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過保護な女神さまによる異世界転生  作者: 枡狐狸
第五章 問題児達の王国祭
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104 Aランク冒険者

「早速だが今回の依頼の話とさせてもらう。といっても、詳細はまだ話せない。依頼を受ける者は数人でいいからな、今から説明するのはその選定方法だ」


 第一王子アイガスト様は集まった冒険者達にそう伝えた。


「なあカルテ、俺らは依頼を受けたんじゃなかったのか?」

「いえ、実はこの依頼は依頼者が請け負う冒険者を選ぶ旨の記載があったんです。王子が依頼人で内容は不明、それでいて報酬額がかなりのものでしたからね」

「ああ、そりゃ気になるな」

「でしょう?」


 だから俺も誘われたのか。

 でも、その後伝えられた選定方法はどうなのかと思う。


 この場で王子が選んだ相手と1対1で戦う。

 勝敗は関係なく、そのギルドのランクや評価ではなく実際に実力を見て王子が選ぶらしい。


 勝ち負けは関係無いなんて言われても、血気盛んな冒険者同士を戦わせて選ぶとか。荒れるぞこの試験。

 そう思いながらも始まった試験を観戦していると、案外盛り上がって面白かった。

 皆、王子の前だからかプライドからか結構全力に見える。他の冒険者の戦いぶりは今まであまり見てこなかったから面白い。他の冒険者もこういう荒事は好きらしい。


 ただ、俺のときどうしようかな。この間、女の姿で羽根やら転移やら人前で使ったからな。

 最近覚えた【風魔法】で頑張るか。



=====



「次、Aランクのジョットと……Dランク、アカリ・ユミツキ。前に出てくれ」

「Aランク対Dランク……?」


 実力を見るための戦いなのにこのランク差。周囲から困惑の声が聞こえてくる。


「ん? なんだ、疑問か? アカリ・ユミツキは冒険者活動があまり活発でないようでランクは低いが、有名な盗賊の討伐記録などがあったから対人戦は問題ないと考え上のランクと合わせたのだが。本人達が嫌なら別の相手でもいいが」

「いえ、俺は誰が相手でも大丈夫です」


 前に出てきた冒険者がそう応えた。ということは彼が対戦相手のジョットか。

 銀髪に碧眼で歳は俺より少し上くらい。イケメン。


「俺も大丈夫です」


 王子がちゃんと調べてから決めた対戦相手のようだし、これを断ったら自分はその情報より数段弱いですって言ってるようなものだ。断る選択肢はない。

 ジョットと俺は一定の距離で向かい合う。そして、王子の合図と同時に魔法を発動させた。


「まずは小手調べだ!」


 素早く繰り出された【火魔法】が俺に向かってくる。

 それに対抗して【風魔法】の『エアカーテン』を発動させる。

 『エアカーテン』は空気の壁を作り出す魔法。広範囲に発動できて空気の流れをせき止められるから毒や熱を防ぐことができる。まあ、魔法の威力を止めるほどの効果は無いんだけど、そこは【範囲魔法】を足下の地面に引くことで範囲を絞り、出力を上げている。


 地面から吹き出る突風で炎を防いだあとは、ただ風を起こすだけの魔法で紙片を幾つも飛ばす。紙片には魔法陣が描かれている。

 ジョットは飛んできた紙片を見て一瞬目を見開き、何か細かいものを飛ばして紙片を撃ち落とした。


「驚いた。その歳で魔法陣を使えるとはね。流石に今の量を人に書かせたわけではないんだろ?」

「目が良いですね」


 撃ち落とされた紙片は破れて使い物にならなくなっている。あの様子では近くまで紙片を飛ばしてそこから魔法を撃つことは難しそうだ。折角最近考えていた新技なのに発動する前に防がれてしまった。


 この紙片は以前作った魔法陣のスタンプを使って量産した紙だ。束にしたものに一度に魔力を通せば、いちいち範囲を引かなくても魔法の乱射が可能になる。

 相手の至近距離まで飛ばしてから発動するのがよかったんだけど、無理なら仕方ない。


 新たに取り出した紙束をばさりと上に放る。散らばった紙片は魔法陣が発動すると空中で停止し、【範囲魔法】の指定先として設定される。


「『エアショット』!」


 空気を魔力で固めて撃つ魔法を範囲の数だけ放つ。

 数が多いだけで、今回使ったのはごく普通の呪文魔法だ。範囲による魔法の圧縮もしていない。これなら【範囲魔法】でも、周りからは【風魔法】の魔法陣で魔法を使ったようにしか見えないだろう。


