act.2 令和8年(西暦2026年)11月 竜頭島 グエンディズ・ウィルト その3
「さて、帰るか」グエンディズは、イートインのあるコンビニを出て歩き始める。
「今11時、行きはジョーンに車出して貰ったけど、午前中に2回も車を出して貰うわけにもいかないから、
帰りは歩きだな、このあたりからだと3㎞くらいの緩い上りになるな」
何とか昼飯の時間までには帰れそうだ。
遅刻すると、寮母のヤヨイさんがうるさいのだ。
このあたりは最近来たことが無い地区だが、そんなに大きな変化は無いはずだ。
記憶を頼りに暫く幹線道路に沿って歩いていく。
ここ40年程、竜頭町の市街地も区画整理が進み、幹線道路沿いから少しずつ町の風景が変わってきていた。
「このあたりの、細い迷路みたいな道も皆広くまっすぐになっちゃったな・・・・
わかりやすくて便利なんだけど、どっちを見ても画一的で趣が無くなったというか・・・」
所々に張り付いている番地プレートを確認しながら自宅方面に向かって暫く歩き続ける。
「この辺は何年ぶりだろう・・・」想像以上に、記憶にある町並みと、
現在の町の風景が大きく変わっていた。
時々自分が違う土地を歩いているような錯覚を覚える。
なんだかめまいもしてきた、頭がぼおっとしてフラフラする・・・。
「いや、違う、これは魔力を吸われている?」
思わずあたりを見回すと、少し離れたところにあるバス停の駐輪場に何かいる。
「邪鬼だ」全長1.5メートル程の昆虫型の邪鬼が、のそのそとこちらへ向かって歩いてくる。
「私の魔力をかぎつけたな」ゆっくり後ずさる。
「市街地に現れるのは珍しいな、監視網をすり抜けたのか・・・、あとでクレームだな」
さっと近くの建物の影に隠れ、スマホを取り出し通話モードに、「ホタル、緊急だけど来られる?」
『はい、学長さん?今ちょうど3時間目の授業が終わったところです、
何かありました?』ホタルからすぐに返答がある。
「村口2丁目のバス停に邪鬼がいる、昆虫型だ、遠隔で魔力を吸い取られている」
『えーっ、邪鬼ですか?4時間目小テストあるんで休み時間のうちに予習を・・・、あ、いえ、すぐ行きます!』
通話を切って、グエンディズは建物の影から邪鬼を観察する。
「きょろきょろしている、目が悪いらしい。私の魔力を見失ったな?」
邪鬼に見つかるのを避けるため、グエンディズは魔力の放出を押さえ、
暫く思考を押さえて心を無にする。
目を閉じて、音だけを頼りに邪鬼の動きを追いかける。
邪鬼は見失ったグエンディズの魔力を探して、同じところを行ったり来たりを繰り返しているようだ。
暫くじっとして耳を澄ましていると、上空から風きり音が聞こえる。「来たか」
見上げると、黄色い魔導スーツを身に纏ったホタルが飛んでいる。
一回上空を旋回して、グエンディズの隠れている場所を確認すると、邪鬼の近くに着地する。
「この一匹だけみたいですね、他に邪鬼の反応はありません」ホタルがグエンディズに伝える。
「すぐにかたづけます!」
昆虫型の邪鬼は、6本足で地面を這っている。
背中の方は堅い外骨格に覆われているようだが、腹部の方はそうでも無いようだ。
ホタルは邪鬼に近づくと右足で邪鬼の頭部を大きく蹴り上げ、
直立し腹を見せた邪鬼に炎魔法を纏わせ魔力強化した拳を2発たたき込んだ。
「私の休み時間を返せ!!」
ホタルが装着する魔導ス-ツ(Ωスーツ)魔法を纏った物理攻撃がメイン
殴り飛ばされた邪鬼は数メートル先の空中で爆散し、魔粒子になって散っていった。
「おみごと!」拍手をしながら、グエンディズが隠れていた建物の影から出てくる。
「こんなところで邪鬼を見かけるなんて珍しいですね、もっとしっかり監視して貰わないと」
