act.1 光和46年(西暦1971年) 林ナナコ 28才 その8
校内放送のチャイムが鳴る「生徒の皆さんに連絡します!」
校長先生が喋っている、かなり慌てているようだ。
「町内、新里地区の山中から巨大な魔獣が現れました!新里地区からこちらへ向かってきています!!」
騒然となる生徒達。
「生徒の皆さんは直ちに避難してください!川向こうの西畑地区へ避難してください!!」
生徒達、一斉にランドセルを背負い教室から飛び出していく。
「あ、座敷童だ!!」
そんな中で一人の生徒が校庭を指さし叫ぶ。
ユミカも思わず窓から校庭をのぞき込む。
「あ、本当にいた!」校庭を見つめるユミカ。
校庭の真ん中に下半身が半透明のおかっぱ頭の女の子(座敷童)が浮いていた。
不思議なことに座敷童もユミカの方を見つめ指さし、何か喋っている。
「ユミカ!魔獣よ!早く避難して!!」廊下から入ってきたナナコに腕を引っ張られ教室から出て行くユミカ。
全校生徒が校舎から出て、国道沿いに橋を渡って西畑地区を目指して走っている。
中には集団を離れ、それぞれの自宅に向かって避難する生徒達もいる。
畑里町 畑里小学校上空。
近県をパトロール中だったMビークルがいち早く駆けつけて、学校から避難する子供達の集団を見守っていた。
操縦者はコーイチだ。
魔獣出現の報を受け、上空から逃げ遅れた住民がいないかを探していた。
Mビークルが畑里小学校の上空へさしかかる。
「ナナちゃんも、この小学校で魔法指導員の仕事をしているはずだ」
コーイチは、魔法指導員をしているナナコが逃げ遅れていないか探していた
ナナコは見つけられなかったが、校庭に小さな和服姿の少女がいることに気がつき、校庭に向かってMビークルの高度を下げていく。
校庭にいた座敷童は、宙に浮きながら避難する生徒達の集団を追うように移動し始めるが、それに気づく生徒達はいない。
コーイチは気づく「アレは・・・噂になっていた座敷童か?」
巨大魔獣は新里地区から国道の手前でスピードを落とし、家屋を破壊し、数本の触手を使い逃げ遅れた住民をつかまえると捕食していた。
「え?何あれ、人を食べているの?」校門から出たユミカは、隣接する町役場の入り口付近に立ち止まり、暫くその様子を見ていた。
ナナコは町役場の中に入り友人のミチコにすぐ非難するよう声を掛けていた。
住民を捕食していた魔獣、何かを探すようにゆっくりと周囲を見回し、立ち止まっていたユミカの方を向いたところで動きを止める。
「・・・!こっちを見ている?」
魔獣と目が合ってしまったユミカ、役場から出てきたナナコと一緒に、慌てて近くの橋を渡り他の生徒達とは別方向の自宅の方へ走り出す。
「西畑地区に避難しなくて良いの?」ユミカが尋ねる。
「きっとコーちゃんが迎えに来てくれる、それまで家の近くで隠れていた方が良い」
ナナコとコーイチは、再会してから3年の間にかなり仲を深めていた。
コーイチは、Mビークルを低空飛行モードに切り替え、小学生の集団について行く座敷童を追っていたが、
座敷童が急に向きを変えて、道路を外れて空き地に入ったため行方を見失っていた。
低空飛行モードのMビークルは電線を引っかけたり、家屋に接触することを避けるため、
一般車両と同じように、道交法に従っての運用が義務づけられていた。
「次の四つ角を曲がれば暫く民家は無いはずだ」コーイチは完全に座敷童追跡に夢中になっていた。
役場を出たユミカ達の後を追いかけるように、魔獣が向きを変えつつ移動しているのだが、
ユミカ達は逃げるのに必死で全く気付いていない。
魔特隊のMファイターが畑里町上空に到着、魔獣の頭上を旋回し始める。
魔獣出現の報を受け相模原にある基地を発進、
数分で畑里町に到着したが、まだ避難途中の住人も多く、
市街地内では魔獣を攻撃出来ないため、上空で待機していた。
「はあ、はあ、もうダメ、私、昔から走るのは苦手なのよ」息の上がったナナコが立ち止まってしまう。
心配してユミカも立ち止まりナナコの方を振り返る、ユミカ、ナナコの手を取り
「がんばって!家の裏山になら隠れる場所が一杯ある、そこまで逃げれば大丈夫だから!」
最初、魔獣は小学生の集団を追いかけて西畑地区に向かっていたが、
ユミカ達が逃げる方へ向きを変えて、川沿いに移動し始めた。
町内を流れる川の河原に入ったところで魔特隊隊長が攻撃命令を出した。
「多少の被害はやむを得ん、川を渡りきる前にこいつを倒すぞ!」
Mファイターの攻撃が始まり魔獣周辺で爆発がおきる、
爆発の音でユミカたちもやっと、魔獣が自分たちの後を追ってきていることに気がついた。
「ええっ!?私達を追いかけてきている?」
「ユミカ!あなただけでも先に逃げて!魔獣はあなたの魔力を追いかけているわ!私もすぐに追いつくから!」
