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078 冬キャンプに来ただけなのに

アクセスありがとうございます。

 12月に入り、もう完全に冬だ。キャンプをするには、少し厳しい季節になってきた。


 中には、冬キャンプが好きな人もいる。『虫がいないから最高』『汗をかかないから快適』……そんな話を聞くこともある。


 確かに、夏と比べれば虫の問題は少ないが、冬でも汗はかく。防寒着を着て動けば普通に汗をかくし、そのまま休憩すると体が冷えてしまう。


 だから冬キャンプでは、夏以上に着替えが重要だったりする。夏は、最悪そのままでも、不快ではあるが風邪をひくことはあまりない。


 だけど冬だと、汗をかいた肌着をそのまま着ていたら、普通に風邪をひく。だから今回は、肌着を多めに準備してきた。


 大学の課題は順調に終わっているが、革細工の店へは最近行けていない。少し大きな注文が入ったらしく、店長も他の職人さんたちも忙しくなってしまった。


 しばらく教える余裕がないかもしれない……そう言われた。長ければ、今年いっぱいは難しいかもしれないらしい。残念ではあるけど、仕方ない。


 店長や職人たちは、仕事としてやっている以上、俺の練習より優先するべきことがある。居酒屋は、12月中頃から忘年会が増える……そうなると、まとまった休みを取るのは難しい。だから、12月の頭にキャンプへ来ることにした。


 ただ……ここへ来るまでが大変だった。


 目的地を決めた時、ミミから猛烈な反対を受けたからだ。


「もっといい場所があるって言ってる」


 猫にキャンプ場の評価をされる日が来るとは思わなかった。でも、今回は時間が限られているので、それを説明すると、ミミはしばらく考えた後……渋々許可してくれた。


 ただし条件付き……楓も一緒に行くことだった。


 結果、今回は父親の大きい車を借りて、楓とミミでキャンプに来ている。


「お兄ちゃん、タープの張る場所は、ミミちゃんが決めるって言ってるから、その指示に従ってね」


 正直、意味はよく分からない。でも、今回のミミは妙に俺を過保護に扱っている。


 リードにつながれたミミの後ろを歩くと、ミミが止まった。


「ここ?」


 満足そうに鳴く。ここへテントとタープを張れということらしい。


 今回のキャンプ場は、区画で完全に分けられているタイプではない。決められたエリア内なら、常識の範囲で自由に設営していい場所だった。


 ミミが選んだ場所は、周囲に人が少なく、かなり広く使える場所だった。2人と1匹で使うには、明らかに広すぎるけど、ミミは遠慮しなかった。


「ここ全部、キャンプ設営の範囲にするのか?」


 当然と言わんばかりに一鳴き……俺は苦笑しながら、キャンプ設営を発動する。


 設営を終える頃には、外の寒さが少し和らいでいることに気付いた。


「夏ほどじゃないけど、冬も効果あるんだね! 思ったより寒くない」


 楓が周囲を見ながら言う。


 夏の暑さはかなり防いでくれていたけど、寒さについてはそこまで期待していなかった。夏張ったタープが冬になって、あまり効果を感じなかったからだ。


 どうやら、温度変化そのものを止めるというより、快適な環境へ近付ける効果があるのかもな。スキルの範囲内だと、日差しもいたくなかったし、暑くなる要因をスキルが排除していたんだろう。


 寒さを考えて、薪を多めに持ってきているので、焚火台を準備する。もちろん、焚火をする周囲のタープは難燃タイプだ。タープで作った空間の前に焚火台を置き、多少熱がこもるように配置する。


