act.1 光和41年(西暦1966年) 林ナナコ 21才 その3
同日、昼食後、テレビのニュースを見ていたユミカがナナコに尋ねる、「魔獣ってなあに?」
テレビではその日、某市に出現した体長20メートル程の魔獣と、
それを退治した『魔特隊』のニュースを伝えていた。
「ああ、魔獣はね、時々どこからか出てくる怪物よ、人里に現れて魔力を沢山持っている人をつかまえて食べちゃうのよ」
「えー、やだ、ユミカ食べられちゃうの嫌だ・・・」
「大丈夫よ、年に二、三匹しか現れないし、現れても魔特隊がすぐやっつけちゃうから」
テレビのニュースには、魔特隊のMファイターが魔獣を攻撃する場面が映っていた。
「ユミカは今まで魔獣とか見たり聞いたりしたことはないの?」
「ううん、初めて見た」ユミカの返答に「ん?」となるナナコ。
「(出現するたびに、テレビのニュースなんかで報道しているはずなんだけどなあ・・・?)」
続けてニュースでは、地方の町の話題が流れている。
『ここ、苫野市第一小学校では五年生の女子生徒、野々村ヒマリさんが2万分の1の狭き門を突破、
見事「魔法少女」に採用されて大変盛り上がっております、では、野々村さん、今のお気持ちをどうぞ』
『はい、魔法少女に採用されてとっても光栄です、まだ配属先とかは決まっていないんですけど、
1年間研修を受けて、中学一年から6年間、皆の幸せを守るため一生懸命がんばります!』
『野々村ヒマリさんの力強い決意表明でした。以上、苫野市から新たに採用が決まった魔法少女の話題をお伝えしました』
「へえ、良いなあ、魔法少女、ユミカもなりたいなあ・・・」
「ユミカの住んでたところにも魔法少女はいた?」これは住んでいた町のヒントが聞けるかもと、質問するナナコ。
「うん、毎週テレビで見ていたよ。ねえ、ナナコさん、日曜日の朝『魔法少女サークルマギー』見てもいい?」
「(テレビ漫画のことかな?)うーん、この県で放送していればね」
「うん、わかった!楽しみ!!」ユミカ、初めて見せる笑顔。
「(今日は火曜だし、次の日曜日までにはこの子の両親も見つかって、迎えに来てもらえるだろ)」
夕方、暗くなりかけた頃、町役場職員のミチコが尋ねてくる。
ミチコの姪(ユミカより2,3才年上)のお古の上着を数着、デパートの紙バッグに入れて持って来ている。
ミチコとナナコ、玄関の板間のところで話し始める。
「これって、あの子の着替え?こんなにいる?」上着の入ったバッグを見たナナコが不思議がる。
「それなんだけどね」
ミチコがユミカの両親の捜索状況を伝える。
「なんか、周辺の県警とかに問い合わせているんだけどぉ」と、ミチコ。
「全部空振りみたいなのよぉ、でね、助役さんが言うにはあの子、親に置き去りにされたんじゃ無いかって・・・」
「ちょっと待って」ナナコ、ミチコの話に待ったをかけて、居間の方に注意を向ける。
居間の方からテレビの音声が聞こえている。
「(こちらにテレビの音が聞こえると言うことは、こっちの話し声も向こうに聞こえるって事よね)
・・・ちょっと、外で話そうか」
ナナコ玄関の土間に降り、サンダルを履いてミチコを庭に連れ出す。
玄関の引き戸を閉めて引き戸に耳を当て、テレビの音が聞こえないことを確認すると、
ミチコに話を続けるように促す。
「ごめんね、気を遣わせちゃってぇ」ミチコに一言謝ってから、
「で、助役さんの話だとぉ、ユミカちゃん、両親に置き去りにされたんじゃ無いかって・・・」
「えー?犬や猫じゃあるまいし・・・」
「でも、よそから来てこの町に犬や猫を捨てていった人とかも、実際にいるからねぇ」
「いや、でも人間の子供よ、女の子よ」
「もしかしたらの話よ、もしかしたらの」
「でも、助役さんはそうかも知れないって考えているのね?」
とたんに不安になるナナコだった。
「もし、そうだった場合だけどぉ」ミチコが続ける
「ユミカちゃんをもっと長期間預けることになっちゃうけど、ごめんね・・・って、助役さんが」
「いや、それ無理だから、あたしあの子が家にいると、どうにも落ち着かないし、それに金銭的にも・・・」