息が上がっていたナナコ、立ち止まってユミカを先に避難させようとする。
ユミカ、思わず近くの民家の影に隠れるが、魔獣が地上に向かって破壊光線を発射、周辺の民家を吹き飛ばす。
「うわっ!だめだめだめ!一緒に吹き飛ばされちゃう!!」
民家の影から飛び出し近くの空き地に逃げるユミカ。
魔獣、ユミカの方へ向きを変えながら周辺に破壊光線を放ち続ける。
周辺の地面が破壊され爆発する。土塊が宙を舞う。
そのうちの一発がユミカに当たりそうになったとき、ユミカの目の前で破壊光線が四散する。
「ユミカーーっ!!」必死になってユミカの後を追い、追いついたナナコが、
すかさずユミカの周囲を魔力中和の結界で包み込んだのだ。
「ナナコさんっ!!」結界が張られたことで安心して立ち止まるユミカ。
「はあ、はあ、もう大丈夫、今のうちに安全なところまで避難しましょう」
Mファイターの攻撃は続いているが、魔獣にはあまり効果がない。
「市街地の近くでなければもっと強力な武器が使えるのだが・・・」
Mファイターの操縦席で隊長がくやしそうに魔獣を見つめる。
魔獣の破壊光線が逃げるユミカ達の近くの民家に命中、民家のブロック塀を吹き飛ばす。
魔力中和結界は、破壊光線は中和するが、飛ばされた岩石や、家屋の破片など
物理的なエネルギーを中和することは出来ない。
飛んできたブロック塀の破片が結界を通過、ナナコの上半身を直撃する、
「きゃあー!!」ナナコ路上に倒れ、気を失う。
「ナナコ姉さんっ!」ユミカ、駆け寄るがナナコは意識が無い、かなり重傷のようだ、すぐに救急車を呼ばないと。
ナナコが倒れて気を失ったため結界が消えてなくなり、ユミカとナナコは魔獣の破壊光線から無防備になる。
魔獣はまっすぐユミカに向かってくる。
「この、この、こっち来るなー」ユミカ、ナナコを背に守るように魔獣に向き合い、にらみつける。
ユミカが逃げ回らなくなったので、魔獣も攻撃をやめ、ゆっくりとユミカの方へ歩み寄ってくる。
ユミカ、頭上で両腕を交差させ、叫ぶ「こっち来るなー!!」
ユミカは、魔獣が放ち続けていた破壊光線も、ちゃっかり習得していた。
そしてユミカから最大出力の破壊光線が魔獣めがけて発射される。
ユミカの破壊光線は迫る魔獣の頭に命中、魔獣の上半身が吹き飛び、魔獣は力なく崩れ落ちる。
魔特隊のMファイター内でもその様子は目撃されていた。
隊長「なんだ今の魔法攻撃は、地上から放たれたようだが」
通信係「付近にパトロール班の脇坂隊員がいます、すぐに向かわせます!」
「今、向かっています!!」連絡を受け現場に急行するコーイチ。
座敷童を追跡していたコーイチだったが、座敷童の向かう先から何者かが魔法攻撃を行ったことは、コーイチもしっかり目撃していた。
「(今の魔法攻撃と、この座敷童に何か繋がりがあるのだろうか・・・)」
空き地や細い路地をすいすい駆け抜ける座敷童に、コーイチのMビークルはなかなか追いつけないでいた。
コーイチの操縦するMビークルが、ナナコが怪我をして気を失い倒れている現場にようやく到着する、
ユミカの周辺をふよふよと先に到着した座敷童が漂っている。
崩れたブロック塀に埋もれて倒れているナナコをユミカが介抱している。
ふよふよ漂っていた座敷童、ユミカに近づき「やっと見つけた!!」
突然話しかけられて「え!?」となるユミカ、
「ナナちゃん!」思わず叫び、Mビークルから飛び降り、駆け寄るコーイチ。
「さあ、ここはあなたのいるべき世界じゃないの」と、座敷童、ユミカの腕を掴み、
「あなたを戻さないと、私も戻ることが出来ないの!困まるの!さあ!」ユミカの腕を掴んだまま浮かび上がると、
ユミカの体から半透明のユミカが分離して離れていき、座敷童と一緒にゆっくり上昇する。
「さあ、一緒におうちに帰りましょ!」
「ええっ!うそ!なに?浮いてる?どうなっているの?」
ユミカ、慌てて下を見ると瓦礫の散乱する中に倒れているナナコと、
側に寄り添う自分、そして、そこに駆け寄るコーイチの姿が見える。
座敷童に腕をつかまれ半透明になったユミカが動揺して叫ぶ「いやー!!ナナコさん!ナナコおねえさーん!」
ユミカの叫びは途中で途切れ、ユミカと座敷童は空中に吸い込まれるように消えてしまう。
半透明のユミカが体から分離していなくなってしまった後、地上に残されたユミカの肉体は、
細かい粒子に分解され、着衣だけを後に残して宙に溶けて消えて無くなってしまった。
その一部始終を見ていたコーイチ「一体何が起きたんだ?」呆然と立ち尽くす。
その後、重傷を負ったナナコは病院に搬送され一命を取り留めたが、
消えたユミカと座敷童の行方はその後の捜索でも見つけることが出来なかった。




