077 変わらない日常
アクセスありがとうございます。
今日は、ミミの定期検診の日、いつも通りに、受付を済ませる。
もう何度も来ているからか、ミミも慣れたものだった。最初の頃は少し緊張していたのに、今では病院へ入っても特に騒がない。
「慣れたな」
当然だと言いたげな顔をされる。ただし、診察台へ乗せられると少しだけ不満そうな顔になる。そこは変わらないらしい。
まずは体重測定、次に身体検査、心拍、呼吸、筋肉量、関節の動き……以前から続けている検査を順番に行う。
その後、ミミはいつものように検査用のランニングホイールへ入れられた。最初は嫌そうな顔をしていたが、走り始めると意外と楽しそうだ。
一定の速度で走り続ける。普通の猫なら、途中で飽きたり疲れたりして、止まるらしい。
だけどミミは違った……まだ走れると言わんばかりに動き続ける。
次はキャットタワーを使った運動。上り下りを確認する……相変わらず速いし高いな。
というか、猫ってこんな動きできたっけ? 見ていると、普通に壁を使って方向転換しているように見える。
検査が終わると、先生が結果を確認する。
「前回と大きな変化はありませんね」
「悪い意味ではないですか?」
「いえ、むしろ安定しているということです。身体能力についても、同年代の猫と比較すると、およそ倍程度。一般的な成猫と比べても、かなり高い数値を維持しています」
最初は数倍とか聞いて驚いたけど、最近のミミを見ていると納得しかない。
「体重も問題ありません。以前は消費カロリーに対して食事量が不足していましたが、現在は適正範囲です」
良かった……元気になったのは嬉しいけど、痩せてしまうのは心配だったからな。
そして、最後に採血……ここだけは、ミミも少し嫌がる。
「にゃ……」
「大丈夫だよ」
楓が優しく撫でる。落ち着いたところで、細い注射針を使って採血する。細い針になったとはいえ、嫌なものは嫌らしい。
まあ、血を取られるのが好きな奴なんて普通はいない。それが好きなら、ただの変わった趣味の持ち主だ。
検査が終わると、ミミは少し機嫌を直した。理由は分かっている……帰り際にもらえるものがあるからだ。
受付で渡された袋を見る。中には、血液検査に協力した分の特別食と、おやつ……毎回思うけど、結構な量だ。
ミミは袋を見ると、
「にゃ」
満足そうな顔をする。まるで、『また来てもいい』と言っているようだ。
「現金な奴だな」
何か問題でも? と言いたげな表情だった。
検査結果を待っている間、ミミが楓へ何か伝えていた。
「お兄ちゃん、ミミちゃんが、さっきやったランニングホイールが欲しいって言ってる」
あれか? 猫用の運動器具。
「どのくらいするのかな?」
「ここに置いてあるやつは、たぶん高いだろうな」
研究用に置いてあるものだ。一般販売されているものとは違うだろう……
「安いのなら1万円くらいでありそうだけど……問題は、ミミが満足するかだな。普通の猫なら十分でも、ミミの場合は運動量が違うからな……先生に相談してみるか」
診察室へ呼ばれたので、そこで結果を聞く。
「非常に元気です。若干筋肉質ではありますが、体重も適正範囲まで戻りました。食事は通常通りで問題ありません。あとは適度におやつをあげてください」
良かった。そして、もう一つ……
「今回聞かれていた抜け毛についてですが、同じような症状を発症している動物たちでも、抜け毛が減少しているという報告があります。現状では問題見られませんので、経過観察で大丈夫でしょう」
ミミだけじゃないんだな。そして、ランニングホイールの話をする。
「少し待ってください」
先生はそう言うと、どこかへ電話を始めた。しばらくすると、診察室の扉が叩かれる。
「失礼します」
白衣を着た男性が入ってきた……誰だ? 知らない人だ。ただ、その人は入ってくるなり、ミミを横目で見る……いや、横目なのに熱心に見ている……器用だな。
その人物が、先生へ何か耳打ちする。
「九十八さん、研究所で準備していた、同型のランニングホイールが余っているそうです。それを持って行ってもいいとのことです。受付へ運んでもらっています」
「ミミ、どれだけ特別扱いされてるんだ?」