「あとで妖界ギルドにクレーム入れておくよ」やれやれといった表情のグエンディズ。
「で、ホタルは時間大丈夫かな?」
「はい、いえ、全然大丈夫じゃ無いです、あと7分しか残っていないです!」
「時間が無いところ悪いけど、ちょっと竜芽寮まで送ってくれないかな、
この時間だと、昼飯に遅れてしまいそうだ、ヤヨイさんに叱られる」
「じゃあ、おんぶします、背中に回ってしっかり掴まっていてくださいね」
グエンディズ、がっしりとしがみつくと、最初はゆっくりと上昇するホタル。
障害物の無い高さまで上がったところでスピードを上げて竜芽寮に向かう。
市街地から農地帯を越えて、中学校上空を通過、すぐ横の丘の上にある竜芽寮に1分程で到着。
「じゃあ、私は小テストの準備があるので!」
そう言うと、ホタルはグエンディズを玄関前に下ろし、
軽くジャンプするように中学の校舎に戻っていった。
「これ、小テスト中に呼び出してたら、ぶち切れてたな・・・」
グエンディズはどうにか昼食前に寮の食堂に入れ、ヤヨイの説教を貰わずに済んだ。
昼食後、グエンディズは竜芽寮のとなりにある「妖界ギルド」に「キュウビ」を尋ねた。
邪鬼が市街地まで侵入してきていた件について尋ねるためだ。
キュウビは「九尾の狐」、中国出身の2000才の妖怪、元は尻尾が九本ある狐の姿だったが、
1000年程前に日本に渡り、日本全国を一回りしたあとに竜頭島に行き着きつくと、
竜頭島の濃い魔素濃度の影響を受け人の姿に変化した。
ヒト化した際、尻尾が九本あるのが邪魔となり、
九本あった尻尾のうち八本が頭に移動し、髪の毛となった。
キュウビ(九尾の狐の人間体) 見かけ18才、実年齢2000才以上
「その事なんだけどね、グー姉さん。」
キュウビが説明している。
「結界がさあ、島を覆っている奴・・・」
「結界が?」
「ここ2,3年弱まってきているんだよ」キュウビも困っているようだ。
「それで去年くらいから島に侵入してくる邪鬼が増えちゃって、
うちらも人手・・・いや、妖手不足な感じで」
キュウビもお手上げのようだ。
「ねえ、グー姉さん、噂で聞いたんだけど、
結界を張っているのは確か島神修行中の巫女さんだって・・・」
キュウビは噂でしか知らなかったが、
グエンディズはそのことについて少しだけ詳しく知っていた。
「1000年前からずうっと1000年間、
この島全体に結界を張り続けている巫女がどこかにいるはずだ。
・・・確か、木こり村のマモリって子が
島神様から力を分けて貰って修行を始めたと聞いている」
「へえー、人間の子が?1000年も?」
「私も詳しい事情は知らないけど、
確か今年が1003年か、1004年目くらいになるんじゃないかな」
「巫女さんが島神様から修行を受けたとき、その場に立ち会ったの?」
キュウビが興味深げに尋ねる。
キュウビがこの島に移住する前の出来事だ。
「いや、あとで島神様から大まかな話を聞いただけだ」
「じゃあ、その修行は数年前に終わっちゃって、今じゃ結界も張られなくなっちゃったわけ?」
「うーん、そんな急に無くなるなんて事は・・・」
グエンディズ、はっとする。
「そういえば、今朝、『結界を張れなくなってごめん』って、誰か謝っていたけど・・・
あれはマモリの声か?」
「ふうん、その巫女さん、まだいたんだね」
「で、そのあと『すぐ張り直す』とかも言ってたな」
「結界がまた元通りになるのなら、邪鬼の侵入も以前通りに少なくなるな」
「・・・ああ、だと良いな」
午後、グエンディズが町役場で町長と面会したときにも、
邪鬼の目撃情報がここ半年程増えてきていると聞かされる。
「もう暫く、ホタルたちにはがんばって貰わないとだな・・・」




