act.1 光和43年(西暦1969年) 林ナナコ 25才 その7
「いやあ、近くを巡回パトロールしていたら、このあたりでものすごい魔力反応があったので、ちょっと様子を見に来たんだけどね、
そしたらナナコちゃん達二人が魔獣に襲われそうになっていたので上空からズドンと」
そう言うと、脇坂、魔獣に歩み寄り、魔獣が確実に絶命していることを確認、魔獣の体長などを計測して本部に連絡する。
その間に、ナナコとユミカよろよろと立ち上がり「そうかあ、コーちゃん中学から弓道部で、狙った的に百発百中だったよね、
たしか高校の時に全国大会で優勝したんだって?」
脇坂、ナナコの方を向き、「そう、それで何故かスカウトされちゃって、魔特隊に入隊したんだ・・・まだ見習いだけどね」
「へえ、そんなんで入隊出来ちゃうんだ、魔特隊って」感心するナナコ。
「そんな感じ、僕みたいに一芸に秀でた奴らが毎年何十人も入隊するんだ、8割くらいは訓練で脱落するんだけどね」
「厳しいんですね」ユミカも会話に加わる。
「それで残った何人かが僕みたいに見習い隊員になって、日本全国に散らばって毎日パトロールしているんだ」
脇坂、死んだ魔獣の方を向き、「でも、まさかパトロール中に魔獣を一体仕留めることが出来るなんて・・・
君らには申し訳ないけど、すごいラッキーだったよ」
「魔獣に出会う事って、珍しいんですか?」
「ああ、僕、入隊して5年目だけど、魔獣を見つけたのも仕留めたのも初めてだよ」
脇坂うれしそうに、「貢献度が高いとそれだけ正隊員の座が近づくんだ」
「ところで、上空で探知した魔力反応だけど」
脇坂周囲を見渡し、「魔獣が攻撃魔法を使った形跡は無いみたいなんだけど・・・」
ユミカ、おどおどと、「その魔力反応、たぶん私です」
ナナコ会話に割って入り「ここでこの子の魔力制御の訓練をしていたのよ(この子の魔法の才能はかくしておいた方が良いわね)」
「魔力制御?」
「そう、この子魔法が使えるようになってまだ間が無いのよ、だから魔法の出力がまだ不安定で・・・」
ナナコ、ユミカの肩を引き寄せ、「魔法事故起こしたりしないようにここで訓練してたの、私『魔法指導員』の資格持っているから」
「ああ、それで、訓練中に放出した魔法の出力が上がり過ぎちゃったのか、良く無事だったな」
「安全には気を遣っているから・・・」ユミカの魔法の能力がばれないように何とかごまかすナナコ。
「その子がしっかり魔力制御出来るようになって、大出力の魔法が安定して放てるようになれば」脇坂ユミカの目を見て、
「キミ、魔法少女になれるかも知れないね」
「ああ、それはダメよ」ナナコがあわてて割って入る。
「この子は事情があって私が預かっている子なの、両親の許可を取りたくても連絡がつかない状態だから、
魔法少女になるとか、勝手に決められないの」
「え?この子ナナコちゃんの妹さんじゃ無いの?」
「うーん、まあ、家族みたいなもんなんだけどね」
「(え!?)」となるユミカ、「(家族・・・)」ちょっとうれしかった。
「両親と連絡がつかない以上、勝手に進路とか決めるわけにはいかないの」
「そうかあ、これで魔法少女候補のスカウトが出来れば、
正隊員昇格も近づいて言うこと無しだったんだけどなあ」残念がるコーイチ。
「もうすぐ輸送隊がアレを回収しに来るんで、僕はまだここに残んなきゃだけど、
ナナコちゃんたちはもう安全なので、家に帰ってもかまわないですよ」
あ、この書類に住所と名前書いておいてねと、慌てて書類を用意するコーイチ。
ナナコ、書類に記入しながら、「でも、びっくりしたよ、コーイチ君が魔特隊なんて」
「いや、自分なんてまだまだだよ、正隊員はたったの6人しかいない狭き門なんだ」
「それでも助けて貰ったんだから感謝しかないよ、ありがとうね」