 これなら、キャンプ設営の効果で熱も逃げにくくなっているはずだ。


 ミミの場所は、風通りの少ない場所に、専用のチェアを置き、その上にクッション、さらに小さな毛布を用意した。休む時は、毛布の下へ潜り込めるようにしてある。


「にゃ」


 ミミは満足そうに毛布へ入り込んだ。


 いつもなら、この時間は周囲を探索したり、走り回ったりするのに……気付けば、クッションと毛布の間で丸くなっていた。


「おやつの前に寝るのって珍しいね。何かあったのかな?」


 楓が心配そうに見る。


「お前が聞いてないなら、俺にも分からんよ」


 確かに変だけど、体調が悪いなら、そもそもここまで来ることはしなかったはず。ミミは自分の体調管理に関しては、妙に厳しくなったから、無理をすることはないはず。


「とりあえず、様子を見るか」


 俺たちは焚火を眺めながら、のんびり過ごすことにした。


 夕方、ミミが起きた。そして……いつも以上の勢いで夕食を食べ始めた。楓が用意したご飯を食べて、おかわりを要求する。


「……多くない?」


 いつもの5割増しくらい食べていて、楓も驚いているが、本人は満足そうだ。


 食後、ミミは突然動き始めた。近くの木へ登り、周囲を走る。何かを確認するように、地面や空気の匂いを嗅ぐ。


「ミミちゃん、何してるんだろうね?」


「俺にも分からない」


 2人で首を傾げる。


 しばらくすると、ミミはいつものようにキャンプシアターの前へ座った。どうやら動画を見るらしいので、俺たちも一緒に入る。


 流れる映像は、いつもの絶景動画……ミミは嬉しそうに見ている。


 だけど……なんか周囲を気にしている。時々、画面から視線を外して周囲を見る。


 本当にどうしたんだ? そんな疑問を抱えたまま、寝る時間になった。


「そろそろ寝るか」


 そう言った瞬間だった。森の方から、聞き慣れない音がした。


 その瞬間、


「にゃっ!」


 ミミが飛び起きて、音の方向を見る。


「シャーッ!」


 威嚇……何度も鳴く。


「ミミちゃん、落ち着いて」


 楓が撫でて落ち着くように言うが、ミミは止まらない。明らかに警戒している。


 何がいる?


 しばらくすると……遠くから悲鳴が聞こえた。


 その瞬間、嫌な予感がした! 河原キャンプの時と同じだ。俺はすぐに動いた。持ってきていたライトを全部点ける。


 ミミが向いている方向、キャンプ設営の範囲ギリギリへ焚火台を移動して、薪を追加する。


 周囲を照らすライトしか持っていないから、遠くまでは見えない。でも、悲鳴は続いている。


「今、明るくしている場所に集まってください! 散らばっていると危険かもしれません!」


 何度も大きな声で叫ぶと、少しずつ人が集まってきた。


 何人か怪我をしている……そして、その人たちが来た方向から、姿を現した。


 醜悪な緑色の肌に小さな体……手に持った粗末な武器。


「……ゴブリン」


 前に見たことがある。周囲がざわめく。


「大丈夫です! 俺のスキルで、この範囲は安全になっています!」


 俺は声を張り説明する……そして証拠として、ゴブリンを見るように言い、奴らが一定のラインから先へ入れないことを伝える。壁を叩くように、こちらへ攻撃しようとしているだけだ。


 少しずつ、みんなの表情が落ち着いていく。


 周囲を見ると、ゴブリンは12匹。でも、こちらへ来ることはできない。


 その時……


「ダンジョン探査局へ連絡します!」


 誰かがスマホを操作し始めた。資格を持った探索者なのかもしれない。俺は小さな声で、


「楓、父さんへ連絡して」


 俺も周囲を見ていて、油断はしていなかった。


 だけど、気付かなかった……ミミがいなくなっていることに。


 キャンプ客たちと状況を確認していると。


「ギャッ!」


 ゴブリンの悲鳴が聞こえた。見ると、1匹が足を押さえて倒れている。


 さらに1匹、また1匹……次々と倒れていく。時間が経つほど、ゴブリンの数が減っていく。


 12匹全てが倒れた。


「にゃ」


 その時、ミミが戻ってきて、楓へ何か伝えると、楓の顔が変わる。


「お兄ちゃん、今のうちに止めを刺してって」


 一瞬、意味が分からなかったが、あいつらは倒さなければならない相手だ。


 俺は車へ向かい、薪割り用に持ってきていた鉈を手に取る。近くにいた連絡をしていた男性も木の棒を拾う。


 もう1人が加わり、3人で近付く。そして、転がっているゴブリンへ止めを刺していく。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

ブクマや評価をしていただけると幸いです。

これからもよろしくお願いします。

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