第100話:炎陣で焼かれた神の肉塊(JR神戸線・神戸牛ステーキ丼)
新世界の裏路地で煮込まれた濃厚な白味噌の泥沼(どて焼き丼)から生還した私は、商人ギルド『JR西日本』の誇る大動脈『JR神戸線』に乗り込み、西へと向かっていた。
「フスッ……。思えば、この異世界(関西圏エリア)でのグルメ・クエストも、ついに『第100の戦い(第100話)』へと到達したな」
この記念すべき大きな節目。
私は、それにふさわしい最高級の魔力を持つ食材をターゲットに定めた。
「世界にその名を轟かせる神の牛……『KOBE BEEF(神戸牛)』! そしてそれを『丼』という箱庭結界に閉じ込めるという、極めて冒涜的かつ魅惑的な布陣だ!」
三ノ宮駅周辺。海風と異国のマナが交差するこのハイソサエティな都市に、私の目当てのギルド(肉バル・ステーキ店)はあった。
長き道のりの果てに辿り着いたその店の奥には、分厚い鉄板(平らな炎の魔法陣)が鎮座しており、精鋭の錬金術師が凄まじい業火を操りながら、分厚い肉の塊を焼き上げていた。
「フハハハッ! 見事な火属性魔法のコントロールだ! 頼む! その王族しか口にできない神の肉塊を、あえて庶民の白き防壁(ご飯)の上に乗せた『神戸牛ステーキ丼』を私に供せよ!」
銀貨ではなく、金貨(数千円~万単位)が軽く飛んでいく豪快な魔法陣形のオーダー。
しばらくして、私の前に神々しいまでのオーラを放つ『赤と茶色の結界』が運ばれてきた。
「……っ!! なんだこれはぁ!」
私は息を呑んだ。
器の中には、下地であるはずの白い防壁(ご飯)が一切見えない。
表面を完全に埋め尽くしているのは、表面はカリッと香ばしく焼かれ、中心部には美しいルビーのような赤色を残した、分厚い『神戸牛の肉塊』の石畳であった。
「バカな……。普段なら、純白の陶器の皿の上で、ナイフとフォークを使って恭しく切り分けるべき絶対的強者(神戸牛)が! ご飯という庶民の土台の上で、すでに切り分けられた状態で無造作に転がっているだと!」
ステーキの表面は、漆黒のニンニク醤油ソース(特製魔導ダレ)によって妖しく光り輝いている。
「いざ、実食ッ!」
私は魔術スティック(箸)を使って、分厚いルビーの肉塊を一つ摘み上げ、そのまま口の中へと放り込んだ。
「……ンンンッ!? 消えた!?」
肉を噛み切るという物理的な行動が必要なかった。
歯を立てた瞬間、神戸牛特有の網目状の魔力(細かい霜降りの脂)が私の体温によって瞬時に融解し、圧倒的な『甘みを持った肉汁の洪水』となって口内を制圧したのだ。
「フハハハッ! これが神の牛……ッ! 硬さ(防御力)という概念が全く存在しない、完全に液体化を前提とした極上の軟体装甲だ!」
そして、その肉が溶けた直後に口の中に残る、ニンニク醤油の焦げたソースの魔法。
「いかん! この強烈なバフ(旨味)の余韻を取り逃がしてはならない! 急いで『白き防壁』を口内に放り込むのだ!」
私は肉の旨味が残っている口内に向けて、神戸牛の魔力がたっぷりと染み込んだ下層のご飯を、豪快にかき込んだ。
「ハフッ、モニュムニュッ!!」
「……う、美味すぎるッ!!」
ナイフとフォークの戦闘(洋食ステーキスタイル)では、口の中で「肉」と「パン・あるいは少量のライス」は別々に処理されることが多い。
だが、この『丼』というワンプレートの箱庭結界においては違う。
「肉からこぼれ落ちた極上の脂と、ステーキソース。その全てが、ただの『皿』ではなく『米』の上に直接落ちている!」
下敷きとなった大量の白飯が、神の牛の残り香を一滴たりとも逃すことなく、全ての魔法を完璧に吸い尽くしているのだ。
「……ふぅっ、ハァッ。完全なる制圧。そして、第100戦の素晴らしい勝利だ!」
最後の一切れの肉までをご飯と共に掻き込み、私は空になった丼を置いて深く息を吐き出した。
「高級食材と、大衆の胃袋を満たす絶対防壁(ご飯)。相反する二つの魔法属性が、丼という器の中で奇跡の融合を果たしていた……!」
神戸の街が生み出した、反逆的で極上なる箱庭結界。
その暴力的なまでの贅沢さに全身のステータスを全回復させた私は、次なる魅惑の丼を求めて、再び山陽本線を西へ(岡山方面)と向かうのであった。




