089 翼なりの考え
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「今、問題になっているのって、国が個人に対して保証するのが難しいというか……前例を作りたくない政府の考えが原因なんじゃないかと思ってるんだけど、間違ってるかな?」
父親は少し考える。
「他にも理由はあると思うが、前例を作りたくないというのは、間違っていないと思う」
「そこで考えたんだけどさ。会社を作って、会社という箱で交渉すれば、個人に対して譲歩したってことにはならないよな?」
「……会社か」
「会社があれば、俺個人の要求じゃなくて、会社としての要求にできると思うんだけど」
父親は黙った……腕を組み、しばらく考えている。
「基本路線は、それでいいと思う。ただ、いろいろと内容を詰める必要がある。それに、経営を誰がするのかという問題も出てくる」
「そこは……勝手な考えだけど、父さんに会社を任せて、今のまま交渉を続けてもらえたらって思ってる」
父親は少し驚いた顔をした。
「もちろん仕事になるから、報酬の問題も出てくると思う。でも、そこは利益の何%とかにできないかな?」
「利益の何%?」
「利益が出なければ今のまま。利益が出たら、その中から報酬を出す。そういう形なら、固定で給料を払う必要もないし」
今の俺には、毎月決まった金額を払える保証なんてない。キャンプ設営で何かを生産できるようになったとしても、それが利益になるかどうかは分からない。なら、利益が出た時だけ報酬を支払う形の方がいい。
「できなくはないのか?」
父親が考え込む。
「詳しくは分からないから、知り合いに聞いてみる必要はあるな。それに、自分で交渉できるようになるまでは、俺が後見人みたいなことをするのも悪くないと思う」
父親が母親を見る。
「母さんもいるし、協力すれば何とかなるだろう」
「そうね。家族なんだから、できることは協力するわよ」
「ありがとう」
会社を作る……口で言うだけなら簡単だ。でも、実際にやるなら、決めなければならないことが山ほどある。
会社の目的、資金、契約、報酬、税金……そして、俺のキャンプ設営が会社という形になった時に、どこまで有効なのか。
「それと、もう1つ問題がある。キャンプ設営が、個人じゃなく会社として扱われた場合にどうなるのか、確認しないといけない」
俺自身が設営に関わる必要がある。
そこは分かっている。でも、会社の従業員が設営を手伝った場合は? 家族が手伝った場合は、問題なかったが、他の人だとどうなるのか……そもそも、俺が会社の代表者である必要があるのか?
分からないことだらけだ。
「お兄ちゃん、ダンジョン探査局に頼んで検証するのは?」
「できれば避けたい」
俺は即答する。
「協力してもらったら、それを理由に仕事を押し付けられる可能性がある。だから、できるだけ自分たちだけで検証したい」
セーフティエリアの範囲は分かっているが、雇用や協力してくれた相手に指示だけした場合と、俺だけで作業した場合の違い。
試せることはいくらでもある。
「……なら、まずは会社を作る前に、検証項目を整理した方がいいな。弁護士や知り合いにも相談して、問題がない範囲でやる」
「それがいいと思う」
「ただ、翼……会社を作るっていうのは、国と喧嘩するためだけじゃないぞ」
「分かってる」
俺もそこは理解している。会社という形を作るのは、国に反抗するためじゃない。俺自身と家族を守るためだ。そして、俺のスキルを利用する人間が増えた時に、個人の善意だけで対応しないためでもある。
今までは、俺個人の問題だった。でも、昨日のスタンピードで状況は変わった。安全な場所を作れる人間が必要になる可能性が高い。
俺だけじゃない……他の人間だって、同じような問題を抱えることになるだろう。
「……キャンプって、本当に自由だと思ってたんだけどな」
俺は庭に張ったタープを見る……スキルによって安全エリアになっているが、自由に見えて、その実、いろいろなルールに縛られている。
会社を作る……そのためには、まだ調べなければならないことが多い。でも、方向性は決まった。俺1人で国と交渉するのではなく、会社という形にする。
そして、その会社を父さんに任せる。俺は大学を続けながら、自分にしかできないことをやる。
まずは、キャンプ設営がどこまで通用するのか。
それを自分たちの手で確かめていこう……昨日、世界は大きく変わった。だからこそ、俺も今までと同じやり方だけにこだわっているわけにはいかない。
「まあ、今日は正月だしな」
父親を見る。
「会社の話は明日からでいいんじゃない?」
「……そうだな」
「せっかくのお正月なんだから、今日はゆっくりしましょう」
世界中がしっちゃかめっちゃかな状態ではあるが、自分たちが一番大切なので、今はゆっくりとしよう。
ミミはというと、縁側で丸くなったまま、こちらを見ていた。どうやら、今日くらいは何も考えずに過ごせということらしい。
世界が変わったからといって、俺たちの正月まで変える必要はない。そう思いながら、俺はもう一度、庭に張ったタープを眺めた。
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