079 面倒ごとの回避とミミの行動力
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鉈に、緑色の血が付着する。
それを見た何人かが息を飲む。当然だ、俺だって慣れていない。でも、ここにいる人たちを守るためだった。
大半の人は理解してくれた。
「助けてくれたんですよね」
「ありがとうございます」
そんな声も聞こえる。
だけど……同年代の3人だけが違った。俺たちを見る目に、明確な敵意がある。
「人殺し!」
「近付くな!」
ゴブリンを倒した俺たちを非難し始めた。
分かってもらおうとは思わない。価値観は人それぞれだ。
でも……ここは俺のスキルで安全になっている場所だ。そのことを理解しているはずなのに。
「出ていけ!」
男が叫び、近くにあった木の棒を持った。
「お前らみたいなのがいるから……!」
こちらへ向ける攻撃の意思……その瞬間、男の姿が消えた。
何が起きた? 誰も理解できないが、残った男女が叫ぶ。
「どこにやった!?」
「返して!」
そして、2人も消えた……俺は、その現象に覚えがあった。スキル検証していた時と同じで、虫がキャンプ設営の範囲から、排除されたあの現象だ。
突然消えた3人……何が起きたのか分からず、周囲がざわつく。
すると……少し離れた場所から声が聞こえた。
「ふざけんな! なんだよこれ!」
「てめぇ、殺すぞ!」
声の方向を見ると、さっき消えた3人がそこにいた。
俺は見た瞬間、理解した……キャンプ設営の範囲外だ。3人は範囲内に入ろうとするが、ある場所で止まっていた……ゴブリンと同じように。
何かを叩くような仕草を始める。
「何よこれ!」
「ふざけんな! この中に入れろよ!」
「てめぇ、殺すぞ!」
怒鳴り声が響くが、こちらへ近付くことはできない。まるで透明な壁でもあるように、一定の場所から先へ進めない。
俺は、自分のスキルについて理解した。俺も知らないことが多いが、分かっている範囲で言えば、範囲内を快適に保とうとする、害になる存在が入れないというものだった。
エリアに入った後で、敵意や害意を持った場合……外へ移動させられるのか。
最初から入れないのではない。中にいたとしても、条件を満たせば排除される。
俺たちは3人を見る……怒鳴り続けている。罵声、脅迫……聞いていて気分のいいものではない。
だけど、内心では、少しだけ喜んでいた。人間相手に試せたからだ。もちろん、好きで実験したわけではない。でも、このおかげで知ることができた。敵意を持った相手がどうなるのかを……
自分や周囲に危害を加える可能性がある存在への処理……このスキルは、そこまで自動で判断している。
そんなことを考えている自分に気付く……外囲を持った相手がどうなるか、それを確認できたことを、喜んでいる自分が少し怖くなる。
だけど、俺に向けて攻撃しようとした相手だ。そこまで気にする必要はないよな? そう思って割り切ることにした。
周囲のキャンプ客たちは、3人を見る目を変えていた。
「助けてもらったのに……」
「ゴブリンを倒してくれた人に、なんであんなこと言えるんだ」
「関わりたくない……」
当然だと思う。命の危険があって、それを助けてもらった直後に、助けた相手に罵声を浴びさせる……負の感情の連鎖が爆発しそうな空気になった時だった。
強烈な光がこちらを照らした……サーチライトのような明かり。
目を細める。すると、車の音が聞こえた。
「連絡を受けてきました!」
「ゴブリンはどこですか!」
「報告者はいますか!」
ダンジョン探査局が到着したらしい。後で聞いた話だが、ここから近い場所にダンジョンがあったらしく、そこを管理するため、ダンジョン探査局の人員が待機していた。
ダンジョンを監視していたわけではないが、偶然、連絡を受けてすぐ動ける状況だっただけだ。そして、その中に資格を持つ探索者がいたため、急行できたらしい。
その光が見えた瞬間、外にいる3人が動いた。
「助けてください!」
「ここにいる奴らが危険なんです!」