「おおっ!?」


 ジョットは驚きながらも片手を前に掲げ、盾となるものを展開した。

 彼を守るそれは、硝子を乱雑に叩いて割った破片みたいだ。サイズや形がバラバラの破片が集まり、盾となっている。

 属性魔法であんなものは聞いたことが無いから特殊ユニーク魔法かとも思ったが、あの破片にはどこか既視感があった。初めて見るのに、何故か知っているような感覚。少し考えて、自分と同じだと気付いた。


「【結晶術】ですか」

「ああ……よく分かったな?」


 あの破片はジョットの魔力結晶だったのか。

 俺の羽根やカルテの雪の結晶と同じものだが、彼の破片という形質は使い勝手がよく厄介そうだ。


「さて、そろそろ行くぞ。お前とは距離を置きたくないからな」


 完全に後衛型の動きをする俺を見て、距離を詰めることにしたようだ。確かに近距離戦は苦手だけど。

 迎え撃つために一応細剣を抜いておく。素手よりはマシという程度だ。


 一気に駆け寄ったジョットに対して、魔法陣の紙束を投げつける。

 彼は立ち止まらずに破片の魔力結晶で魔法陣を無効化していくが、一枚でも見逃せば命取りとなるためにどうしても意識が紙片に逸れる。

 俺はその隙に数歩下がった。さっきまで立っていた場所には足先で範囲を引いてある。

 そこを踏み込まれた瞬間、『エアカーテン』を地面の範囲内に発動した。


 下から上への突風に足を浚われたジョットは、そのまま空中へ放り出された。


 無防備になるであろう着地を狙って、落下地点に紙束を投げ込んで待ち構えようとしたが、ジョットは着地する前に破片を蹴って空中を移動して俺の真上まで上がった。

 そして、破片を集めて作られた大剣が落ちてきた。


 一本避けた後に、次々と降ってきていることに気付いて慌てて頭上に範囲の円を引いた。

 円の内側に空間切断を発動する。空間切断は名前の通り空間を切断して、そこにある物質全てを両断する魔法だ。発動中もの凄い勢いで魔力を消費することからあまり多用していなかったが、【範囲魔法】での運用に慣れてきて新しい発見もあった。

 物質を斬るのはあくまで空間を切断した結果だ。空間切断を線の範囲で使えば相当の切れ味を発揮するが、平面に発動すると縁はともかく面の部分に切れ味は無い。だけど、空間は途切れているから通り抜けることもできない。

 絶対の盾となるわけだ。


 頭上からの攻撃を防ぎ切り、空間切断を解除する。

 周囲に落ちた大剣はまだ消えていない。逆剣山のようだ。


 その一本の上に着地したジョットは、足元からの対策か、剣と瞬時に生み出される破片を足場にして距離を詰め、斬り込んできた。さらには破片も飛んできている。

 ……手数が足りないな。


 今まで勝手に出ないように押し込んでいた羽根の魔力結晶を開放する。

 光を吸い込んだような黒色が辺りを覆い、破片を相殺する。ジョットの剣を細剣で受けつつ、その剣に硬質化した黒い羽根を纏わせていく。

 ジョットはそれに対抗するように破片を自身の剣に纏わせていく。お互いの剣が肥大化し、侵食し合う。

 その魔力結晶を撃ち放とうとしたとき――。


「――双方、そこまででいい」


 低くもよく通る第一王子の制止の声が聞こえた。


「二人とも十分な能力があることを確認した。これ以上は無駄に傷を増やすだけだろう」


 どうやら試合終了のようだ。

 なんとなく不完全燃焼で、どちらともなく魔力結晶を解いて剣を戻した。


「なあ、お前それでDランクって冗談だろ? まだいろいろ手札を残してそうだし」

「ジョットさんこそ、【結晶術】が使えるならまだあるでしょう?」

「お前はその【結晶術】すら抑えていたくせによく言うぜ」


 その後ジョットと話していると、彼が学園の先輩であることが分かった。

 流れで他の対戦を一緒に観戦することになり、思いのほか仲良くなった。

 そのときにはもう、対戦直後の不完全燃焼によるもやもやは無くなり、むしろ何であんなにむきになっていたのかと不思議に思った。俺って負けず嫌いなのかな。

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