082 日常って大切なんだな
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俺はというと、まだ仕事が残っている。バーベキューコンロの片付けだ。
残った炭を処理する必要があるが、先に網をキレイにする必要があった。コンロへ網を戻し、残っている火を強くする。
網に残った油や肉のカスが焼けて、煙が出始める。しばらくすると、網全体がかなり熱くなり、焦げ付く。これくらい焼けば、こびりついた汚れも落としやすくなる。
炭は火を消すために壺へ入れる。壺自体がかなり熱くなるので、砂のある場所へ置く。念のため、すぐ近くには水も用意しておく。
網はワイヤーブラシでこすって、焦げをしっかり落とす。最後にきれいに拭き取って、薄く油を塗っておく。
これで片付けも終わりだ。手を洗ってリビングへ戻ると、縁側へ続く扉の前に、ミミが座って外を眺めていた。
両親は……映画か? ドラマか?
ミミがいなくなったからか、テレビを使ってサブスクの動画を見ていた。
俺はミミを抱き上げる。今日は珍しく、抵抗しない。
「どうした?」
外を見るが、冬の庭は静かだった。ちょこちょことかまっていると、おやつの時間になった。
「楓、おやつだぞ」
そう呼んだ瞬間、ドタドタドタッ! 階段をものすごい勢いで降りてくる。
「そんなに慌てなくても、おやつは逃げないぞ」
ミミと顔を見合わせる……同じことを思ったらしい。
ミミは、今日の昼に肉をかなり食べた。普段より摂取カロリーが高かったはず。だから、
「今日は1本だけな」
ミミは少し考えたあと、素直に受け入れた。最近のミミなら、もっと欲しいと抗議するかと思ったが、意外と聞き分けがいい。
おやつを食べ終わると、ミミは楓と一緒に部屋へ行ってしまった。
俺はリビングに残ったが、予定がない。キャンプの予定がなくなったから、なおさらそう感じるのかもしれない。
「予定がない日って、こんなに暇だったっけ?」
少し考える……そういえば、最近はあまり読書もできていない。大学、バイト、キャンプ、革細工……何だかんだで、予定が詰まっていた。
「……読むか?」
部屋に戻り、途中まで読んでいた小説を手に取る。今日は時間があったので、夕食まで、がっつりと読むことにした。
気付けば、3時間ほど経っていた。1冊と半分……溜まっていたシリーズを、最新刊まで読み終えてしまった。
「……結構読んだな」
満足して本を閉じると、楓が部屋を覗いてきた。
「お兄ちゃん。お母さん酔ってて、食事作る気ないみたい」
「……そんな気はしてた」
昼からずっと飲んでいたからな。
「父さんと母さん、あれからずっと飲んでた感じか?」
「うん。ちょこちょこおつまみ食べながら飲んでたみたい」
「なら、2人の夕食は、おつまみを少し出しておけばいいか」
どうせ、まともな量の夕食は食べられないだろう。
「楓は何か食べたいものある?」
「何か、どんぶりが食べたい。かつ丼とか牛丼とか、そんな感じの」
昼にあれだけ肉を食べたのに、まだ肉が食べたいのか。
「……何か肉があるか確認するか」
冷蔵庫を開ける。残っている肉を確認すると、豚肉が結構残っていた。
「楓、豚丼でもいいか?」
「いいね、お兄ちゃん! 牛丼タイプにする? それともタレタイプにする? がっつりした、タレタイプのやつがいいな!」
俺に聞いてるようで、最初から自分の中では決まっているようで、タレタイプの豚丼を要求してきた。
「お兄ちゃん、よろしく!」
仕方ない……豚肉を取り出し、スマホでレシピを確認する。北海道、十勝・帯広発祥の郷土料理で、甘辛いタレを作って、豚肉を焼いて絡めるタイプだ。さすがにレシピは知らなかったので、しっかりとレシピを確認する。
「楓、味が濃いからキャベツの千切りも乗せるぞ」
「ソースカツみたいに?」
「まあ、似たようなもんだな」
キャベツも一緒に食べれば、少しはバランスもいい。白髪ねぎも作る。っと、その前に、両親の分を先に作るか。
両親の前で俺と楓だけ食べ始めたら、酔っ払い2人に絡まれる可能性が高いから、それは避けたい……残った豚肉を見る。
「これなら豚しゃぶにできるな」
鍋にたっぷり湯を沸かし、もやしは電子レンジで加熱して、水気を切る。玉ねぎは多めにスライスして、水へさらして辛みを抜く。
鍋に砂糖を少し入れ、豚肉を1枚ずつ入れて、しゃぶしゃぶにしていく。少し厚めの肉なので、20秒ほど火を通し、冷水に軽くくぐらせ、水気を切る。皿にもやしと玉ねぎを敷き、その上へ豚肉を盛り付ける。
「はい。父さん、母さん」
ポン酢とゴマドレッシングも置いておく。
「好きな方で食べて」
「翼、ありがとぉ」
母さんは上機嫌だ。父親も酒を飲みながら肉を取っている。
俺は豚丼を作る。ご飯の上にたっぷり千切りキャベツを敷き、タレを絡めた豚肉をその上に盛り付ける。最後に白髪ねぎを乗せる。
「いただきます!」
楓は嬉しそうに箸を伸ばす。俺も自分の分を作る。ミミには専用の猫缶を用意した。そして、2人と1匹で夕食が始まる。
俺と楓は豚丼で、ミミは猫缶を食べている。
俺がふと顔を上げると、ミミが両親を見ていた。
母親が父親へ肉を渡していて、父親が母親へ酒を注いでいる。ミミは2人をじっと見たあと、なんとも言えない顔をしていた。
「……呆れてるな、ミミ」
否定しなかった。俺と楓も顔を見合わせる。
「まあ、仲がいいのはいいことだろ」
昼間はキャンプが潰れてしまったことを残念に思っていたが、家族でバーベキューをして、両親は酒を飲んで、俺と楓はミミと遊んで、のんびり本を読む。
これはこれで、悪くない休日だった。
むしろ、こういう何でもない1日の方が、今の俺には貴重なんだろうな。昨日、命懸けの出来事があったからこそ、こうして家族と笑いながら食事をしている時間が、妙にありがたく感じられた。
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