こちらを指差しながら、必死に訴える。どうやら、自分たちがどれだけ被害を受けたか、俺たちがどれだけ悪いことをしたか、そんな話を大声でしていた。
だけど、ダンジョン探査局の人たちは冷静だった。
「……ゴブリンは?」
周囲を見て確認する。倒れているゴブリン、緑色の血、そして、俺たち。
「ゴブリンは討伐対象です。倒したこと自体に問題はありません」
当然のことのように言われる。そして、騒いでいた3人を近くにいた人が拘束した。
パトカーも来ていたらしく、拘束した人は警察官だったようだ。詳しいことは分からないが、3人は連れていかれた。後で聞いた話では、名誉毀損や侮辱に関する確認もされたらしい。あれだけ大勢の前で、事実と違うことを叫んでいたからだ。
その後、連絡を入れた男性が説明を行った。そして、俺たちも呼ばれる。
状況説明、何が起きたか、誰が何をしたか……その後、周囲にいたキャンプ客たちからも話を聞く。でも、俺たちの話と大きな違いはなかった。
結果、俺たちは解放された。
「今日はキャンプを続ける状況ではないですね」
当然だ。ゴブリンが出た場所で、そのまま寝る気にはならない。
撤収するように指示を受けた。ホテルを用意するので移動してほしいと言われたが……俺たちは家へ帰ることにしたが、
「九十八さん」
ダンジョン探査局の人が声を掛けてきた。
「一緒にダンジョンまで来てもらえますか?」
「……すいません。父さんに連絡してもいいですか?」
電話を取り出す。そして、父親に連絡をした。ダンジョン探査局の人に電話を渡した。
しばらく会話が続き、ダンジョン探査局の人の表情が、少しずつ変わっていく。どうやら、交渉しているらしい。
『緊急時ですよ?』
『既定の金額は支払います』
『問題ないでしょう』
そんな声が少し聞こえた。だけど、最後には、ダンジョン探査局の人がため息をついて、電話を返してきた。
「……今回は結構です」
諦めたようだった。後で父さんから聞いた話では、この機会に、お前のスキルの能力検証をしたかったんだろう、と言っていた。
でも、拘束時間も決まっていない、補償内容も不明確、以前提示された金額では、とても釣り合わない。だから、条件が決まるまでは協力しなくていいとのことだ。
撤収を終えると、警察官に住所を聞かれ、後日、最寄りの警察署へ行くことになった。
キャンプ場代は前払いだったので……1日分、損したな……そんなことを考えながら車を走らせた。
家に着くと、
「大丈夫!?」
母親が飛び出してきた。父親も俺と楓の体を確認してきた。
家の中に入り、電話では伝えきれなかったことを話す。父さんに対応してもらったことにお礼を言った。
「ありがとう」
そう伝える。その横で……ミミが楓へ何か話している。
「お兄ちゃん、ミミちゃんが、キャンプに行くなとか場所を変えろって言ってた理由が分った。野生の勘で嫌な予感がしたからみたい。決めた場所から、嫌な感じがしてたんだって」
なるほど……だから、あれだけ反対していたのか。
「でも、それを言っても信じてもらえないと思ったから、一緒についてきたんだって」
ミミの言うことなら、もしかしたら信じたかもしれない。でも、嫌な予感がするという理由だけなら、たぶん俺はキャンセルしなかった。
そこで思い出す……
「ミミ、お前、途中でいなくなった時……何してたんだ?」
ミミは楓を見て、説明を始める。
「えっと……ゴブリンが倒れたのは、ミミちゃんがアキレス腱のあたりを爪で攻撃したからだって。爪撃っていう、爪を持つ動物が覚えやすいスキルを使ったみたい」
思わずミミを見て真剣に伝える。
「ミミ、怪我がなかったからいいけど……ミミに怪我があったら、本当に悲しいから。無茶はしないでくれ」
すると……
「ゴブリン程度に怪我するわけないじゃん、って言ってる」
「……」
「……」
「……」
家族4人……全員で呆れるしかなかった。
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