090 変わりゆく日常……
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同時多発ダンジョンスタンピード……1月1日に世界中で発生した、ダンジョンからの一斉スタンピードは、いつの間にかそんな名前で呼ばれるようになっていた。
正月が終わって、さらにしばらく経った。
日本では、3日頃には大規模な混乱もかなり収まり、そこから先は復旧や被害確認が中心になっていた。もちろん、完全に元通りというわけじゃない。
ダンジョンから溢れたモンスターによって壊された建物もあるし、亡くなった人もいる。それでも、世界全体で見れば、日本はかなり被害が少なかった国らしい。
一方で、今も対応に追われている国は多い。特に国土が広い国では、被害地域の把握だけでも大変らしい。広い国土全体で同時に問題が起きれば、当然ながら救助や討伐の手が足りなくなる。
さらに人口の多い国まで重なると、被害は洒落にならない。人口密集地と広大な国土……その両方の条件に当てはまった国では、犠牲者が3桁万以上に達したとか、達していないとか。
正確な数字が出ていない地域も多いらしい。
そして、被害の少なかった日本には、当然のように非難も飛んできた。もっと支援しろ、自衛隊を派遣しろ、日本だけ被害が少なかったのだから、その分を負担するべきだ。
そんな主張をする国もあったらしい。
ただ、日本政府の回答は、かなり冷静だった。各国の安全対策や初動対応について、日本政府が責任を負うものではない。そして、日本国内にも被害が出ており、国内の復旧と安全確保を優先する必要がある。
要するに、自分たちの問題を日本へ責任転嫁するな、ということだ。
国際的にどうなのか、という問題はあるらしい。でも、この状況で自衛隊を派遣する余裕が日本にあるわけでもない。仮に派遣できたとしても、現地で何かしらの理由をつけられて拘束されたり、行動を制限されたりする可能性だってある。
そんな危険のある場所へ、この世界情勢で自衛隊を送り出すほど、日本政府も愚かではなかった。
最近は、テレビを見ていても、日本の被害より海外の被害を報道する時間の方が圧倒的に長くなっている。
大学も始まり、居酒屋のバイトも始まっている。
大学やバイトの初日は、さすがに少しぎこちなかった。誰もが1月1日のことを意識していたし、休みの間に世界が変わってしまったのだから、仕方がない。
それでも、2日目になると、完全に元通りとはいかないものの、少しずつ普段の空気が戻ってきた。
俺自身も、大学へ行って、授業を受けて、バイトへ行く……そんな生活に戻っている。
まあ、世間的には「戻った」と言えるのかもしれない。世界そのものは、まだ戻っていない。
特に印象に残ったのは、多くの集落の人間が亡くなった地域で行われた慰霊や追悼のための訪問だ。新聞でもテレビでも大きく取り上げられていた。
遺族の中には、人口密集地へモンスターを入れないために、モンスターを追い返したことを問題にする人もいた。
戦った人たちを、間接的な殺人罪のような表現で非難する……そんな動きまであったらしい。ただ、その流れの半分くらいは、どうやら詐欺を仕掛ける人間たちによって作られたものだった。
悲しみや怒りを煽って、金を集める。そして、その流れに乗って新しい詐欺で儲けようとする反社会的な組織まで出てきた……そこまでやるかね。
ニュースを見ながら、思わず考えてしまう……善意の心なんて、ないんだろうな。傷に塩を塗るような行為を平然とするのだから、良心なんてものは持ち合わせていないのだろう。
もっとも、そういう人間でも、自分の家族が対象になれば話は変わるらしい。
家族だけは大切にする……家族のためなら何でもする……そういう人間もいるらしい。
家族は守りたいと思うのはよく分かるが、それ以外は、よく分からない世界だ。
少なくとも俺は、自分の家族が大切だけど、他人を傷つけてまで守ろうとは思わない……まあ、実際にその状況になったら、どうするかは分からないけど。
そんな世の中の騒ぎとは別に、俺にはやることがあった。
会社の件は、ひとまず父親に任せている。俺は大学とバイトを続けながら、キャンプ設営の能力について検証することにした。
まず確認したかったのは、セーフティエリアの強度だ。以前、ゴブリンたちが結界のようなものを叩いていた。なら、同じようなことを人間やモンスターがやれば、どの程度の衝撃まで耐えられるのか。
それが分かればいい、とはいえ……
「どうやって攻撃するんだ?」
これが問題だった。強度を測るには、それなりに強い衝撃を与える必要がある。でも、普通に殴るだけでは大した検証にならない。俺が殴ろうとしても、敵意があるない関係なく、結界をすり抜けてしまう。
試しに楓に殴ってもらった。
「……どう?」
「止まる」
「弾かれるんじゃなくて?」
「うん。なんていうか……物理法則を無視して、そこで止まる感じ……かな?」
楓はそんなことを言いながら、自分の手を見た。ミミも同じことを言っていたな。ただ、言葉だけでは分からないから、何とかして実際に確認する必要がある。
結界の範囲については、以前の検証でかなり分かっている。どうすれば範囲が広がるのか、どんな条件なら別々のエリアが繋がるのか、その辺りは、ある程度把握できている。
ただ、正確な境界線を調べるとなると話は別だ。今のところ、虫を使うか、ミミに確認してもらうくらいしか方法がない。
俺自身には見えないからだ。
「もっと分かりやすく見えればいいんだけどな」
そう言っても、ないものはない。
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