101 海水浴……
「――ハッ。ここは何処だ?」
「アカリ、ようやく目が覚めたんだねっ」
気が付いたら、海に囲まれていた。……陸が見えない。
俺とユユは二人っきりでゴムボートに乗って流されていた。
「状況説明お願い」
「勇者がボートを出してくれたから、二人で乗ったの。のんびりしていたら眠っちゃって、私が起きたときにはもう漂流してたの」
なるほど。寝ていたのなら仕方ない。
まあ、漂流といっても転移で戻れるからそこまで深刻ではないな。
ただ、ゴムボートまで転移させようとすると少し厄介だ。線を引いて指定する範囲だと横幅は分かりやすいが、高さの指定が少し難しいのだ。通常だと足が地面に付いているから、自動的にそれを基準として地面より上を転移している。そうでなくとも、身体が切断されるような事故が起きないように円に入った物体全てが転移されるようにはなってる。
しかし今回、揺れる海の上で地面ではないのだ。しかも空中とは違い海水は物体として一緒に転移してしまう。もしゴムボートまで転移しようとしたら、ある程度の海水を転移先に持って行くことになる。転移するとしたら魔法陣を準備してある宿か俺の館だ。水浸しにはしたくない。
ボートを漕ぐための櫂はある。帰る方向さえ分かれば自力で戻れるかな。
「空間神様空間神様、帰るべき方向をお教えください」
「むむっ、分かったよアカリ。私の『空間掌握』でここの座標を調べてあげるっ!」
「いや、そこまでしなくても戻る方向さえ分かれば……」
「じゃあこの神器で……」
そう言って何処からかアンティーク調の方位磁針を取り出すユユ。
……神器ってなに。そんなのあるって初めて聞いたよ。絶対ただのコンパスじゃないよね。
「んー、たぶんあっちかな?」
ユユは不安が残る言い方をしたけど、俺は神器を信じる。だって凄そうだもの、神器。
せっせとボートを漕いでいく。視界に目印となる物が無いから方位磁針は普通にありがたかった。
波があってあんまり進まないから、途中からボートの後ろに範囲を引いて【水魔法】で加速した。
速かった。結構すぐ浜辺が見えてきて、ダイキ達の姿も見えたから櫂で必死に軌道を修正しつつ向かう。
……浜辺が近づいたから浅くなっていたのだろう。
ボートの底が岩か何かにぶつかり、大きく揺れた。
「「うわぁっ!?」」
二人してボートから落ちる。
俺とユユは何かと共通点が多い。実は泳げないのも、一緒だ。
……ごぼごぼごぼごぼ。
浮くことはできた。
「ぶはっ!? はあっ、ボート!」
バシャバシャともがきながらもなんとかボートにしがみつくことに成功する。
ユユはどこだ――!?
急いで辺りを確認すると、俺と同じように水面でバシャバシャやってる姿を見つけた。
微妙に距離があったから、ボートに付いている櫂を外してユユに向ける。
櫂に掴まったユユを引き寄せ、無事二人ともボートに掴まることができた。
「あっ、危なかったっ!」
「ユユ、どうやらまだ危ないみたい」
「え?」
俺は気付いてしまった……ボートの底から泡が湧き出ていることに。先程の衝突で穴が開いてしまったようだ。
状態復元を――ああ!? 海水が邪魔で接触指定が上手くいかない!!
