102 夏の思い出
リティを掘り起こした後、最後まで放置されていたフェルクを救出しに向かう。
何故フェルクが最後になったのか……特に深い意味はない。俺がリティを優先し、ユユがぎゃーぎゃーうるさいフィールに文句を言いながらも堀りに行き、カルテが残った2人を見て自国の王族を優先した。その結果だ。
なんか後回しにされて可哀想だなと思った。
だけどフェルクの周りを掘っているとき、ある異変に気付く。
「フェルク……鼻血」
「……すいません、今は両手が塞がってしまっちゃいまして」
「で、何に反応したわけ?」
「いやぁはは……わたくしめの目線は今凄い低いわけでして、この距離で正面にしゃがまれると水着だととっても際どい部分を近距離で注視しちゃうわけでして……今日、ユミちゃんが女の子モードで来てくれたことに感謝しかないです」
「……えっち」
「ぐはぁっ」
蔑んだ眼をしたのに、フェルクは呻きながらもどこか満足気だった。
「あ、というかフェルクは影で抜け出せるじゃん」
「ふっ、遊びにわざわざ特殊スキルは使わないのですよ」
「めちゃくちゃ気軽に使ってるくせに。それにダイキを見てみなよ、スキル全力で使ってるよ」
特殊スキル【物質保存】フル活用だ。
「おーい! そろそろ食えるぞー!」
「お肉が焼けたようだ。じゃあねフェルク!」
「ちょ!? ユミちゃーん!?」
変態さんは埋まっていればいいと思うんだ。
しかし残念、影に潜り込んであっさり抜け出してしまった。だからそれを最初からやれと。
カルテや姫さまがゼネ様を探して連れ戻し、ダイキが飲み物まで出したところで焼けた肉や野菜を食べ始める。
「ゼネ様、成果のほどは?」
「フッ、まずまずだったわ。チョロイものね」
ナンパ待ちには成功したようでゼネ様は上機嫌だった。
「男に集られて喜ぶ気持ち、わたくしめには到底理解できないです」
「あら、私の魅力が人を引き付けるのよ。いわば彼らは私の美しさを証明するためにあるの。証明されて悪い気はしないじゃない?」
「奴らの頭には自分の欲望しか詰まっちゃいないですよ。美を汚す行為です」
「心配してくれてるのかしら。ありがと、でも安心して? 私の美はその程度で堕とされるほど低い次元にはないの」
「……凄い方ですね、貴女のお姉さん」
「一応、兄なんだけどね……」
王族同士の高貴な会話には高度過ぎで付いていけない。
取り敢えず、肉がまとまって焼けたからリティに持って行こう。なんか野菜ばっかり取って食べてるようだし。
リティはエルフの血が混じっているけど、別に野菜しか食べないというわけでもない。好き嫌いしない何でも食べる子だ。
でも、もしかしたら肉より野菜の方が好きなのかな? リティはあまり食べ物に関心を持たないから分からない。
「リティ、肉持ってきたよ。食べる?」
「うん、ありがと」
何の抵抗も無くパクパク食べ始めた。考えすぎだったみたいだ。俺も食べよう。
……うわっ、この肉うまっ。霜降ってる、幾らしたんだろ?
