080 動物の不思議な力
アクセスありがとうございます。
「ミミが強いことは分かった。でも、家族としては心配だ。楓、スキルのレベルを聞いてくれるか?」
俺は、楓にお願いする。
ゴブリン相手に無傷だったとはいえ、危険なことに変わりはない。強いから心配しなくていい、なんて話にはならない。
楓はミミを抱き上げると、優しく問い掛けた。
「ミミちゃん、今のスキルってどのくらいなの?」
「にゃ」
しばらく話を聞いていた楓が、順番に説明してくれる。
「鑑定が4、引っかきが3、噛みつきが3、跳躍が4、身体能力強化が4、体当たりが2、毛繕いが3、パンチが3、キックが3。その他にもいろいろあるみたいだけど、戦う力が強くなるのは、この辺だって」
思っていた以上に多い……
「それに、お兄ちゃんの作った首輪でさらに強くなってるから、ゴブリンの足を傷付けるのは朝飯前って言ってるよ」
以前から、スキルの数とレベルが身体能力に直結するという検証結果は、掲示板などで出ている。
だから、これだけスキルを持っていれば、ミミが普通の猫とは比べ物にならないほど強いことも理解できる。
「本当は、ゴブリンを倒したかったけど、体の大きさで難しいから、行動力を奪ったんだって。そっちの方が怪我もしないし、やりやすかったから……だってさ」
俺も父さんも母さんも、思わず顔を見合わせた。
理屈は分かる……猫の大きさでは急所まで届かない。だから素早さを生かしてアキレス腱を狙い、動けなくした。
確かに合理的だ。でも、それを聞いて安心できるかと言われれば話は別だった。
俺は真面目な声で呼び掛ける。
「ミミ、強いのは分かった。でも、家族としては心配なんだ。無茶だけはするな」
「にゃ」
返事はした。でも、どう見ても聞いているふりだ。楓も苦笑いする。
「ミミちゃん、分かったって言ってるけど……たぶん分かってないね」
大型犬くらいの大きさがあれば、噛みつきも引っかきも致命傷になるんだろう。だけど、ミミの体では、アキレス腱を切るくらいが限界なんだと思う。だからこそ、自分が怪我をしない方法を選んだんだろうな。
俺たち家族の気持ちも知らず、ミミは縁側へ行くと、何事もなかったように毛繕いを始めた。
本当に自由だな……
時計を見ると、もう日付は変わっていた。
「今日はもう寝よう」
正直、疲れていた……体じゃない、精神的にだ。
シャワーを浴びながらも、ゴブリンへ鉈を振り下ろした時の感触が残っている……手に伝わった鈍い感触。あれが、まだ左手に残っている気がした。
楓にも、父さんにも、母さんにも言えていない。こんなことで悩んでいるなんて知られたくなかった。
部屋へ戻ると、部屋の扉が少しだけ開いていた。
中を覗くと、ミミがベッドの枕元で、丸くなって眠っていた。
珍しいな……ゆっくり近付き、左手で撫でようとすると、
ぺしっ、猫パンチで迎撃された。
「撫でられたくないのか?」
そう思った瞬間だった。ミミは起き上がると、今度はベッドへ置いていた俺の右手へ体を擦り付けてきた。
「右手で撫でろってことか?」
一鳴き……どうやら正解らしい。右手でゆっくり撫で始める。 喉を鳴らしながら、気持ち良さそうに目を細めるミミ。しばらく撫で続け、眠くなって手を止めると、
「にゃ」
今度は右手の下へ潜り込み、もう一度体を擦り付けてきた。
その時、なんとなく分かった。ミミは、俺が隠していたことに気付いていたんだ。ゴブリンを倒した時の嫌な感覚。あれを少しでも和らげようとしてくれている。
「……本当に優しいにゃんこだな」
自然と笑みがこぼれた。右手でゆっくり撫で続けていると、不思議なくらい心が落ち着いていく。そのまま意識が薄れ、いつの間にか眠っていた。
目が覚めると、部屋の中はすっかり明るくなっていた。
体を起こして周囲を見る……ミミの姿はもうない。先に起きて、どこかへ行ったらしい。
何となく左手を握ったり開いたりしてみる。
「……あれ?」
昨日まで残っていた嫌な感触が、ほとんど消えていた。寝たからというのもあるんだろう。でも、それだけじゃない気がする。あの後、ミミを撫でながら眠った時間が、気持ちを落ち着かせてくれたんだろうな。
本当に助かった……
時計を見ると、いつもより少し遅い時間だった。
「思ったより寝てたな」
精神的な疲れって、体の疲れとは違うのかもしれない。
部屋を出ると、台所からいい匂いが漂ってきた。母親が朝食を準備している。食卓には、すでに楓が座っていた。
「お兄ちゃん、おはよう」
朝食を食べながら、今日の予定を考える。本当なら、今日はキャンプ場で1日のんびりしていたはずだった。でも、予定が変わった以上、やることは決まっている。
「キャンプ道具、片付けるか」
朝食を終えると、車から荷物を降ろし始めた。夏だったら、昨日帰ってきた時点で、生ものだけは急いで冷蔵庫へ入れなければならなかった。
でも、今は冬だ。気温も低く、夜のうちに傷む心配はほとんどない。その点だけは助かった。
クーラーボックスを開ける。肉、結構余ったな……2泊する予定だったから、多めに買っていた。母親へ渡すと、中を確認して笑った。
「これなら、お昼は庭でバーベキューにしましょうか。あなた、翼の片付けを手伝いながら、コンロの準備お願い」
父親は苦笑しながら肩をすくめた。
「仕方ないな」
そう言いつつ、すぐに軍手をはめて手伝い始める。楓も一緒に片付けているが……。
「ミミちゃん、こっちおいで」
半分以上はミミの相手をしている気がする。まあ、ミミがかまえと言うなら、そっちが優先になるのも仕方ない。
父親は庭を見回しながら言った。
「翼、コンロは日当たりのいい場所へ置こう。ただ、今日の直射日光はあまり良くない。木漏れ日ネットを使えばちょうどいいだろう」
夏なら日差しを完全に防ぐけど、冬はそこまで必要ない。むしろ、今日みたいな快晴の日は、木漏れ日くらいが一番過ごしやすい。
ネットを張り、椅子を並べる。コンロを設置して炭を準備する。
昨日使ったタープも確認したが、夜のうちに持ち帰っていたおかげで結露も少ない。軽く拭いて乾かすだけで十分だった。
「これで終わりか」
思っていたより早く片付いた。俺と父さんはキャンプチェアへ腰を下ろす。昨日の出来事を思い返しながら、父親が口を開いた。
「探査局との話は、これからも全部俺がやる。俺も、お前も、能力検証やダンジョン封鎖が必要なのは理解している」
父親は、そこで一度言葉を切った。
「でも、だからといって、条件が曖昧な契約を結ぶ必要はない。拘束される期間に見合う報酬、拘束されたことで被る不利益を上回るだけのメリット。その2つは最低限必要だ」
父親は法律家ではない。でも、契約関係の仕事には慣れている。
「法律の細かいところは弁護士の先生に相談してる。俺だけで判断してるわけじゃない。契約は、後から揉めないように最初に決めるものだからな」
「これからも父さんに任せるよ」
自分で交渉したら、きっと流されてしまう。それくらいは分かっている。
「それが一番だ」
父さんも安心したように笑った。
冬の日差しは穏やかで、庭にはゆっくりとした時間が流れていた。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
ブクマや評価をしていただけると幸いです。
これからもよろしくお願いします。