「そういえば助役さんから、お金預かってきたよ」
ミチコ、助役さんから預かってきた「生活支援金」と書かれた封筒をナナコに渡す「とりあえずこれ、一週間分だってぇ」
「いや、助かるけど、これ、もっと長引いちゃったらどうなるの?」
「なんか考えがあるって、助役さん言ってたぁ・・・あ、私そろそろ帰らなきゃ」
山間部は日没が早い、気がつくとあたりは真っ暗になっていた。
「ごめんね、すっかり暗くなっちゃったね」ナナコ、ミチコにわびる。
「この辺町外れだから街灯が無いでしょ、特に今夜みたいに月の出ていない夜は、本当に真っ暗になるから」
「大丈夫、小さい頃から通いなれた道だしぃ、じゃあ、また様子見に来るから~」去って行くミチコ。
10メートルも離れると闇の中に溶け込んで姿が見えなくなる。
ナナコ、帰宅するミチコを見届けると振り返り引き戸を開け、家に入る。
居間からテレビの音が聞こえる。
ナナコ、玄関の板間に置いてあった子供用上着の入っている紙袋を手に居間に向かう。
「ユミカちゃん、友達からお洋服沢山貰ったよ」居間に入り見回すが、ユミカがいない。
「トイレかな?」
よく見ると、居間の隅に置いてあった狐の縫いぐるみと肩掛けバッグが見当たらない。
「まさか・・・」嫌な感じがしたので、トイレを始め、家中を探し回ってみるがユミカはどこにもいない。
最後に玄関を調べてみると、ユミカの靴も無くなっていた。
「え?うそ、全然気がつかなかった・・・」
ついさっきまで玄関前で立ち話をしていたのだ。玄関から外出したのなら当然気がつく。
「ひょっとして、玄関で靴を回収して、台所の勝手口から?」
慌てて台所に回ってみると、勝手口が半開きになっていた。
「大変!」ナナコも慌てて勝手口にあったサンダルを履いて外に出る。
「タイミングを考えると、抜け出したのは私がミチコと玄関前で立ち話をしていた頃か・・・」
敷地の表側にはナナコたちがいたので、ユミカはたぶん裏側から抜け出したはずだ。
ナナコも後を追うように裏口から敷地の外に出るが、すぐに立ち止まる。
周辺は真っ暗で数十メートル先も見えない、近くを流れる川の水音だけが聞こえている。
「あーもう!何で急に・・・昼間はあんなにおとなしかったのに!」
動揺するナナコだが、ふと昼間の、ユミカとの会話を思い出す。
『この川・・・ずうっと流れていけば海に行ける?』
『昨日も、朝、うちを出るときに海が見えたの、だからユミカのおうちは海の近くにあるの』
「そうか、川沿いの道!昼間通った道よ!」
ナナコ、慌てて敷地を大回りして表側に回り、門を出て昼間通った道へ。
橋を渡っていると、遠くから魔力の波動が伝わってくる。
「この魔力の波動は・・・ユミカ?ユミカが魔力暴走起こしている?」
橋を渡りきって、昼間通った川沿いの道に出る、
魔力の波動は河原の方から伝わってくるようだ。
真っ暗で足下もおぼつかない中、何とか河原に出ると、
魔力暴走を起こしたユミカがうずくまって泣いていた。
魔力暴走の影響で河原の小石が飛び跳ね回り、川面が大きく波立っている。
ナナコ、魔力暴走を中和して無力化すると、ゆっくりユミカに歩み寄り、うずくまるユミカの隣に座った。
「ユミカ、おうちに帰りたいの・・・おうち探してたの」泣きながらナナコに話しかける。
「川の近くをずうっと歩いていけば、海に行けると思ったの・・・
海が見えればおうちの場所も思い出せると思ったの・・・
でも、真っ暗で何にも見えないの・・・」
話しながらも泣きじゃくるユミカ。
「(しまったなあ・・・小さい子に慣れなくて距離を取り過ぎていたなあ、私・・・
この子とちゃんと向き合って、じっくり話を聞いておくんだった・・・)」
「ユミカちゃん、晩ご飯まだだったよね、お腹すいたでしょ?」
いまはとにかく自宅に連れ帰って落ち着かせなければ・・・
「おうちに帰って何か暖かい物食べようか」
二人で帰宅して、ナナコは大急ぎで夕食を作り、
二人でふうふうしながら夕食を食べた(味噌汁がちょっと熱かった。)




