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妖精はかく語れない

隔日投稿を予定していましたが、多忙と短編執筆のため、投稿頻度が下がりそうです。

更新通知など入れて、気長にお待ちくださいませ。

「だからさー、今は店閉めてんだって! 売れるもんなんてないよ」

「あー、いや。そんな気はしてたんだけどさ……」

「じゃあ何、強盗でもしようっての?」

「違うって!」


 銀色の光を追って謎の建屋に侵入した二人は、案の定、店主らしき猫人から痛烈な罵倒を浴びていた。

 妖精に呼ばれたなんて理由は通用しそうにない。しかも、当の妖精はどこかへ消えてしまっていた。

 

「さあ、用がないならとっとと出てってよ。」


 彼女の白い指先が、正面の入口を指さした。ここまで来ておいて釈然としないが、ごねて憲兵なぞを呼ばれては元も子もない。フィンシスが諦めて建屋から出ようとした時、


「もしかしてお客さん? 久々だね、シャテルお姉ちゃん」


 カウンターの裏から、軽やかなソプラノが響き渡った。フィンシスがそちらに視線を向けると、幼い少女がひょこっと顔を覗かせていた。先程の妖精を肩に乗せた少女は小走りでこちらに近づくと、猫人のすぐ真後ろで立ち止まった。


「お客さんをじゃけんにしちゃだめなんだよ!」

「ごめんね〜エレンちゃん。ちゃんとお仕事するからさ、二階のお部屋に戻ってくれる? お客さんびっくりしちゃうから」 

「分かった! お仕事がんばってね、お姉ちゃん。しょうばいは、あいきょうが大事なんだから。パパが言ってたの!」

「知ってますよ〜っと。ほら、行った行った」


 大人ぶったいじらしい少女と、即座に猫を被った猫人の様子を、フィンシスは遠巻きにうかがっていた。何の変哲もない、穏やかな風景。

 しかし、その少女が現れた時から、背筋がゾワゾワと泡立って仕方がない。何かに睨めつけられているような、警戒されているような、異様な感覚。妙な違和感の正体は、彼女が階段を登ろうと後ろを振り向いた瞬間、明らかになった。


 少女の小さな背中を、不自然極まる黒く大きな靄が追いかけている。あんなにも異様な影に、なぜ今まで気づけなかったのだろう。認識の隅から突如現れた『それ』に、少女も猫人も反応を示さない。おそらく見えていないのだ。影はそのまま少女の後ろをついて回り、やがて二階へと消えていった。

 

 恐怖と困惑に頭を埋め尽くされたフィンシスは、この手の現象に馴染み深いであろうユウリに目線を送ってみる。

 

(あれ、一体何なんだ)

「……随分癖のある歩き方だな」

 

 ユウリはフィンシスの視線に一瞥を返したものの、無視するように独り言を呟いた。頼むから説明してくれ。フィンシスの困惑は解決するどころか、むしろ増大した。


 少女が階上へ消えた途端、猫人は再び剣呑な気配を露わにした。言葉にこそしていないが、『早く出ていってくれ』と言わんばかりにこちらを睨みつけている。彼女の恐ろしい視線すら気にも留めず、ユウリは猫人へ疑問を投げかけた。


「階段へ踏み出すのは右足から、段には浅く足をかけて、視線は下向き。律儀に一段ずつ上がるかと思えば、手すりを握った腕ごと体を引き上げる癖がある。──店主、あの娘の背中を追っているのは、もしかして彼女の父親か?」


「………………それ、親方の癖だ」


 ユウリの問いかけに返された的外れな回答。しかしその言葉は、彼女の動揺を如実に示していた。その猫人と同じくらいには、フィンシスも困惑しきりだったが。

 理解が追いつかないフィンシスは、ユウリの脇腹を小突き、小声で説明を促した。


(なぁ、マジで話について行けねぇんだけど)

(お前にも見えてたんじゃないのか?あの男の亡霊が)

(あの黒い靄のことか?男だったのかあれ)

「……で、あんた結局何が言いたいわけ?」


 残念なことに、この場においてユウリの発言の意図を理解できる人間はいなかった。 

 

「えぇっと、よく分かんないけどさ、とりあえず店から出てってもらってもいい? 色々あって、今店閉めてるからさ」


 困惑から真っ先に抜け出したシャテルは、再び二人に帰るよう促した。フィンシスとて出ていくつもりだったが、先ほどの靄を見てそうとも言えなくなった。というよりも、あれはおそらくユウリの管轄なのだろう。隣から、げんなりしたオーラが漂ってきている。好奇心の先に仕事が待ち受けていたのなら、確かに誰だって失望ものだ。

  

「……俺たちだって好きで来たわけじゃない。文句があるなら、呼びつけた張本人に言え」


 ユウリは、もはや説明も面倒だとため息をつくと、目線のすぐ先、先ほど少女たちが消えていった階段を指さす。そこにいたのは、二人をここへ導いた本人、銀の光を纏った妖精だった。


「妖精が導くのは、どうやら厄介事への道程だったらしい。お前が俺たちを呼んだのは、あの亡霊を片付けさせるためだろう?」


 妖精は何も答えないまま、悪戯にユウリの指先に触れるだけであった。


「うちのフィネラちゃん、喋れないんだけど」

「………………そうなのか」



TIPS17:妖精印

 幸運、生存を導くとされる刻印。妖精が認めた勇士に授けるとされる。武器や鎧に物理的に刻まれるものもあれば、エーテルを用いて概念的に記されるものもある。

 刻印の効力は妖精が込める想念に依存しており、濫造には向いていない。ましてや商業化された妖精印など、効力はないに等しい。

 

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