それから焼けたものからどんどん食べて、お腹いっぱいになった頃。
ダイキが氷水に浸かったスイカを取り出した。
「やっぱ、海と来たらスイカ割りだよな!」
「うえっ、なんですその緑の球体は」
「あー、スイカを知らないのか?」
ダイキが当たり前のように出したスイカ。しかし、俺やユユ、フィール以外は知らなかった。
誰も知らないのによく用意したな……。売って無いだろ。
「今説明するより食べたほうが早い。スイカ割りのルールを説明するぞ!」
ルールと言ってもそう複雑なものはない。目隠しして、ぐるぐるバットをやって、周りから指示をもらいながらスイカを割る。
順番はくじ引きで決めた。
「私からですね。最初に割ってしまっても構わないのでしょう?」
「ああ、全力でやってくれ」
1番目はカルテ。こういうときの引き運は良いけどフラグ立ててるし、失敗するだろう。
前前右右左前後ろと、いろんな指示が飛ぶ。
「……スイカの気配――そこです!!」
振り下ろした棒は、何も無い地面を叩いた。砂に嵌まり、ぼすっという音が鳴る。
感触と音で外したことが分かっているのだろう。カルテは消沈した面持ちで目隠しを外し、自分の位置を確認した。
「って、スイカと逆方向じゃないですか!?」
「スイカの気配(笑)」
「さてはアカリさんの最初の指示ですね!」
「カルテが反対方向を見た状態でスタートしたから」
さて、2番目は俺だ。
目隠しして、ぐるぐる回って……目が回らないな。
ぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐる……。
「あいつ、いつまで回ってるつもりだ?」
「あ、転んだ」
「目隠しして地面に伏せるユミちゃん……」
【状態魔法】の状態維持があるから目が回らないみたいだ。こういう細かい状態異常にも効果あるのね。なんで寝起きの悪さには効果がないんだろう。
転んだときに棒を手放してしまった。その棒が何かに当たった音が聞こえた。
「あっ、スイカに当たった」
「でも割れてないわよ? この場合はどうするのかしら」
「割れるまで続行だな。次行くぞー」
……俺の番、終わったみたい。
まあいいさ、目が少しも回らないのはフェアじゃなかったし。
次はリティ。
目隠しをして、ぐるぐる回る、回る、回り続ける。
……初めてのスイカ割りで、俺を見本としてしまったのだろう。違うんだ、俺のあれは目が回らないから止め時が見付からずにいただけで……。
「リティー、もういいよー」
声を掛けて、ようやく回るのを止めた。
そして、ふらっふらしながら進む。
真っ直ぐと指示を出しても勝手に曲がっていく。しばらくうろうろ彷徨って、ようやく復調したようで足取りがしっかりしてきた。
「そこです!」
「正面、正面!」
ちょうどいい感じにスイカの目の前に立ったリティは、周りの指示を確認して、頭の上に掲げた棒を振り下ろした。
――ドグシャアアッッ!
「「「あっ……」」」
リティの怪力によって、スイカは半分以上が砕け散って砂浜に飛散した。
さらには液体になったスイカ汁が大量にリティに降りかかっていた。
「……あまい」
リティは口元に垂れてきたスイカの汁を舐めて、そう呟いた。
……結局、スイカは俺が復元したあと改めて切り分け、皆で美味しくいただいた。
それからも海水浴を楽しみ、気が付いたら日が暮れ始めていた。
楽しい時間は過ぎるのが早い。そろそろ引き上げようと片付けの準備を始めたら、ダイキがスキルであっという間に済ませてしまった。でもそれ、結局後で洗ったりするんだよね。お疲れ様です。
広げていたパラソルなんかが片付けられたのに気付いたのか、まだ海に入っていた人たちも戻ってきた。
そろそろ戻るということを誰からともなく言い出し、宿に向かって歩き始める。途中、海水のべたつきが気になりだして【水魔法】で濯いだ。
俺とダイキ以外はフェルクの影に入って宿の部屋に入り、そこで広げた魔法陣から俺の館へ転移させた。
その後宿のチェックアウトを済ませ、人気のないところで俺とダイキも転移して館に戻った。
全員が戻ったことを確認したあとは、解散してパラパラと帰っていく。
館組以外が帰ったら、風呂を沸かして順番に入り、就寝まで部屋で休んで今日が終わる。
こんなに大勢で一日中遊んだことが、今まであっただろうか。
また明日会えるのに、何故だか今日は別れるときに胸に穴が開いたような寂しさがやってきた。
「祭りの後、みたいなものかな……」
寝る前に枕を持ったフィールが来たけど追い返す気にもなれず、そのまま眠りについた。




