act.2 令和8年(西暦2026年)11月 竜頭島 グエンディズ・ウィルト その2
グエンディズに合わせて、ユミカも何とか起き上がり、ベッドの上で上半身だけ起こした状態になり、
ユミカは6年前、畑里町の山道で保護されたところから自分の経験したことを話し始める。
家族と離ればなれになりユミカ一人で農道を歩いていたらしいこと(本人は良く覚えていなかったが)、
保護されたあと魔力暴走を起こしたらしいこと(これも、本人は良く覚えていなかった)、
魔法指導員のナナコに引き取られ、一緒に生活することになったこと、
小学生になったこと、近所の山中にある池の畔で、魔獣に襲われたこと、
魔法を沢山覚えたこと、体内魔力の出力制御もできるようになったこと、
座敷童の幽霊の噂、そして小学六年生になったことなど。
途中から、がんばって身振り手振りを加えながら話すユミカ。
「話の腰を折るようで申し訳ないけど、今日の日付、何年の何月何日か言えるかな?」
グエンディズがあることの確認のためユミカに尋ねる。
「えーと、昨日が14日の木曜日だったから、今日は1972年の12月15日だと思います。光和47年の」
「(なるほど、そう来たか)いや、中断させて申し訳なかった、話を続けてくれ。」
今の質問は何だったんだろうと首をかしげながらも、話を再開するユミカ。
「・・・それで、昨日の4時間目の授業中にサイレンが鳴って、
大きな魔獣が町の中をこっちにやって来るのが見えました」
ユミカが「昨日」起こったことをグエンディズに話している。
「魔獣が私達の小学校に向かってきていたので、生徒達は皆急いで魔獣と反対の方へ向かって避難しました」
「それで、皆その魔獣からは逃げ切れたのかい?」
「いえ、それが何故か、他の生徒達とは別方向に逃げた私とナナコさんのことを追いかけるように・・・
たぶん、私の保有する魔力量?が、人より多かったからだと・・・」
「なるほど、魔獣は魔力量の大きい人間を襲うんだね?」
「はい、ナナコさんがそんなことを言ってました」
「あの」同席して聞いていた看護師が会話に入ってくる。
「私、そっちの方は余り詳しくないんですけど、この島で時々見かける「邪鬼」も人間を襲い魔力を吸い取るとか・・・」
「ああ、そうだよ」さらっと肯定する、グエンディズ。
「まあ、一般の人たちに被害が及ばないように、邪鬼の駆除をがんばっている人たちがいるからね」
二人の会話を聞いて、きょとんとしているユミカ。
「ああ、続けて」話を戻すグエンディズ、「それでその魔獣がユミカ君のこと追いかけてきたって?」
「はい、私とナナコさんを追ってきた魔獣が、たぶん魔法だと思うんですけど、攻撃してきて、
それで一緒に逃げていたナナコさんが魔力中和の結界を張ってくれて魔法の攻撃は防げたんだけど、
魔獣の魔法が付近の民家を破壊して、その破片が・・・ナナコさんを直撃して」
泣き出しそうなユミカ、「で、私・・・ナナコさんを助けようとしていたら・・・ざ、座敷童の幽霊が現れて」
「ふうん、ずうっと町を渡り歩いていたという、噂の座敷童の幽霊ね」
「・・・そしたら、その子が私の腕をつかまえて「一緒に帰ろう」って・・・」
ん?となるグエンディズ「(今、何か説明を抜いたか?)」
「そのまま座敷童に抱きかかえられてふわっと浮き上がったら、下の方にナナコさんと・・・なぜか私がいるのが見えて・・・その後はちょっと・・・」
「魔獣は?まだ追いかけてきていた?」
「さ、さあ・・・あ、魔特隊が出動していましたし・・・でも、ナナコさんが・・・・ナナ・・・」ユミカ、
話している途中でパタンと後ろに倒れて、眠ってしまう。
「あー、ちょっと時間取り過ぎたね」
看護師、ユミカの様子見て、「ええ、疲れて眠っちゃったみたいですね」
「六年間動かしていなかった筋肉を動かしたからな」
ちょっと申し訳なさそうなグエンディズ、「明日また来るよ」と席を立つ。
「あの・・・」看護師がグエンディズに話しかける。
「グエンディズ・ウィルト会長さんでしょうか?」
「ああ、そうだけど」
看護師かしこまって、「私、なかなか会長さんにお目にかかることが出来なくて・・・
その、どうしてもお礼が言いたかったんです」
「お礼?」
「この島にこんなに設備の整った病院を作ってくださったこと、とっても感謝しています。」
グエンディズに頭を下げる看護師。
「私の父が事故に遭って重傷を負ったときにこの病院があったおかげですぐに治療が受けられ、
一命を取り留めることが出来ました。」
グエンディズ、ちょっと照れながら「ああ、そお?」
人から感謝されるのは苦手みたいだ。
「他にも命を救われた人が沢山います!本当に、本当にありがとうございます!」
「う、うん、まあ、この島には長く住んでいるし、いろんなところで、いろんな形で関わってきたから・・・」
