088 年末早々、奴らからの不快な連絡
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昨日、ダンジョンからモンスターが大量にあふれ出した。だからといって、俺のキャンプ設営のセーフティエリアまで何か変化しているとは限らない。それでも、確認しておくに越したことはない。
家の庭だけではなく、周囲も歩いてみる。以前、周囲を確認した時と同じように、少しずつ範囲を広げていく。
家の周囲200mほど……道路を歩き、周辺の建物を確認する。何かが壊れている様子もない。モンスターが通ったような痕跡もない。
ダンジョンが新しく発生した様子もない。家の近くには、ダンジョンがないので当たり前と言えば当たり前か。
「側に変わった様子はないな……いたって普通だな」
楓も周囲を見ながら答える。
テレビやSNSから得られる情報でも、家の周囲に大きな異常がないことは分かっていた。それでも、自分の目で確かめることには意味がある。家族を守るなら、なおさらだ。
異常がないことを確認しておけば、何かあった時にも判断しやすい。そんなことを考えていると、いつの間にかミミが楓の腕の中から降りていた。
「ミミ、寒くないのか?」
にゃっと答えながら、俺と楓の周りを走り始める。
「元気だなぁ……」
昨日まで世界中でモンスターが暴れていたというのに、こいつだけはいつも通りだ。
いや……ミミにとっては、世界が変わっても自分が生活している場所がすべてだから、いつも通りなのかもしれない。
家へ戻り、玄関を開けたところで、怒鳴り声が聞こえてきた。
「ふざけるな! 息子は、何も悪いことをしていない!」
父親の声だ。
慌てて家の中へ入ると、リビングでは、父親がスマホを手にしている。
母親がこちらへ振り返った。
「おかえり。ダンジョン探査局の人から電話があったのよ」
「ダンジョン探査局?」
「そう。それで、ちょっと口論になって……」
母親が困ったように説明する。どうやら、俺たちが外へ出ている間に連絡が来たらしい。何を言われたのかまでは分からないが、父親が怒鳴るくらいなのだから、相当な内容だったのだろう。
「……まだ話してるの?」
父親は電話を切らず、そのまま10分ほど話し続けて、ようやく電話を切る。
スマホをテーブルへ置くと、大きく息を吐いた。
「ダンジョン探査局の人間は、本当に人を馬鹿にしてる……翼が協力していれば、被害を減らせたのにとか言ってきやがった」
「……は?」
意味が分からない。俺が協力していれば被害が減った? そもそも、俺は学生だ。ダンジョン探査局の職員でもなければ、自衛隊員でもない。ただ資格を持っているだけの一般人だ。
その資格も、とにかく急いで作るだけ作って、ダンジョンに潜る人間の対策をしただけで、返納するような仕組みが作られておらず、免許のように持っているだけでもいいか? という考えでとったことを後悔している。
「筋違いも甚だしい」
父親の声には、まだ怒りが残っていた。
「国民を守るのは、一般国民じゃなく、自衛隊や警察の役目だろ。それなのに、民間人の、しかも学生の翼に、あたかも責任があるような言い方は、さすがに許せない」
俺だって、むかつく……協力を拒否したわけではない。条件を提示してくれと言っているだけだ。正当な報酬と、何かあった場合の補償……それすら曖昧なまま、ただ協力してくれと言われても困る。
「すぐに弁護士の先生に連絡して、音声データを渡しておこう」
「録音してたの?」
「もちろんだ」
父さんはこういうところが抜け目ない。俺が知らない間に、すでにいろいろ準備していたらしい。
「実はな、翼以外にも、安全な空間を作れる人間はいるらしい。ただ、翼のキャンプ設営ほど使い勝手がいいわけじゃない」
「へえ……」
「だから、協力を求められても期待に沿えないという返答をしている人もいる」
その人は、SNSで自分の状況を公開していたらしい。ところが、ダンジョン探査局から何度も連絡が来る。毎日のように協力を求められ、提示された金額は最低ラインに近い。
協力を求められた人だって、生活するためには仕事をする必要がある。それなのに、仕事を休んで協力しろと言われても、そんな条件では生活できない。
「その人、最後には着信拒否にして、それでも連絡してくるなら訴えるって伝えたらしい」
「そこまでやらないと止まらなかったのか……」
「それだけじゃない。その投稿を見て、協力しないなんて非国民だ、とか言い出す連中まで出てきた」
「うわ……」
「本人が、生活するためには仕事をしなきゃならないのに、最低ラインの補償でどうやって生活するんだ、と反論したら、かなり炎上したそうだ」
そして最終的には、非国民だとか、本人を貶めるような発言をした人間たちに対して、弁護士の団体が介入した。全員、訴えられることになったらしい。
「父さん、その話まで知ってたの?」
「ダンジョン探査局から最初に電話が来た時点で、こういう流れになる可能性は考えていたからな」
だから、協力してくれる弁護士を探していた。そして、すでに弁護士の団体へ依頼までしていたらしい。
「私たちは、協力しないとは言っていない」
父親が落ち着いた声で言う……
「正当な報酬と補償があれば協力すると言っている。その補償内容を曖昧にしたまま、ただ働きに近い形で扱き使おうとしているのが明け透けに見えるのに、協力などできるわけがない」
俺も同意する。
大半のことを父親に任せている。だからこそ、俺自身は少し前から考えていたことがある。半年くらい前から、ずっと頭の片隅にあったことだ。
「父さん、この際に相談しておきたいんだけど」
「なんだ?」
俺は少し考えてから、話し始める。
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