act.2 令和9年(西暦2027年)2月初旬
学力テストの結果、理科と社会がちょっと危なかったが、ユミカは無事、中学進学が決まった。
4月から町立護里中学校の中にある、私立教室「自然科学科」に通うことになった。
ユミカが退院する日の朝、グエンディズとジョーンが病室まで迎えに来た。
「これからは個人的に連絡を取り合うこともあるだろうから」と、ユミカ、グエンディズから名刺を渡される。
「島の地理には詳しくないだろうからね、迷子になったときの迷子札代わりだ」
「連絡をくれれば、グーさんか私がすぐに迎えに行くよ」ジョーンも笑顔で話しかける。
「あはは、4月からお世話になります、え?・・・・グエンディズ学長?」
もらった名刺の肩書きを見てグエンディズに尋ねるユミカ。
「・・・この病院の会長さんだと思っていました。」
「同じところに長くいるとね、いろんな物がひっついてくるんだよ」あきらめ顔のグエンディズ。
2月初旬、ユミカはめでたく退院した。
屋外を自力で歩き回ることは、まだ難しいので、ジョーンの押す車椅子に乗って病院を出る。
「で、どうする?一応、ユミカの「自宅」はあるんだけど、寄っていくかい?」付き添いのグエンディズが提案する。
「・・・いえ、もっと元気になって一人で歩き回れるようになってから行ってみます」
「じゃあまず、「竜芽寮」に行こうか、今日から入寮してそこで生活するんだし」と、ジョーン。
「でも私まだ、中学生じゃないんですけど、良いんですか中学校の寮に入っちゃって」
「他に行くあてはないんでしょ?だったらかまわないって。卒業したのに未だに寮に居座っている高校生もいるし」
「高校生もいるんですか・・・」
三人は、ジョーンの自家用マイクロバスに乗って「竜芽寮」へ。
病院から10分くらい走ったところにある中学校、その脇の急な坂道を上がったところに「竜芽寮」がある。
「寮から中学校まで、徒歩5分ってところかな」ジョーンが説明する。
「行きは下りだけど、帰りは上りだからちょいとしんどい。まあ、がんばれ」
「はい、入学までに体力つけます」
マイクロバスが竜芽寮の玄関前に停車、ジョーンの手伝いで車椅子のユミカが降車する。
「あー、この時間(平日、午前10時)だと寮母のヤヨイさんは買い物か。」
グエンディズ少し考え込んで、「じゃあ、寮には誰もいないから、先にあっち行こうか」
グエンディズに先導されて、竜芽寮の奥にある建物へ向かう3人。
二階建ての民家風の建物に看板が掛かっている。
「え?「妖界ギルド」?」車椅子のユミカ、看板の意味がわからずグエンディズの方を振り返る。
「ああ、この島には妖怪たちのコロニーが沢山あるんだ」グエンディズが説明する。
「え?妖怪がいるんですか?」
「別に怖がる事はない、皆おとなしい気の良い奴らばかりだ。
彼らも人間社会に住み、人と共存していく以上、
ある程度、人間側のルールに沿って生きていかなきゃいけない。
そんな妖怪たちのための助け合い組合みたいなもんだ」
ギルドの建物に入ると、受付と、そのとなりに待合所がある。
受付のカウンターに女性が一人いるが、他には誰もいないみたいだ。
事務仕事をしていた受付の女性が顔を上げ、警戒の表情でユミカを見つめる。
「紹介するよ」とグエンディズ。
「受付にいるのが、この島の妖怪たちの総元締めで「九尾の狐」の「キュウビ」だ」
受付のキュウビ、笑顔になり立ち上がってユミカに挨拶
「やあ、初めまして、キミがユミカ君だね。
聞いてはいたけど、すごい魔力量だね、思っていたよりすごいんだけどまだ12才だって?」
表情を柔らかくしたキュウビがユミカに挨拶をする。
「え?あ、はい、「池上ユミカ」です、よ、よろしくお願いします」
妖怪、それも有名な九尾の狐に話しかけられておびえるユミカ。
「その魔力量なら、さすがにちょっかい出してくる子(妖怪)はいないかな。
もしどこかで妖怪たちを見かけても怖がったり、虐めたりしないで、なるだけ仲良くしてやってくれ」
キュウビ、笑顔でお願いする。
自己紹介が終わると、受付横の休憩所が急に騒がしくなる。
「アレ?誰もいなかったのに・・・」
ユミカがあらためて休憩所の方を見ると、
三頭身のカッパが数人、ユミカを見て騒いでいた。
「へえ、あれが眠り姫か」
「やっと起きたのか、寝ぼすけめ」
「魔力圧がすごな、良い用心棒になりそうだ」
「ねえねえ元締め、歓迎会しないっすか?」
カッパ達、好き勝手に喋り始める。
「歓迎会やりますか?グー姉さん」
キュウビ、グエンディズにお伺いを立てる。
「んー・・・じゃあ、今夜8時に、露天で」グエンディズ、勝手に予定を立てる。
「それから、この子、未成年なので、アルコールは無しで」
キュウビ、しゃきっと敬礼して「了解しました、ユミカもOK?」
場の流れで、もうOKするしかないユミカ「はい、わかりました。がんばります」
「がんばりますだって」
「何をがんばるんだ?」
「隠し芸か?」
「実は芸達者だった?」
ユミカ達が妖界ギルドから出ると、ギルド前にいつの間にか数十人のカッパ達が集まっていた。
カッパ以外の妖怪も何体かいる。
河童x17 サトリ うさたぬき くだん 塗り壁 一反木綿 水辺の妖精x3
「はーい、みんな道を空けて、通れるようにしてー」
ジョーンが一声掛けると、正面のカッパ達十人程がすうっと消えていなくなる。
「あ、消えた」ユミカ驚く。
「あれは自分たちの「位相」をちょっとだけずらしたんだよ」ジョーンが説明する。
「妖怪たちの住んでいるところって、私らのいる世界と、ほんのちょっとだけ「位相」がずれているんだ」
「位相って?」
「波長みたいなもんだな、ラジオとかダイヤル回して聞きたい放送局に合わせるだろ?
で、ちょっと目盛りがずれると雑音が入るじゃない、
あの雑音の入るところがこいつらの住んでいるところさ」
「じゃあ、普段はちょっとだけ自分たちの目盛りをずらしているから、
本当はそこにいるのだけど、私達には河童さん達が見えないんですか?」
「見えないし、聞こえないし、触ることもできない。
でも、ユミカなら自分の魔力を調節して、目盛りの幅を広く出来るから、普通に見られるようになるはずだ」