「ボートだけ……ボートだけ指定……ああ、ボートの中に海水が入ってるせいで……」
「アカリっ、ボートはもうだめだよ……。私たちだけ転移しよう」
「仕方ないか……」
ごめんダイキ……弁償するよ。
ユユを片手で抱き寄せ、もう片方の腕をぐるりと回し頭の高さに範囲を引く。完全に海水を連れて行くことになるけど四の五の言ってられない。
波に流されて範囲の輪から抜け出す前に転移をしようとした――瞬間。
「――大丈夫か?」
ダイキが沈みかけのボートの上に現れた。
まだ僅かに紫電を帯びている……十八番の瞬間移動でここまで来たのだろう。……助かった。
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「姿が見えないと思っていたら、何やってるんですか」
「お恥ずかしい」
あの後は結局、ダイキが【物質保存】でボートを仕舞ったあと、代わりに出した浮き輪に掴まった状態でダイキに引っ張られて陸まで戻ってきた。
その後にボートは復元した。弁償しないで済んでよかった……。
「アカリって泳げなかったんだな」
「ろくに泳ごうとしたことがないもので」
前世では水泳禁止令が出ていたのだ。
俺はよく覚えていないが5、6歳くらいのときに溺れたことがあるらしい。そのときは一命をとりとめたが、事件事故にやたらよく遭う俺には授業の水泳すら危険だということで父親から無期限の禁止令が発せられたわけだ。実際、その禁止令の重要性がまだあまり理解できていなかった小学生の頃、先生にしつこく誘われて参加した水泳の授業で足攣って溺れかけたことがある。入念に準備運動したのに。
ユユが泳げないのは、まあ、単純に機会が無かったんじゃないかな? 少なくとも俺と一緒にいる間に泳ぐ機会なんてなかったし。
俺達が居ない間、皆はビーチバレーをやっていたようだ。
わざわざネットを張ってある。ダイキが出したらしい。
7人を3対4に分けて対決……勝者は敗者に罰ゲーム。
俺の近くには4人、頭を残して埋められていた。
「へー、人数多い方が負けたんだ」
「くっ、勇者さんが反則的に強かったのですよ」
「あれは無理よ……」
フェルクと姫さまの首が無念そうにしている。
「アカリくんそろそろ出してぇ」
「…………」
フィールとリティまで埋められる側だったのか……。
フィールや姫さまはともかく、フェルクとリティはフィジカルかなり強いぞ……ダイキ、どんだけ本気出したんだ。
ていうかシュールだなぁ。4人とも、普段は絶対こんな姿見せないのに……いや、よく考えたらフェルクの生首姿前にも見たことあるわ。影からひょこっと頭だけ出して。
「……? な、なんですかジロジロ見て」
「カルテが埋められてないのがなんか不満」
「どういう意味ですか!?」
いや、この中で一番埋められていてもおかしくないっていうか。キャラ的に。
死神様やお姫様と比べるとなぁ。
「そろそろバーベキューの準備するか。アカリ達は全員掘り出しといてくれ」
「はいよ」
バーベキューまで用意してあるのか。ダイキのやつ、この海水浴にどこまで全力で来てるんだろう。
これから組み立てて炭に火を起こすのかと思っていたら、ダイキはバーベキューセット(組立て済み)を取り出した。炭に火が付いていて金網も載せられている、あとは食材を焼くだけの状態だ。
あの【物質保存】ってスキル、火を起こした状態で保存できるのか。便利だな……。
思った以上に早く準備できそうだから(というかほぼ終わってる)、急いで4人を掘り起こそう。
渡されたのはミニスコップだったから、埋まっている頭の周りをしゃがんでせっせと掘る。俺とユユとカルテで手分けして。
俺がリティ、ユユがフィール、カルテが姫さまを掘り起こしに向かう。
ちなみにゼネ様は勝者組だから埋まっていないけど、ナンパ待ちに向かったからここには居ない。王族……。
「んーっと、ここら辺かな?」
スコップでリティを刺したら大変だから多少余裕を持って広く掘る。ご丁寧に縦に埋められてるんだな。結構大変だ。
「無念……」
リティは晒し首みたいな姿で武士のようなことを言ってる。
そんな可哀想なリティの周りをせっせと掘り、肘の辺りまで来たところでズボッと腕が出現。
「もう、抜け出せる」
そう言うと、両手を地面に当ててその腕力で残りの胴体を引き抜こうとする。
「おお……」
ミシミシと砂が動き、身体が上に上がり出して……動くのを止めた。
そのまま腕も脱力。
「リティ?」
「……水着、ズレた」
「…………」
慎重に、慎重に掘り起こすこととなった。