「・・・ナナちゃんちはまだあそこ?」
「うん」ナナコ、記入し終わった書類を手渡す。
「今度休みが取れたら遊びに行くよ、色々話とかしたいし」
ユミカとナナコ、もう一度コーイチに助けて貰った礼を言い、二人家路につく。
池の畔から少し離れたところで、ユミカ、からかうように「・・・コーちゃん?」
「な・・・は、8年ぶりだったのよ!こんなところで中学の同級生に会うなんて・・・」
森の中の細い道を抜け、川を渡り、身を寄せ合うように家路へと向かうナナコとユミカ。
「まさか魔獣に出くわすとは思わなかったよ」ナナコ、まだドキドキしている。
「私の魔法に引き寄せられて、眠っていた池の底から出てきちゃったのかも」
「こんな身近にもいるモンなんだねえ・・・
でも、ユミカ、あなたの見ただけで魔法を習得出来る才能、迂闊に人に喋っちゃだめよ」
「どうして?」
「魔特隊を始め、いろいろな組織や機関が若くて優秀な魔法使いをスカウトしているの、
隊員とか魔法少女とか、あと都合の良いように魔法を利用するためにね。
特に、魔特隊にあなたの才能が知られると強引に隊員にされちゃうわ」
「えー?魔特隊に入って、麻獣退治とかばかりやらされちゃうの?」ユミカはあんな怖い思い、もうこりごりだった。
今後、しっかり魔力制御を覚えて、派手で大きな魔法は、絶対使わないと心に誓うユミカだった。
「(でも、魔法少女ならちょっといいかも・・・)」
その後、コーイチは年に数回、休みが取れると、たびたびナナコの家に遊びに来ていたが、
コーイチの前では絶対に魔法を使わないように気をつけていたユミカだった。
3年後、光和46年(西暦1971年)10月 ユミカ小学6年生。
あの魔獣騒ぎのすぐ後、ナナコの魔法指導員の3年間の資格停止処分が解けたため、
畑里小学校の魔法指導員の職に就く事が出来た。
前任の魔法指導員でナナコの高校時代の先輩にあたるミナミは
2年程前から魔法指導員に欠員が出ていた、隣町の小学校に転勤になり、そこで魔法指導員を続けている。
隣町から畑里小学校に通勤していたミナミが「ちょうど良かった」とナナコに席を譲った形だ。
今朝もナナコとユミカは、二人一緒に家を出て、仲良く登校する。
なんだかんだで、ユミカももう6年生、ナナコと一緒に暮らして6年が過ぎていた。
「なんかもう、すっかり家族みたいね・・・」やれやれと大きなため息をつくナナコ。
畑里小学校、ユミカのクラス、始業前、生徒達がおしゃべり中。
2、3日前、隣町の小学校で座敷童の幽霊が目撃されたらしい。
「ウチの小学校にも来るかな?」
「来たら挨拶しなきゃ、だって、座敷童って、幸運を呼び込む妖怪なんでしょ」
「でも、この座敷童は幽霊だって」
「いやいや、幽霊が昼間っから出てきちゃおかしいだろ」
ユミカのクラスの生徒達の話題は、すぐ隣町まで来ているらしい座敷童の幽霊の話題一色だ。
「へへん、このクラスに現れたら俺たちのダブルキックで退治してやんよ」
「よっしゃ、今から練習だ!それ!「ダブルキーック!!」」クラスの男の子達は異様に盛り上がっている。
「隣町か、ミナミ先生が魔法指導している小学校に現れたのかな?」
教室の生徒たちのおしゃべりをぼんやりと聞いていたユミカ、
「でも、座敷童かあ・・・、現れたらちょっと見てみたいかも」
始業チャイムが鳴って、授業が始まっても教室の生徒たちは皆、上の空だ。
4時間目の授業が始まってすぐ、町の防災スピーカーがサイレンを鳴らす。
「来たーっ!座敷童だ!!」待ってましたとばかりに男子生徒が騒ぎ出す。
「えーっ!?このサイレンそうなの?」
一人の生徒が新里地区の方を指さして叫ぶ。
「あそこ!煙が上がっている!!」
「え!?なんだ、火事かよ!」
「違う!なにか大きなのが動いている!!」クラスの生徒達、一斉に窓際に集まる。




