4-17. 討たれる欲深き者
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楽しんでもらえますと幸いです。
リッドは周りに紅い薄布を纏っているかのように全体的に紅っぽく発光している。
黒々としたどす黒いオーラを纏う全身黒の甲冑のジュイオと、紅い柔らかな光に包まれているリッドが対比的に映し出される格好となり、見たことのないオティアンやエミハマス、イライドはもちろん、以前に見たことのあるウィノーやハトオロ、クレアでさえその光景に思わず息を呑む。
「デカイ、ランタン、ダナ」
「そうだな。俺や仲間の未来を照らせる灯火のつもりだ」
月光のみが空間をわずかに縁取っていた中で、リッドの放つ紅い輝きが脈動する血潮のように闇を明るさで塗り潰していく。
「ワレノ、フッカツノ、マエイワイニ、フキケシテヤロウ」
「前祝い? バースデーケーキの蝋燭のように、そう簡単に消せると思うなよ?」
語りがカタコトになっているジュイオに対し、リッドは淡々と冗談交じりに返した。
静寂がこの空間に横たわり、黒いオーラと紅い輝きが互いにぶつかり食い合っていく。
「ウオオオオオッ!」
「うおおおおおっ!」
直後、2人が動き出した。
「サッサト、ツラヌカレロ!」
魔力を帯びた数十本の騎士剣がリッドに向かって射出されるが、内2本をリッドが【現地調達】によって騎士剣の纏っていた魔力ごと奪った。
その後に、上下左右から次々と迫りくる騎士剣を弾き飛ばしていく。
リッドはジュイオとの距離を保ちつつ、繰り出されていく騎士剣の攻撃に対応する。
「……脅威は範囲よりも数だな。矢のような遠距離攻撃もなさそうだ」
リッドがちらりと騎士剣の動き回る範囲を確認すると、大剣の間合いより少し広い程度で、彼の少し後ろで神経を尖らせて構えているオティアンにさえ届かない。
リッドは剣戟の隙間を縫って、両手の騎士剣をジュイオに投げつけ、すぐさま別の騎士剣を奪い取っていつ終わるとも知れない殺陣を続けている。
ジュイオはリッドから返される騎士剣を大剣で防いだ後に、再び騎士剣に魔力を宿して、常に騎士剣が動き回るように手を一切緩めなかった。
激しい斬撃の嵐も、この2人には決定打に至らない。
「ウィノーさま、あれはいったい?」
紅く光るリッドを凝視するイライドは、むぎゅっと抱きしめているウィノーに魔力をゆっくりと注ぎ込みながら疑問を口にしている。
ウィノーはほわっとした様子で魔力を受け取っていたが、リッドの【乾坤一擲】の話になると急にシュッとした表情を見せた。
「周りに漂う魔力を掻っ攫う、リッドの【乾坤一擲】。正直、できれば見たくない技ニャ」
イライドは自らの目で見ている状況も含めて冷や汗を垂らす。
その間も様子見のリッドと騎士剣の激しい攻防は続いている。
「噴き出しているだけの魔力だとしても……エルフでも魔法職でもないのにあれほどの魔力を吸収したら……」
ウィノーはイライドの言葉に頷いた。
「そう、一目瞭然ニャ」
ウィノーとイライドの目に映るリッドは、騎士剣の猛攻を一撃たりとも身体に刻まれていないにも関わらず、滝のような汗を掻き、歯を食いしばって眼光を鋭くしている。
目にも止まらぬ速さで動くリッドの全身からは、彼の代わりに悲鳴を上げているようにミシミシと音が鳴って、薄皮が切れた部分からは血が滲み出ていた。
「高い適性もないのに……化け物かしら」
イライドがリッドを「化け物」と称し、ウィノーが彼女の方を向いてはにかむ。
「さて、そろそろ、様子見しているリッドが攻勢に出るはずニャ。オレも準備しないとニャ」
ウィノーとイライドの会話など露知らず、リッドが様子見を終えて、次の作戦へと移行していた。
「やはり、お前も近接戦闘職だな」
リッドは奪い取った騎士剣から魔力を強奪し、ただの鉄屑へと変えては戦域の外へと放り出していく。それに対して、ジュイオは遠くまでは魔力を伝えられないようで、遠くに放られた騎士剣を再び動かすことができなかった。
ジュイオの牙が一本、また一本と剥がされていく中で、彼も次の攻撃手段へと移行する。
「ジャマダアアアアアッ!」
リッドを真っ二つにしようと大剣を大きく振り回し、たとえその攻撃が躱されたとしても、攻撃の隙をなくすように騎士剣がリッドへ射出されていく。その際、騎士剣の柄を簡単には握られないように回転をさせており、これにはリッドも安易に握れなくなった。
クレアは眉を八の字にして、自分では何一つ対応できそうにない光景に、目が釘付けになる。
