act.21 再参戦の心意気
「宮嶋ぁ?」
教室から出て行った二人を見送ったままでいれば、工藤が俺を呼んだ。
振り返れば小馬鹿にしたような目で見られる。
「どうだったの、旦那のマジギレ」
「……聞いたらたぶん惚れるぞ」
そう口にすれば、工藤はつまらなそうに肩をすくめた。
実際、いま思い出しても背筋が凍るくらい恐ろしい。でも、そこには確かにあの日の憧れが灯った。
嫌いだと気に食わないと競うようにしてきた気持ちは嘘ではない。いまだってやはり気に食わないと思う。
それでも、
「やっぱり、由慧はいかしてるよ」
「いかしてるって死語。じゃあ、なに? ホントに弟子入りするわけ?」
「弟子入りって……、あいつから聞いたのかよ」
苦い顔をする。今にしてみればなんて正直に打ち明けたことか。あれは口が固いタチではないだろうに。
ため息をついて、髪の毛をぐしゃぐしゃとする。
「弟子入りはしねぇよ。あれは言葉のあやだろうが。てか、俺は由慧が嫌いだって最初から言ってんだろ」
「相手にもされてないでしょーが」
「は!? 俺は由慧と競り合った歴代初の男だぞ! 今度こそ負かすんだからな!」
思わず抗議すれば、蔑みの目で見られた。
え、工藤ってこんなんだった?
美人に蔑まれるって経験は初だが、精神的ダメージがでかい。それ、本当に人間を見る目かよ!?
微かにショックに打ちしがれていると、工藤がふっと目を逸らした。
「アタシがこの前、宮嶋に言ったよ。それ、ちゃんと覚えてるわけ」
唐突な言葉に一瞬だけ空白が出来た。でも、それが何を指すのかを理解して目線を下げる。
「……覚えてるつーの」
「ならないでよ」
「は?」
振り返れば夕暮れの窓に目を向けた工藤がいて、隣にはあいつがいなくて。
「本気に、ならないでよ」
一瞬だけ言葉をなくして、何にだよ、と笑って見せる前に工藤の目が静かに俺を映した。
「わかってるでしょ。アタシは面白いことには賛成だけど、悲劇とかは興味ないの。遊びなら付き合う。でも、」
「ねぇよ」
俺は気づけば静かに遮っていた。
「そんなことにはならねぇよ」
工藤はもうそれ以上、何も言わなかった。
そのやり取りを思い出して、なんだか可笑しくなった。工藤はたぶん勘がよくて、そして実のところはお人好しなんだろう。
「工藤」
「なによ」
目を合わせてから笑ってしまった。
「わりぃ」
それだけで伝わると思ったから一言だけで告げる。
工藤は目を険しくした。でも、俺が笑っているのを見てため息をついた。
「あんた二号さんにでもなる気?」
思わず笑ってしまった。
「そんなのもう本人から言われた」
工藤は今度こそ本当に呆れたように大きくため息をついた。
もちろん平和破壊機1号はあの方です。
無意識下でも優先順位があるのです。




