第102話:木の封印箱と香ばしき長蛇(山陽本線・あなごめし)
岡山の魔導市街地で、洋の東西が激突するカロリー過多のキメラ丼(デミカツ丼)を攻略した私は、商人ギルド『JR西日本』の管轄する瀬戸内ルート(山陽本線)をさらに西へと突き進んでいた。
「フスッ……。海の向こうに、神々が棲むという巨大な赤い鳥居(厳島神社)が見えるな」
降り立ったのは『宮島口駅』。
無数の冒険者(観光客)たちが海を渡るための船着き場へと急ぐ中、私の足取りはただ一箇所、強烈な誘引魔法(香ばしい匂い)を放っている老舗のギルドへと向けられていた。
「あの強烈に香ばしい醤油と煙(炭火)の匂い……! 間違いない、この地に潜む長蛇の魔獣が、今まさに炎属性で焼き尽くされているのだ!」
私はその風格ある巨大なギルド(例えば、あなごめし『うえの』などの名店)へと列をなし、やがて目的の魔導アイテムを手に入れた。
「……むっ? これは……陶器の『丼』ではないぞ!」
私の目の前に置かれたのは、美しい木目で組まれた『折箱』と呼ばれる長方形の木の箱であった。
蓋がピタリと閉ざされており、中身は完全に結界で見えなくなっている。
「なるほど! あえて陶器ではなく、木の封印箱に閉じ込めることで『木の香(木属性のマナ)』と『保温効果』を同時に得るための特殊なパッケージングか!」
私は魔術の封印(紐)を解き、静かにその木の蓋をパッカーンと開いた。
「おおおおっ!! なんという整然とした布陣だ!」
蓋を開けた瞬間、閉じ込められていた香ばしいタレの匂いが大爆発を起こした。
折箱の表面には、特製のポーション(甘辛い醤油ダレ)を何度も塗り込まれ、こんがりと蒲焼きにされた蛇の魔獣が、一口サイズにカットされて寸分の隙間もなく綺麗に敷き詰められていた。
「完璧だ! ウナギのような泥の匂いがない代わりに、アナゴ特有の淡白で上品な海の魔法(旨味)が極限まで凝縮されているのが見た目から伝わってくるぞ!」
私は魔術スティック(箸)を使って、その香ばしい長蛇の切り身を一つ摘み上げ、パクリと口内へ放り込んだ。
「……サクッ! フワァァァッ!!」
「美味いッ!! 皮目は炎の魔法によってサクリと弾け飛び、中の純白の肉(身)からは、ホロホロと崩れるような極上の甘みが溢れ出てくる!」
そして、私が驚愕したのはその直後だった。
当然のようにアナゴの下に敷かれている『白き防壁(ご飯)』を口にした瞬間。
「ハフッ、もにゅっ……。……な、なんだとォォォッ!!」
「このご飯……純白ではない! うっすらと茶色く染まっている! バカな、私がアナゴの汁を落とす前に、すでに何らかの大魔法がかけられているというのか!」
「フハハハッ! これがあなごめしの真髄か!!」
なんとこの土台となるご飯は、ただの白飯ではない。
アナゴの頭やアラ(骨)から何時間もかけて抽出した『魔神の出汁スープ』を用いて、最初から炊き上げられている『魔力内包型のご飯(出汁飯)』だったのだ!
「アナゴの旨味が練り込まれたご飯の上に、蒲焼きされたアナゴの肉を乗せるという、完全なる『自己完結型マトリョーシカ(共食い)魔法』!」
肉を食い、飯を食う。そのすべてのベクトルが『アナゴ』という一点の素材へと集束していく。
「木の結界箱(折箱)に閉じ込められていたことで、この出汁ご飯にまで蒲焼きの香ばしさが見事に蒸らされて染み込んでいるぞ!」
「……ふぅっ、ハァッ。完全なる制圧(大完食)だ」
最後のお米一粒まで残さず平らげ、私は空になった木の箱を撫でながら、海からの強烈なバフ効果(滋養強壮)を感じ取っていた。
ウナギほど重装備ではないが、アナゴの持つ上品で繊細な魔法力と、それを逃がさない高度な炊飯技術の完全勝利であった。
「瀬戸内海の穏やかな気候だからこそ生み出せた、この見事なフュージョン(箱庭)魔法……。素晴らしい体験であった!」
木の結界箱から解き放たれた極上のマナを全身に充電した私は、次なる箱庭宇宙を求めて、今度は一気に山陰地方(鳥取・島根の日本海側)を目指し、北への進軍を開始するのであった。