看護師は真剣なまなざしを向けているが、グエンディズは気まずくて目を合わせられない。
「(1000年も関わっているとね、思い出したくないことも沢山あるんだよ。この病院だって、本当は・・・)」
看護師、様子を覗いながら、「あの?会長?」
「う、うん、そうだね。この病院が島の人たちの役に立っているなら何よりだよ」
グエンディズ、気まずい様子のまま病室を出て行く。
看護師、深くお辞儀をしながらグエンディズを見送る。
開院時間になっていたため、グエンディズは表玄関から病院を出る。
玄関を出てすぐのところに、先ほど医師と一緒に病室を出た池上が待っていた。
「あの、会長。ちょっとお時間よろしいでしょうか?」
二人は病院近くの、イートインがあるコンビニに入る。
朝食がまだだった二人、軽くサンドイッチとコーヒーを食しながら会話を始める。
「姪のユミカの今後のことに関してなんですが・・・」
「ああ、それに関しては私に考えがある」
「というと?」
「ユミカ君には4月から、護里中学の「自然科学科」に進学して貰うつもりだ、
あそこは全寮制だから、生活の面倒も見てやれる」
池上が今、一番不安に思っていることだったが、
グエンディズの考えを聞いて、ほっとする反面、
グエンディズはユミカの入院費の面倒まで見てくれた。
何故ここまで面倒を見てくれるのか?と不思議に思う。
「いや、でも、あの子は6年間意識不明で、小学校には通っていないんですよ?」
「こっちの小学校にはな」ニヤリと笑うグエンディズ。
「数日中に学力テストを受けさせるが、問題なく進学出来ると思うよ」
事態の展開について行けない池上、
「元はと言えば、私に責任があるんです」
池上、うつむきながら話し始める。
「弟一家がこちらに越してきた日、自分も新居で荷物の荷ほどきを手伝っていたんですが、
昼の12時を回って、どこかで昼食を食べに行こうと言うことになったんです。」
池上、目を閉じて辛そうに思い出す。
「彼らはこの島のことまだ何も知りませんから、
僕がどこか食事の出来るところへ案内することになりました」
ユミカの家族の新居は市街地のハズレにあった。近所にも食事の出来るところはあったのだが、
どうせなら少し離れたところにあるレストランに連れて行きたいと、池上とユミカ達家族4人連れだって、
電車で二駅の島一番の繁華街にあるレストランへ出かけたのだった。
「事故に遭ったのは、そのレストランで食事をした帰りでした。」
くやしそうに涙を流しながら語る池上。
「たまたま道ばたですれ違った親子が、ペットを連れていたのをユミカが見つけて、
立ち止まってそちらの方を見つめていたので、私もユミカが迷子にならないように近くで立ち止まって見守っていたのですが・・・」
池上、目を伏せ、無念そうに、
「気がついたときには私のすぐ目の前をトラックが走りすぎて、そのまま電柱にぶつかって・・・」
大きくため息、
「回りにはユミカたち家族4人と、近くを歩いていたペット連れの親子2人が倒れていました」
「キミにはケガはなかったのかい?」
「あと数センチずれていたら自分もはねられていました、たぶん」
池上氏、グエンディズを見て、手にしたサンドイッチにかぶりつき、自分に怒りをぶつけるように、
「今でも思うんです、あの日、わざわざ電車に乗って食事に出掛けなければ・・・、
近所の食堂とかで済ましておけばと・・・」
「おそらくだが、ユミカ君は『異世界転成』を経験している」
「異世界転成ですか?」
「そうだ、ご両親と兄君には気の毒だったが・・・いや、
この3人もどこかへ転成しているかも・・・ああ、不確かな話は無しだな」
今のは失言だったかなとグエンディズ。
「ご家族3人が亡くなられたのは残念だが、ユミカ君は無事生き延びたし、
おそらくこの6年の間にユミカ君の意識は異世界で得がたい経験をして戻ってきている」
グエンディズ、池上氏の背中をぽんぽんと優しくたたき、
「今はユミカ君の幸せと未来のことだけを考えよう」
「姪のユミカのことをよろしくお願いします」深々と頭を下げて、
池上はグエンディズと別れ、職場へと向かった。
「異世界転成」
読みは同じだが、「異世界転生」とは異なる。
強い魔力を持つ者が「現世界」で死亡すると、
強い魔力に包まれ、守られた魂は「現世界」を離れ「魔想現実空間」に引き込まれる。
「魔想現実空間」には「異世界」と呼ばれる世界が無数に存在している。
魂はその中の、どこか一つの「異世界」に漂着し、
「魔想現実空間」に無限に存在する「魔粒子(魔素)」を集める。
魂は集めた魔粒子を使い、自らの記憶する形に自身の体を(何故か身につけている物も一緒に)再構成して、
新しい「肉体」を得るのだ。
「意識だけでも異世界転成出来たんだな・・・」新しい発見が有り、少し楽しげなグエンディズだった。




