽本線をさらに西へと下っていた。

「フスッ……。美しい桃やマスカットの果実にあふれた眩しい国……『岡山』か」

 かつてこの地で、果実の女神が生み出した宝石箱フルーツパフェに精神を魅了された記憶が蘇る。

 だがしかし、ここ岡山はフルーツだけではない。白き防壁(ご飯)を用いた『丼』の世界においても、極めて異端的で攻撃力の高い魔導陣形を隠し持っているというのだ。

「狙うは、異国の錬金術と大和の白飯が最も暴力的かつ無節操に融合したキメラ結界……『デミカツ丼』だ!」


 私は岡山駅を出発し、この狂気のキメラ結界を生み出したという老舗ギルド(とんかつ専門店・あるいは食堂)へと突入した。

「オーダーだ! 黄金の装甲(豚カツ)の上から、西洋の禁忌とされる漆黒の軟体液を強制的にぶちまけたという、デミカツ丼を私の前に召喚しろッ!」

「はいよっ、デミカツ一つ!」

 厨房では、油でオーク(豚肉)の装甲を揚げる激しい炸裂音と共に、大きな魔導炉(寸胴鍋)の中でグツグツと煮えたぎる『茶褐色の液体のマナ』が準備されていた。

 やがて、私の前に一つの器がどんっと置かれた。

「おおおおっ……! なんだこの圧倒的なカロリーのプレッシャーは!!」


 丼の中の光景は、あまりにも常軌を逸していた。

「バカな……! 分厚いオークの肉に黄金の衣(パン粉)を着せた『豚カツ』。これだけでも一つの完成された主兵装だというのに!」

 その黄金の装甲は、完全に『茶褐色の泥沼』の中に沈められて(あるいは頭から浴びせ掛けられて)いたのだ。

「これは……デミグラス・ソース! 異国の魔導士たちが、肉の切れ端や香味野菜、そしてワイン(霊酒)を何日も何週間もかけて煮詰めて作り上げるという、極めてコストの高い『高級錬金液体』ではないか!」

 ハンバーグやビーフシチューなど、王道かつ高貴な洋食魔法に使われるべき最高級のソース。

 それをあろうことか、ガッツリとした庶民のスタミナ源である『豚カツ丼』の上に、文字通り『ぶった掛けている』のだ。


「なんという恐れを知らぬフュージョン(融合魔法)! いざ、実食ッ!」

 私は魔術スティック(箸)で、茶褐色のマトリックス(ソース)にまみれたカツを一切れ掴み、下敷きになっていたご飯と一緒にガブリと噛み付いた。

「……サクッ! ジュワァァァァッ!!」

「フハハハッ!! 美味いッ!! 完全に別次元の進化を遂げているぞ!」

 一般的なカツ丼のように「出汁と卵(水属性と光属性)」で閉じたものとは、攻撃のベクトルが180度異なる。

「デミグラスソース特有の、ワインがもたらす『爽やかな酸味と深いコク』! それが、オーク(豚肉)から溢れる野生の脂を、見事に中和キャンセルしているではないか!」


 そして何より恐ろしいのは、下の『白き防壁(ご飯)』への影響である。

「……むっ! デミグラスソースが、ご飯の隙間へとドロドロに流れ込んでいる!」

 これがもし普通のパンなら、お上品にソースを拭って終わるだろう。

 しかし、丼の箱庭結界の中では『白飯』がすべてを受け止める。

「茶色く染まったご飯……すなわち二次派生魔法『ソース・ライス』の誕生だ! カツ抜きで、ただソースが染みたご飯を書き込むだけでも、異常なまでの食欲増進バフが働いているぞ!」

 その濃厚すぎる波状攻撃に口の中が支配されそうになるが、丼の隅に密かに配置された『茹でキャベツ(あるいはグリンピース)』という緑の自然魔法(緩衝材)が、絶妙のタイミングで口内をリセットしてくれるのだ。


「……ふぅっ、ハァッ。完全なる制圧(大完食)だ!」

 洋食デミグラスと和食(豚カツと白飯)の、ルール無用の大乱闘。

 その全てを自身の胃袋という名の牢獄へ見事に封じ込めた私は、ドッと押し寄せるカロリーの満腹感に、しばし腹をさすって天を仰いだ。

「恐るべき異端の錬金術であった……。大和の出汁ダシに縛られず、異国の最強魔法すらも『丼』という器の中に強引に引き込んでしまうとは」

 和洋折衷の極みとも言える箱庭結界を攻略した私の次なる標的は、さらに西の地で私を待つ『細長い姿をした香ばしき魔獣』である。

「よし、行こう! 次なる戦場は、紅葉と海賊の国(広島)だ!」

 私は気合いれ直すように頬を叩き、再び山陽本線の魔導列車へと乗り込むのであった。


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