076 父親とダンジョン探査局のバトルと親バカな翼
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キャンプ最終日……朝起きると、隣ではミミがまだ丸くなって眠っていた。
「……よく寝てるな」
昨日もかなり歩き回っていたから、疲れているのかもしれない。とはいっても、家にいる時より明らかに元気なんだよな。
しばらくすると、ミミがゆっくり目を開ける。
「にゃ」
「おはよう」
挨拶をすると、当然のように俺の顔へ近付いてくる……撫でろということらしい。しばらく撫でていると、満足したのかテントの外へ出ていった。
朝食を済ませ、片付けを始める。
今回のキャンプは、本当に何もなかった。トラブルもなく、珍しい出会いがあったわけでもない。
ただ、森の中で過ごして、食事をして、映画を見て、ミミと一緒に寝ただけ。でも、それが俺の求めていたキャンプだ。
特別なことがなくても、普段とは違う時間を過ごせる……それが大切だった。
片付けをしている間、ミミはというと……
「にゃ」
気付けば、隣のサイトの方へ歩いていっていた。もちろん、長いリードの範囲内だ。近くにいた家族連れがミミへ気付く。
「あ、猫ちゃんだ」
「かわいい!」
子どもたちが近付いてくる。普通なら警戒するところだが、ミミは逃げるわけでもなく、少し距離を取って座った。
「にゃ」
「あいさつしてるの?」
子どもが手を伸ばす。すると、ミミは一歩後ろへ下がる。さらに近付くと、また一歩下がる……
何をしているんだ? いや、分かる。たぶん、追いかけっこをしているつもりだ。捕まえられそうで捕まえられない距離を維持している。
子どもたちは楽しそうに笑っていた。
「猫ちゃん、遊んでくれてる!」
……本当に賢いな。普通なら嫌がって逃げるところを、相手が楽しめる距離を理解している。しかも、爪を出すこともない。近くにいた大人も驚いたように、
「すごく大人しい猫ですね」
と言っていた。さらに、
「写真撮ってもいいですか?」
と聞かれた。
「ミミが嫌がらなければ」
そう答えると、ミミは特に気にした様子もない、結果……そこからしばらく、撮影会になった。
いや、分かるぞ! うちのミミは可愛いからな! 写真を撮りたくなる気持ちはよく分かる。
飼い主補正? そんなもの関係ない。客観的に見ても可愛い……まあ、多少親ばかが入っている可能性は否定しない。
昼前には撤収準備も終わった。
「ミミ、帰るぞ」
呼ぶと、素直に戻ってくる。最後に周囲を確認して、忘れ物がないことを確認する。
すると、昨日から何度か遊んでいた子どもたちが走ってきた。
「あ、猫ちゃん!」
「もう帰っちゃうの?」
「また来てね」
そう言われると、ミミは少しだけ首を傾げた。そして、
「にゃ」
返事をすると、また少し距離を取る。子どもたちが笑顔で追いかける。最後まで追いかけっこをするつもりらしい。
「ミミ……本当に楽しんでるんだな」
しばらく遊んだ後、満足したのかミミは車へ向かった。
そして帰り道、助手席を見ると……寝てた。
出発してから10分もしないうちに、ミミは丸くなって眠っていた。
昨日からかなり歩いたからな、たくさん遊んで、たくさん景色を見て、満足したんだろう。
家に戻ると、まずキャンプ道具を片付ける。テントを乾かし、タープを確認し、道具を元の場所へ戻していく。
最後に車の掃除……掃除機をかけながら、ふと思った。
「楓、最近、ミミのブラッシングして、抜け毛って多いか?」
楓は少し考える。
「うーん……生え変わりの時期じゃないから、そんなに抜けてないと思うよ」
「そうか」
気のせいか? 時期的にも判断しにくい。でも、以前より妙に抜け毛が少ない気がする。
「今度、定期健診で聞いてみるか」
「そうだね」
ミミは定期的に検査している。その時に聞けばいいだろう。家の中を見ると、楓と一緒にミミは縁側にいた。楓の隣で、今回のキャンプの話をしているらしい。
「にゃ」
「そうだったの?」
会話している……2人きりのキャンプも嫌ではなかったのかもしれない。
しかも、夜は2日連続で一緒に寝た。これはかなり大きい。写真も大量に撮ったから、大学が始まったら、ペット友達に自慢できるな。
片付けが終わると、バイトの時間までのんびり過ごした。
居酒屋のバイトは、いつも通りだった。
特別なことはない。忙しく注文が入り、料理を運び、片付ける……でも、この日常が少し安心する。
そして、大学の後期が始まった……その日の夜、父親の携帯に電話が入った。
「……ダンジョン探査局か」
嫌そうな声。
内容を聞くと、やはり俺のスキルについてだった。最近、ダンジョンから魔物が出る事例が増えている。周囲への被害も出始めているため、可能なら俺の能力を検証し、協力してほしいという話だった。
父親はすぐに聞いた。
「補償の件は?」
相手は少し言葉を濁した。
『正確にはまだ決定していません。ただ、前回提示した内容の2倍以上は確保する予定です』
「……」
父親の顔が変わる……怒っているのが分かるくらいに……
「時給2000円程度で24時間拘束するつもりだったんですか?」
『いえ、その……』
「労働時間なのか待機時間なのかも不明。夜勤手当もない。残業もない。休憩場所もない」
淡々と言う。
「それで息子を働かせろと?」
『国の安全のためで――』
「国のために働くことを否定しているわけではありません。ですが、大学生の息子です。将来があります」
声が低くなる……
「留年した場合、退学になった場合、その後の人生の補償は誰がするんですか?」
俺は横で聞いていた……父親が怒っている理由が、少し分かった気がする。金だけじゃない、俺の未来の話なんだ。
「24時間拘束されるなら、それに見合う条件を提示してください」
父親は続けた。
「国のために働く人間に、最低限の環境すら用意しない。それで協力しろと言われても、親として認められません」
その後も話し合いは続いたが、結論は出なかった。
ダンジョン探査局は、海外の事例を出して交渉する父親に対して、
『そこまでの金額は出せない』
と言ってきた。それに対して父親は、
「なら、現状の体制で対応してください」
と返した。確かに、俺がいなくても、今までは探索者や自衛隊で対応できている。 危険だから、楽になる方法があるから、安く使わせてほしい……そんな話なら納得できない。
父親は、後で言っていた。
「自衛隊で封鎖を続けるなら、1ヶ月で数千万円じゃ済まない」
人件費、装備、燃料、食事、全部必要になる。
「それを踏まえて考えて、お前の能力が本当に有効なら、その金額は高くなってもおかしくない」
そういうことらしい。俺には難しい話だ。だから、
「父さんに任せる」
それが一番だと思った。社会経験もない大学生が、行政相手に交渉なんてできるわけがない。
大学生活が再開して2週間ほど経った、ある日の昼休み、
「ミミちゃん、また写真見せて!」
気付けば、ペット自慢をする人間が集まるようになっていた。一部では、【親ばかの集まり】なんて言われている。
否定はしない。だって、可愛いから仕方ない。
そして、先週……とうとうミミはデビューした。
全国放送ではなく、ネット広告だけだが、楓も一緒に出演しているが、楓は声だけだ。街で声を掛けられるようなことはないらしい。
ミミは美猫だ。でも、見た目だけなら似た猫はたくさんいる。愛猫家でもなければ、違いなんて分からないだろう。
……まあ、俺なら一瞬で分かるけどな。
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