073 因縁の相手
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夏休みが終わってから、大学生活は思っていた以上に穏やかだった。
グループワークもすっかり馴染み、講義も問題なく受けられている。バイトも革細工の店も続けていて、以前と比べると生活のリズムはかなり安定していた。
そんな日々を過ごしていると、ふと思う。
「……キャンプ行きたいな」
最後に行ってから、もう1ヶ月以上経っている。いろいろ考えながら、スマホでキャンプ場を探す。
「……なかなか良い場所ないな」
以前行った川沿いのキャンプ場も良かった。だけど、せっかくなら違う場所にも行ってみたい。
湖畔もいいし、山の中もいい。景色が良い場所も魅力的だ。ただ、条件を絞ると意外と候補は少なくなる。
そんなある日の夜、バイトもなく、リビングでのんびりしていると、スマホが鳴った。
画面を見る……登録した覚えのない番号だったが、名前が表示されている。表示された名前を見て、思わず眉をひそめる。
『ダンジョン探査局(仮)』
……仮なのか? ダンジョンの入場資格を発行している組織。
俺自身も資格を持っているけど、何の用だ?
少し迷ったが、電話に出る。
「もしもし」
『九十八さんの携帯で間違いないでしょうか?』
「はい」
『私はダンジョン探査局の者です。九十八さんが登録されたスキルについて、確認したいことがありまして、ご連絡しました。少しお時間をいただけますでしょうか?』
スキルの確認? キャンプ設営のことか? 少し考える。
普通なら、そのまま話を聞くのかもしれない。だけど、相手が相手だ。
「家族と一緒に話を聞かせてもらってもいいですか?」
『えっと……』
電話の向こうが少し沈黙する。
『できれば、九十八さんと私どもだけで……』
「それが無理なら、話は聞けません」
即答した。
『ですが、九十八さんは成人されていますよね?』
「そうですね」
『でしたら……』
「大学生です」
言葉を遮る。
「まだ学生です。保護者を交えて話をすることができないのであれば、結構です」
少し強めに言った。正直、ダンジョン探査局には良い印象がない。資格者という理由だけで、何時間も拘束された。
いつ終わるかも分からない待機だった。食事の用意もなく、眠る場所もなかった。ただ拘束されて、時間だけをくわれた訳の分からない時間だった。
あの時のことを、俺は忘れていない。
『……確認します』
しばらく待つと、
『ご家族同席でも問題ありません』
そう返事が来た。
「では、お願いします」
日時を決め、電話を切った。その後、父親へ話すと、
「……ダンジョン探査局か」
明らかに嫌そうな顔をした。
「何の用か分からないけど、話は聞く。ただし、条件はこっちで決める」
「うん、お願い」
父親だけではないが、以前から、ダンジョン探査局へ対して色々と思うところがあるらしい。特に、資格者の扱いについて。
そして、当日……父親と一緒に電話で話を聞くことになった。
担当者は2人……挨拶を済ませ、話が始まる前に父親が口を開いた。
「話し合いの前に確認したいことがあります」
『はい?』
「以前提出した陳情について、回答をいただいていません」
担当者が少し困った声だ出す。
『申し訳ありません。その件については、こちらの部署では回答できません』
「なら、回答できる部署の人間を連れてきてください」
『ですが、本日はスキルについて――』
「こちらの陳情に回答のないまま、別の話を進めるつもりですか?」
父親の声は冷静だった。だけど、怒っているのは分かる。
「まず、以前の問題を解決してください。それが終わるまで、この話は聞きません」
結局、その日はそこで終了した。
数日後、再び連絡が来た。父親の携帯に……ただし、回答できる人間がしっかりと返答するまでは話し合わない。
その条件は変わらなかった。
父親は電話越しに言った。
「今後、連絡する相手は息子ではなく、今回のように私にしてください」
さらに、
「電話内容は記録しています。後から言った、言わないの話には応じません」
そう伝えたらしい。
次の日、俺がバイトへ行っている間に、父親へ連絡があった。
しかし、
「1ヶ月も前に陳情を出しているのに、まだ何も決まっていない?」
父親はかなり怒ったらしい。そう説明されたため、
「では、すべて決まってから連絡してください」
そう言って電話を切ったそうだ。
そこから約半月……ようやく連絡が来た。
ダンジョン探査局へ提出した父親の陳情内容は、単純なものだった。
資格を持っているだけで拘束されるなら、誰も協力しなくなる。だから、その場合の補償制度を作れというもの。
対して、ダンジョン探査局側が提出してきた案は、拘束時間に対する補償、そして、食事代。
ただし、その内容が問題だった。
「最低賃金と、食事代500円」
聞いた瞬間、呆れた……俺でも分かる。馬鹿にしている。
「よくそれで会議が通ったもんだな」
思わず呟くと、父さんも同じことを思ったらしい。
「拘束するなら最低でも倍だ。食事は向こうが用意するべきだろう」
さらに、寝る場所、衛生面、学生なら学校、社会人なら仕事、そこへの補償などが何一つ決まっていなかった。
そして、その翌日に連絡が来た。
父さんは言った。
「俺が指摘しなかったら、そのまま進めるつもりだったんだろうな」
怒っていた。それからさらに時間が経ち、最初の電話から約1ヶ月。ようやく、俺を含めた話し合いになった。
そこで、初めて対面して本題に入る。
「九十八さんのスキル、キャンプ設営についてですが」
担当者が資料を開く。
「海外で、安全地帯を作る能力を持った探索者が確認されています……つまり、同じような能力ではないか、と考えています」
ということだった。
可能性の確認と、そして協力依頼……ただ、それを聞いた父さんの最初の質問は、
「で、国が息子に保証する内容は決まっているのか?」
返答は、
「資格者拘束時の補償制度を適用する予定です」
だった……父さんは深いため息をついた。
「拘束期間も分からない。衣食住も決まっていない。大学への対応もない」
「……」
「その状態で、どうして協力できると思うんですか?」
俺は何も言わなかった。父さんが全部言ってくれている。もし俺が長期間協力することになれば、国に貢献したことにはなるかもしれない。
でも、その間に大学を休めば、最悪の場合、留年する。就職にも影響する。
企業側からすれば、いつ呼び出されるか分からない人間を雇うのは難しいだろう……父さんはそこまで考えていた。
すぐに決められる話ではないから、時間をかけて交渉する予定なのだと……そう言っていた。
国のために力を使うこと自体を否定しているわけではない。ただ、息子が都合よく使われることだけは許せない。
父さんは、夏休みにダンジョン探査局に拘束した関係で、ダンジョン探査局に関連した問題を扱う弁護士の集まりとも情報交換しているらしい。
色々な問題が起きているからだ。
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