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075 翼とミミの一時

アクセスありがとうございます。

「もう昼か」


 時計を見る……12時半を過ぎていた。周りからは、美味しそうな匂いが漂ってくる。あれにつられたのかもしれない。


「今日の昼は……」


 クーラーボックスを開ける。


「インスタントカレーに、ご飯は家から持ってきた冷やご飯」


 別に気にしない。キャンプで食べるカレーって、不思議と美味しく感じるんだよな。そんなことを思いながら準備を始めると、


「にゃ」


 ミミが足元へやって来たので、先にミミのご飯を用意する。


 仲良く並んで昼食を始めた。昼食を食べ終え、食器を洗って片付ける。使った道具を元の場所へ戻し、一息ついたところで、


「にゃ」


 ミミがキャンプシアターの方を見て鳴いた。椅子を、シアターの前へ動かせと言っているように見える。


「こうか?」


 椅子を少し前へ移動させると、


「にゃ」


 満足そうに椅子へ飛び乗った。そのままキャンプシアターを眺め始める。


「旅動画でも見るのか?」


 そう思っていると動画を再生し始めた。狙っていた動画ではなかったようで、ミミが首を横へ振る……違うらしい。いくつかサムネイルを眺めていると、反応を示した。


 絶景をまとめた動画を選んだ瞬間、これだ、と言わんばかりに画面へ顔を向けた。


「好みが変わったのか?」


 以前なら、旅動画ばかり見ていた。最近は景色そのものが好きになったんだろうか。気になったので、家族のグループラインへメッセージを送ってみる。


『最近、ミミって景色の動画ばかり見てる?』


 しばらくすると楓から返事が来た。


『うん! 最近は旅行動画より景色ばっかり見てるよ』


 母さんも続けて返信する。


『山とか森とか好きみたいね』


 父さんまで、


『仕事から帰ると、一緒に見てるぞ』


 と送ってきた。


「家でもそうなんだな」


 どうやら今日だけではないらしい。ミミは食い入るように景色を眺めている。


 山々を映した映像、森の中を流れる川、風で揺れる木々……そういう映像になると、特に集中して見ていた。


 俺も隣へ座り、一緒に画面を見る。


 外にも森林、画面の中にも森林、何だか不思議な気分だった。


 木々を抜ける風が心地いい。タープで囲んではいるが、風が通るようにしているので、熱いということはない。鳥の鳴き声も聞こえる。


 画面の景色と現実の景色が重なり、いつの間にか瞼が重くなっていた。


「少しだけ……」


 椅子へ深く座り、目を閉じる。気付けば、そのまま眠ってしまったらしい。


 ぺちっぺちっ


 何かが頬へ当たる。


 もう一度……ぺちっぺちっ。


 目を開けると、


「にゃ!」


 目の前には、少し怒ったような表情のミミがいた。


「どうした?」


 周囲を見回す……特に変わった様子はない。するとミミは、水皿のところまで歩いていき、


「にゃっ」


 こちらを見る。なるほど……水が空になっていた。


「補充しろってことか」


 水筒から新しい水を入れると、満足そうに飲み始めた。


 時計を見ると、


「もう16時か……」


 思っていたより長く寝てしまっていた。全然動いてないし、お腹空いてないな……おやつも別にいらない。だけど、


「ミミは別だな」


 クーラーボックスから、おやつを取り出す。


「にゃぁ!」


 目を輝かせる。やっぱり好きなんだな、1本目をあっという間に食べ終える。


「もう1本」


 満足そうに2本目も受け取った。獣医さんや研究者からは、消費カロリーがかなり増えていると言われていた。おやつも2本くらいは食べさせるようにと言われている。


 2回目の検査では、体重が少し落ちていることを指摘された。要求されるまま食事を出していたつもりなのに、それでも足りなかったらしい。


 どうやらミミは、空腹をあまり感じていないようで、自分から要求する量だけでは必要なカロリーに届かないそうだ。だから、こちらが意識して食べさせる必要がある。


 その話を聞いた時は、楓も驚いていた。


「ミミちゃん、お腹空いてないんだって!」


 信じられないという顔をしていたが、実際にミミへ聞いても同じ答えだったらしい。今では家族みんなで、


「もう少し食べよう」


 そう言って食べさせるようにしている。おやつを食べ終えたミミは、


「にゃ……」


 大きく伸びをすると、キャンプチェアへ飛び乗り、くるりと丸くなった。


「寝るのか」


 返事をしたと思ったら、もう目を閉じている。


 俺はキャンプシアターへ映画を映した。やっぱり、キャンプで見る映画は、家とはまた違った雰囲気がある。


 映画を1本見終える頃には、空が少し赤く染まり始めていた。


「もう夕飯か」


 周囲を見回すと、あちこちのサイトから、いい匂いが漂ってくる。


 肉を焼く匂い、スープの香り、炭火の煙……


「みんな凝ってるなぁ」


 対して俺は、まだ何も作ってないが、焦る必要はない。今日は簡単に済ませる予定で、準備してきたからだ。


「夕飯もカレー」


 ただし、日本のカレーじゃない。昨日の夜、家で作っておいたインドやネパール風のカレーだ。スパイスを利かせた、ナンと一緒に食べるタイプ。


 まずはフライパンを温める。発酵させて持ってきた生地を伸ばし、焼いていく。


「ナン……と言うには微妙だな」


 焼き上がったものを見る……厚みもあるし、形も不格好。


「平べったいパンみたいだ」


 苦笑しながらカレーを温め、一緒に食べる。


「うん、美味い」


 見た目はナンとは言い難いが、味は十分だった。昼にも思ったが、外で食べるというだけで、不思議と何でも美味しく感じる。


 食後は椅子へ座り直し、膝の上へミミを乗せる。


 キャンプシアターでは、再び絶景動画を映した。


「やっぱり好きなんだな」


 ミミが一番反応するのは、木々がたくさん映る景色だった。ただ、熱帯雨林のようなジャングルではない、日本にあるような山の森林。


 木漏れ日が差し込み、風が吹き抜けるような場所……そんな景色が映ると、じっと画面を見つめている。


 夜も更けてきたので、そろそろ寝ることにする。


「車で寝るか?」


 そう聞くと、ミミは首を横へ振った。


 俺がテントへ入ると、そのまま後ろから付いてくる。


 そして、シュラフへ潜り込み、俺の首元で丸くなった。


「今日はここで寝るのか」


 短く返事をしてきた。普通なら、テントの出入り口を閉めなければ、虫やらなんやらで大変なことになる。


 だけど今は違う……キャンプ設営の効果で、この場所は過ごしやすくなっている。ミミが自由に出入りできるくらいの隙間だけ開けておいても、不安はなかった。


 森を渡る風の音を聞きながら、俺もゆっくりと目を閉じた。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

ブクマや評価をしていただけると幸いです。

これからもよろしくお願いします。

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