当然だと言わんばかりの顔をされた。
帰り道、楓がミミへ聞く……
「ミミちゃん、何でランニングホイール欲しかったの?」
「にゃ」
「えっと……体が元気になったから、運動不足なんだって」
思わずミミを見る……いや、確かに、以前より元気になった。でも、家の中だけだと走り回る場所は限られる。
「そうか……」
俺たちは、元気になったことばかり喜んでいた。でも、ミミからすれば、動けるようになったのに動く場所がないという状態だったのかもしれない。
「キャンプも、それが理由だったのか?」
肯定された。やっぱりか……
キャンプ場で、普通に20メートルくらいある木の途中まで登っていたからな。あれを見た時は、本当に心臓に悪かった。猫だから大丈夫なのかもしれないけど、見ている側は怖い。
家へ帰ると、さっそくランニングホイールを設置した。
ミミは興味津々で近付く……そして、すぐに使い始めた。
「気に入ったみたいだな」
しばらく眺めていると、楓が言う。
「嬉しそうだね」
もっと早く気付けばよかった……
そういえば、父さんに聞いた話だが、ダンジョン探査局からまた連絡が来ていたらしい。
内容はいつもの通りで、予算はまだ確定していない。ただ、補償については考慮している。だから、小規模なダンジョンでいいから、キャンプ設営の能力検証に協力してほしい……という話。
当然、父さんは確認した。
「拘束期間は? 補償内容は?」
しかし、明確な答えはなかった。
「その状態では無理です」
で終わったらしい。
どうやら今回は、国民を守るためという情に訴える方向で話をしてきたようだ。でも父さんは、
「国民を守る組織はありますよね。今も対応をしている、警察や自衛隊があります。そちらで対応できているので、息子の必要はないですよね?」
電話を切った後、父さんは言っていた……小規模で人が少ない場所って言えば、生活環境が悪い可能性が高いだろうと。
確かに……俺なら、短期間なら問題ないのでは? と思っていた。でも、行く人が少ない場所ということは、交通の便が悪かったり、設備が整っていない可能性がある。
父さんに任せて正解だったな……本当にそう思う。
法律家の先生曰く、国が新しい制度を作る場合、どんなに急いでも1~2年はかかるらしい。なら、焦って不利な条件で契約する必要はない。
海外では、本当に封鎖できる能力なら、1日1億近い金額を提示している国もある。それを考えれば、最初の時給2000円という話は、さすがに酷すぎる。
俺は交渉なんてできない……だから、父さんに任せて正解だったな。
11月になると、暑さも落ち着いてきた。キャンプには最高の季節だ。土日に合わせて休みを取り、何度かキャンプへ行った。
ミミはというと、行く時もあれば、行かない時もある。気分次第……猫らしい自由さだった。
そして12月、能力を得てから、8ヶ月が経過しらが、政府はいまだに、ダンジョン関連の細かな法律を整備できていない。
ミミの状態は安定していて、仕事も順調。楓もイベント関係の仕事が増えて、いろいろな経験をしているらしい。
俺は相変わらず、居酒屋と革細工の店へ通っている。
そして、この前、初めて自分の作品を作った。キーケース……簡単なものだと言われた。縫う必要もなく、金具を取り付けるだけと言われたが、実際に作ってみると難しかった。
革を折り曲げる位置、切断面の処理、細かい部分の仕上げ……小さいからこそ、ごまかしが効かない。
完成したキーケースを見て思った……大量生産された安い革製品も、もちろん悪いものではない。
でも、自分で作ってみると分かる。縁の処理、使いやすさ、持った時の感触、細かい部分に、作り手の考えが出る。
「……奥が深いな」
革細工の沼……少しだけ分かった気がする。
でも、仕事にするとなると別だ。ここで働いている人たちは、毎日相手のことを考えて作っている。それを続けられるということは、本当にすごいことなんだと思った。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
ブクマや評価をしていただけると幸いです。
これからもよろしくお願いします。




