act.1 光和41年(西暦1966年) 林ナナコ 21才 その5
光和42年(西暦1967年)4月
畑里町・町立畑里小学校
ユミカは小学校に入学。
ナナコと一緒に小学校へ向かう道すがら、新品で真っ赤なランドセルを背中に、
ユミカはうれしさ半分、戸惑い半分だ。
「スミレ色が良かったな・・・ランドセル」
「いやいや、ランドセルと言ったら女の子は赤、男の子は黒でしょ」
こんなところでも常識に50年の開きが・・・。
ナナコも一応、保護者として入学式に参列。
式のあと、新入生達は、教科書を受け取りに、それぞれ指定された教室に向かっていた(一学年に2クラスしか無かった)。
その間に、ナナコは小学校の魔法指導員を探して会いに行く。
この学校の魔法指導員は、ナナコが高校一年の時に進路相談に乗ってくれた二つ年上のミナミ先輩だった。
「先輩、今は地元の小学校で魔法指導員ですか、ちょっとだけうらやましいです」
「ああ、ナナちゃん、都会に出てひどい目に遭って戻ってきたんだって?災難だったね」
ミナミは、後輩のナナコに対して、自分のアドバイスで魔法指導員の道に進み、
辛い思いをさせてしまったんじゃないかと、ずっと気になっていたらしい。
「放出された魔力を中和して消し去ることが出来るなんて、
そんな便利で珍しい能力の持ち主・・・何で解雇しちゃうかなあ」
怒り半分、あきれ半分のミナミ。
「それはもう良いんです」さすがにあれから1年近く経っている。
ナナコもいつまでもグジグジしていられない。
「で、私が預かって面倒見ているユミカのことなんですけど、
記憶の一部が無くなっているみたいで、その無くなっている記憶のことを尋ねると、
心に負荷がかかって魔力暴走を起こすことがあるんです」と、ユミカの事情を説明する。
「今年に入ってからは、幸いまだ魔力暴走は起こしていませんが・・・」
ナナコが常にユミカの側にいて見守っていたおかげだ。
「学校は集団生活の場だから、いつどこで、何がきっかけで魔力暴走が起こるかわかりません」不安に思っていることをミナミに告げるナナコ。
「そうねえ、魔力暴走が起きちゃったら、わたしには止められないから」と、ミナミ。
「起こらないようにその子の周辺にはせいぜい気を配っておくね」
そんなナナコの心配をよそに、ユミカは新しい友達が沢山出来て楽しそうだ。
ナナコは、自分が近くで見守ることが出来なくなることでユミカの感情がどう変化するのかわからず、不安だった。
小学一年生になったユミカは、幸い、良い友達に囲まれ何事もなく平穏な日々を送っていた。
光和43年(西暦1969年)4月、 ユミカ小学3年生。
畑里町・ナナコ自宅
「(ユミカを預かることになって2年半か、結局ユミカの保護者は見つからないし・・・、
本当に未来から来た迷子だったのかしら・・・)」
ナナコは、ユミカが未来から来た迷子だとは、まだ信じ切れないでいた。
6月の小雨の降る日の夕刻、ユミカが、魔法指導員のミナミに付き添われて帰宅する。
ユミカ、かなり落ち込んで泣きべそかいている。
右手に大事にしているぬいぐるみ、狐のテンコちゃんを抱えているが、泥まみれだった。
ナナコ、玄関で二人を出迎える。
ミナミ、困り顔で、「今日、この人形を学校に持ってきていたみたいなんですが、
4月のクラス替えで同じクラスになった男の子に見つかって・・・」ミナミ、ユミカの様子を気に掛けながら、
「取り上げられて、教室の窓から投げ捨てられたみたいなんです。」
「ぐすん、私が窓際でサークルマギーの主題歌をテンコちゃんに歌って聴かせていたら、同じクラスになった男の子が
『なんだそれ?変な歌うたってんじゃねえよ!』って、テンコちゃんを掴んで窓の外に投げ捨てちゃって、水たまりの中に・・・」泣きべそをかくユミカ。
「それを見たユミカちゃんが、魔力暴走を起こして、教室の窓ガラスが全部吹き飛んじゃって・・・
幸いけが人はいなかったんですが、教室にいた子供達が皆おびえちゃって・・・」ミナミ大きくため息。
「ユミカちゃんのクラス、明後日までみんな自宅学習と言うことになりました」
