act.2 令和8年(西暦2026年)11月 竜頭島 グエンディズ・ウィルト その1
グエンディズ・ウィルトは、南九州の端っこにある竜頭島に1000年前から棲み続けている魔女である。
西暦500年頃、イギリスのウェールズ地方の出身で、見た目25才くらい、「導きの魔女」の二つ名を持つ。
まだ日の出前の午前5時、薄暗い中、今日もジャージ姿で自宅を出て日課の朝の散歩に出かける。
自宅を出るとすぐ「護里中学校・自然科学科」の学生寮(竜芽寮)の裏手に出る。
グエンディズ・ウィルト 24才(実年齢1526才)、ウェールズ出身
「おはよー!グーさん!!」
竜芽寮の裏手で畑仕事をしていたジョーンがグエンディズに気付き声を掛ける。
ジョーンは見た目19才、金髪ショートカットのフランス人女性。
「おはよ-、シャルル君もおはよー」グエンディズは駆け寄ってきたブラーマ種の巨大鶏にも挨拶。
巨大鶏の頭をなでなでしながらジョーンに「今日は何を?」
「うーん、ビーツとレンズ豆かなあ?だんだん寒くなってきたから、これで何か体の温まる物作って貰うよ」
「ああ、ボルシチとか良いかも」
「うん、いいかも!」ジョーン、笑顔で答える。
ジョーン・ダーク 19才(実年齢614才)、フランス人
南九州の端っこにひっついている竜頭島、元々火山島なので地熱が高く、温泉も湧き出るのだが、
回りが海なので11月になると北風が吹き始め、気温もそれなりに低くなる。
真冬には雪も降るが、地熱が高いので積もることはない。
「もうすぐ冬か・・」また歩き始めたグエンディズ、ちょっとブルッときた。
「(今日の予定は・・・午後から町長さんと会うんだっけ・・・)」
ぶつぶつつぶやきながら隣接する大茸神社の境内を歩いていると、突然誰かに話しかけられた。
「長い間留守にしていてごめん!島の結界、すぐ強化するから!」
「えっ、誰?」グエンディズ、辺りを見回すが、誰もいない。
遠い昔、どこかで聞いた声だった。
グエンディズ、声の主をなんとか思いだそうとしていると、近くの竜芽寮から管理人のヤヨイが飛び出して来る。
「グーさん!病院から電話!眠り姫が目覚めたって!」
まだ受付時間前の護里総合病院の関係者口、守衛に挨拶しながらグエンディズが入ってくる。
守衛「おはようございます!お疲れ様です、会長!」
そう言うと、先導してグエンディズを待合室まで案内する。
まだ人気の無い、薄暗い待合室に到着すると、看護師と30代半ばくらいの軽装の男性が待っていた。
男性が立ち上がってグエンディズを迎える。
「会長、わざわざすみません」
「えーと、あの子の叔父さんの・・・池上君だっけ?」
「はい、ウィッチ製薬第二研究室の池上です」
ウィッチグループの会長であるグエンディズに、丁寧に頭を下げる池上。
「意識が戻ったのって、どのくらい前?」
「二時間くらい前です、一時間ほど前に携帯に連絡を貰い駆けつけました」
「そうか、部屋は移っていないよね」グエンディズ、側に立っていた看護師に確認する。
「はい、五階の508号室です」
(「こまるわ」なかなか目が覚めなくて・・・って覚えたんだっけ)
看護師の先導で二人は五階へ移動、508号室前までやって来た。
グエンディズ、病室前で池上の方に向き直り、
「6年前の事故の詳細に関しては、後日、私から彼女に話すから」
「はい、まだ12才の女の子なので、そういう話は慎重に、と言うことですね」
実際には、軽傷だったにもかかわらず、何故6年間も意識不明になったのかを、
グエンディズなりに調べてみたかったからなのだが、
説明するのも面倒なのでここはそういうことにしといて、軽くうなずくグエンディズ。
「(偶然意識不明になったのか、何かの力が働いてそうなったのかをまずはっきりさせたいな)」
508号室では、夜番の医師(女医)が目覚めた少女の診察をしていた。
看護師に連れられてグエンディズと、池上が病室に入ってくる。
ベッド上には、まだ点滴のチューブや、心電図のコードが繋がれたままの少女が横たわっている。
部屋に入ってきたグエンディズに気付いた少女、首を動かしグエンディズの方を見る。
「先生、会長がいらっしゃいました」看護師が医師に話しかける。
「これはこれは、こんな朝早くから申し訳ありませんね」と医師、グエンディズに申し訳なさそうに。
「緊急だからね、それより容体は?」
「それが、これだけ長い期間意識不明状態が続くと、脳と身体の機能に何らかの影響が出るはずなんですが・・・」
「・・・出ていない?」
「はい、さすがに筋肉は少し弱っています。なので、今すぐ歩き回るとかは出来ませんが、それ以外はほとんど正常です」
「6年間意識不明だったんだよな」医師に確認するグエンディズ。
「はい、間違いありません、不思議なことに、この6年間、普通に眠っているのと全く同じ状態でした。」
その間、体温や心拍数に多少の変化はあったが、脳や内臓に大きな不調は起こらなかったという。
「(通常の意識不明とは異なると言うことか)」考え込むグエンディズ。
その様子を見て、「・・・一応意識ははっきりしているので、
少しだけなら彼女との会話は可能です、話しますか?」
「そうだな、お願いするよ」
「では、後は頼むよ、あ、親族の方には色々説明することがありますので」
そう言って看護師に後を任せると、ユミカの叔父を連れて医師は退室する。
意識不明患者の個室で、見舞いに来る者も誰もいなかったため、余分な物が何も無い殺風景な個室だ。
「はは、ここ、椅子もテーブルも何も無いんだ」本当に意識不明患者と寝かせておくためだけの部屋だった。
グエンディズはベッドの脇に立ち、少女に優しく話しかける。
「初めまして、私はグエンディズ・ウィルト、この竜頭島には長いこと住んでいる、
まあ、世話役みたいなもんだ」と自己紹介する。
「えーっと、君の名前は・・・、池上ユミカさんだよね?」
「はい・・・。あの、看護婦さん」ユミカ、同席している看護師に、「林ナナコさんは大丈夫でしょうか?」
「はい?」
「怪我をしてここの?同じ病院に運ばれていると思うんですけど」
「ケガをして搬送された・・・林ナナコさんですか?」看護師、首をかしげる。
「いえ、そのような方は・・・」
「そんな・・・」愕然とするユミカ。
「へえ」グエンディズ、にやっと笑う。
「(面白い話が聞けそうだ)」