「リッドさん……相変わらず苦しそうだけど……すごい。周りで攻撃してくる騎士剣を【現地調達】で奪い取りつつ、ジュイオの大剣を難なくいなしています……」
「本当……英雄譚に事欠かないですね!」
ハトオロが笑う。ようやく落ち着いてきた彼は、近くに落ちていた楽器を手繰り寄せていく。
「ナゼ、オマエハ、ワレニ、ハムカウノダ! ナニユエ、オマエハ、デシャバル!」
ジュイオは無関係とばかりにリッドを非難する。
「この騎士剣たちがただ風化しているだけじゃないと分からないお前には、一生俺の怒りは分からない!」
黒だった領域が徐々に塗り替えられていく。
紅く、朱く、赤く、赫く。
リッドの纏う光だけではなく、彼の感情や勢いも色濃くなっていった。
「オマエヲ、シルツモリハ、モウトウナイ! TA、TADA、DAMATTE、SHI……SHINEEEEE!」
「黄巻紙を1枚……【不本意な操り人形】」
騎士剣が少なくなって焦り始めたのか、はたまた、理性が失われてきたのか、ジュイオは間合いを詰めようとリッドの方へ駆けようとしていた。だが、鎧の隙間を塗って身体に突き刺さる線が電気を伴って、ジュイオの身体を麻痺で拘束させる。
「GUGU!? KORE……HA……」
動くはずの足が動かなかったために、ジュイオは思わず前のめりになって、早々に大剣を振り下ろして杖代わりにした。
「おいおい、熱くなって、周りが見えなくなったかニャ?」
続いて、ハトオロがクレアに半分支えられるような形で立ち上がって、勢いのあるメロディをテンポアップしたリズムで掻き鳴らす。
「ウィノーさんの言うとおり、これは互いの総力戦ですよ。【吟遊詩人が謳う戦鬨】!」
ハトオロがリッドを見つめる。
攻撃力の高まったリッドは騎士剣を躱しながら、ジュイオの遥か頭上へと跳び上がる。
「梟鉤爪撃!」
「GUUUUU!?」
リッドが自重とともに、ジュイオを踏み抜く勢いで梟鉤爪撃を繰り出すと、甲冑の兜が部分的に破壊されて、それに覆われていたジュイオの整った顔が再び晒される。
「今だっ! オティアン!」
ジュイオの大剣と騎士剣のすべてが、空中で大して身動きの取れないはずのリッドに集中する。リッドは身を捩らせて騎士剣を次々に奪い取っていき、ジュイオの隙を生み出した。
「うおおおおおっ!」
貫かんばかりのオティアンの突撃が、ジュイオの心臓部を目掛けて放たれた。
だが、鎧は固い。
「GUOOOOO! MADA……MADA、WAREHA!」
「ぬぐぐ……貫くだけの力がっ……リッド殿?」
リッドは無言でオティアンの握っている魔法剣の柄を手にして、リッドの赤い籠手とオティアンの銀の籠手が、一本の柄を分かち合う。
ベキ……ベキベキュ……ズブッ……ズブズブッ……。
実際に肉体があるわけではない。
だが、リッドやオティアンにはたしかに肉を無理やり裂く音とともに、人体に押し込んでいる感触や反応を受けていた。
「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」
今までにない絶叫。
血の代わりにドバドバと流れ噴き出てくるどす黒い魔力と、魔力ごと吸っていたダンジョンに巣食っていた人の想い、そして、彼の欲望。
「……た、倒したのでしょうか?」
「ええ、クレアさん、安心してください。もう終わりですよ」
徐々に、流れ出てくる勢いが弱まり、ぽたりぽたりと垂れ落ちるほどの勢いになった頃、壊れた兜の先に見えるジュイオの瞳が真っ直ぐエミハマスを見る。
「……AAAAA……AA……UU……エ、エミハマス……ワレハ……僕は……ずっと……」
ジュイオが最期に見せた顔は様々なものから解放されたような、子どものようにあどけない表情だった。
「ジュイオ王子殿下……幼少の頃にお会いした時の……」
エミハマスの瞳に映ったのは、醜い怪物などではなかった。
ただ一人、幼少の頃、たった1回だけ出会った少年の面影。
そんなただ一人の少女の瞳に映りたかっただけの少年は、あまりにも巨大で醜い、悪逆非道の王子という皮を被って、再び息絶えた。
「…………」
ジュイオは後ろに倒れ込んで大の字になった後、淡い光の塵となって夜に溶けていくのを、エミハマスは静かに見届ける。
ジュイオが吸収したすべてを、今度はリッドがすべて吸収していく。
「……不器用にもほどがある」
不器用な少年の純粋な想いがリッドの脳裏を掠めたとき、彼は怒りの一部が憐憫に変わっていって、痛み出した全身に苦い表情を浮かべながらゆっくりと膝を着いた。
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