その間に事情説明のためにミナミが魔法指導員として、生徒達の各家庭を訪問して回るとのこと。
ああ、とうとう起きちゃったかと、頭を抱えるナナコ、ずっと平穏だったんで油断していた。
「ナナちゃん、資格停止処分を受けているけど、個人的に指導を行う分には問題ないんだよね」
そうなんだけど、ナナコは小学生低学年の子供相手に魔法指導を行うことにはまだ少し抵抗があった。
「ユミカさん、しばらく病欠扱いにしますから、その間に魔力暴走が起きないよう、
ナナちゃんがきっちり『魔力制御』の指導をしておいてもらえませんか」ミナミがナナコに注文をつける。
「ユミカちゃん、もう三年生なんだから、教えてあげればしっかり身につくと思うんですよね」
ユミカ、泥だらけのぬいぐるみを抱えて縁側に寝転がる。
「ごめんね、テンコちゃん、新しいお友達に紹介したくて学校に連れて行ったのに、こんな事になっちゃって」
ナナコと話し終えたミナミが玄関から出てくる、ユミカ、縁側に寝転びながらミナミ先生の様子を見ている。
山間部にある畑里町の日没は早い、外はもう真っ暗だ。
玄関を出たミナミ、右手を前に伸ばし「ライト」と唱える。
差し出した手の上に十センチくらいの光の玉が現れ、ミナミの足下を明るく照らす。
「・・・魔法だ・・・」ユミカ、自分は魔力暴走を起こしたことはあるが、ちゃんとした魔法を直に見るのはこれが初めてだった。
ミナミが帰ると、ユミカは起き上がり、試しに今見た魔法をイメージしながら「ライト」と唱えてみると、
目の前に直径一メートル程の光球が現れる。
「うわっ!できた!大きい!」
突然縁側に現れた光球に驚くナナコ、「えっ?これ、今、ミナミ先生が使った魔法よね、ユミカ魔法使えるの?」
「うん、見ていたら、なんだかユミカにも使えるような気がしたの」
唖然とするナナコ、まさかユミカがこんなに簡単に、それも見ただけで魔法を習得出来るとは思わなかった。
正直、ナナコは、ユミカが魔法を使えるようになるかも知れないとは思っていた。
3年前のあの勤務していた小学校での一件以来、ナナコは魔法とはなるだけ距離を置くようにしていた、
なので、ユミカには魔法を使えるようになって欲しくなかったのだ。
でも、ユミカは魔法を覚えてしまった、いとも簡単に、それも見ただけで。
「(やばい、この子天才だ。見ただけで魔法を習得しちゃった。)」
悩むナナコ、「(放って置いたら、この子どんどん魔法を覚えていってしまう)」。
ユミカの持つ魔力量を考えると、この子の放つ魔法はどんな物もかなり強力な物になる。
突然魔法が使えてしまったユミカは、うれしさと、驚きの入り交じった感情にひどく動揺している。
「ユミカ、良く聞いて」ナナコ、居住まいを正してユミカに話しかける。
「魔法は扱い方を間違えると使った本人もケガをするし、周りにいる人たちも傷つけてしまうことがあるの」
ユミカ、驚き動揺する気持ちを抑えつつ、真剣な表情でナナコの話を聞いている。
「だから約束して、今後、魔法は私が側にいて許可を出したときだけ使うようにして」
「え?勝手に使っちゃダメなの?」
「そう、危ないから。その代わり私が魔力制御の方法を教えてあげる。
だから、ユミカがしっかり自分の魔力をコントロール出来るようになるまで、勝手に魔法を使うのはやめてちょうだい」
もう魔法から距離を取りたいとか言ってる場合じゃない、魔法事故を起こしてからじゃ手遅れだ。
これは真剣に魔法の使い方、魔力制御の仕方をユミカに教えなきゃダメだ。
そうナナコは決心した。
数日後から、ナナコとユミカは自宅から少しのところにある、森の中の大きな池の畔で魔法の訓練を始めることになる。
某県・各所
2年半前、ユミカがナナコの家で暮らすようになった頃、
遠く離れた土地から座敷童の幽霊出没の噂が広がり始めた。
その幽霊は必ず昼間の明るい時間に小学校に現れ、
「ここにもいない、早く見つけなきゃ帰れなくなっちゃう・・・」
と、つぶやきながら各地の小学校を渡り歩いているという。




