070 変わった日常とミミの定期健診
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夏休みが終わり、大学生活も少しずつ落ち着いてきた。講義そのものは以前と変わらない。
だけど、1つだけ大きく変わったことがある……グループワークだ。
大学側がメンバーを決めるようになってから、最初はぎこちなかった空気も、半月ほど経つ頃には随分変わっていた。
以前は、休み時間や食事の時も仲のいい者同士だけで固まっていた。だけど今は、その仲良しグループへグループワークのメンバーが自然と混ざるようになっている。
完全に一緒になるわけじゃない。それでも以前より、一つのグループが大きくなったような印象だった。
大学も色々考えたんだな。仲の良い人間だけで固まってしまうと、新しい人間関係はほとんど生まれない。多分、以前からそのことについて、気にかけてはいたんだろうな。
だけど今は違って、少しずつ話す相手が増えていく。俺自身も、その変化を感じていた。
特に増えたのは、
「九十八君、ミミちゃん元気?」
そんな風に話し掛けてくる人たちだった。
きっかけは夏休み明けに、講義前にペットカメラでミミを見ていたところを、同じ講義を受ける人に見られたあたりからだな。
「元気だよ」
スマホを取り出すと、
「今日もかわいい!」
「やっぱり毛並み綺麗だよね」
自然と何人か集まってくる。気付けば俺の周りは、ペット好きが集まるようになっていた。話を聞いていて驚いたのは、意外とみんな飼ってるんだな……ということだった。
犬派が圧倒的に多かった。体感だと7割くらいは犬で、猫は3割くらいだろうか。
大型犬1匹や小型犬2匹という感じで、犬を飼っている家は1匹、多くても2匹くらいが多い。
一方で猫は、3匹や4匹が多かった。中には6匹とか飼っている家もあった。思わず聞き返してしまった覚えがある。
保護猫も一緒に暮らしているから、多いときは8匹とかいたらしい。なるほど…… そういう事情もあるのか。
猫を飼っている人は、1匹だけというより複数飼育の家庭が多かった。
ふと頭へ浮かぶ……ミミ、1匹だけなんだよな……寂しくないんだろうか。
もちろん、俺たち家族はいる……だけど昼間は留守番も多い。猫は単独行動する生き物とも聞くけど、だからといって寂しくないとは限らない。
今度、楓に聞いてもらおうかな?
ミミ本人がどう思っているのか、一度聞いてみたい気もした。
そんな毎日を過ごしているうちに、夏休み明けから半月ほどが経ったあたりで、大学では、もう1つ大きな変化があった。
「追加課題?」
講義中、そんな声が上がる。
夏休みの課題を1週間以内に提出できなかった学生に対し、新たな課題が課されることになったらしい。
それだけなら、まだ分かる。問題というか、学生から大きな声が上がったのが、その次の内容だった。
「課題が終わる前にダンジョンへ入ったことが確認された場合、単位を認定しません」
教室がざわつく。完全にダンジョン活動を優先した学生への措置だった。学生の本分は学業。大学としては、その姿勢を明確にしたんだろう。逆に、生活のためにアルバイトをしている学生には支援制度が始まっていた。
「大学から家庭教師を紹介してもらえた」
「時給かなり良かったよ」
そんな話も耳へ入る。大学は学生一人ひとりの成績を把握している。数学が得意なら数学、英語なら英語、家庭教師を希望する家庭へ紹介できる。
教える側も安心、教わる側も安心、大学としても評判が良くなっているらしい。
それも当然か、問題行動の多い学生を紹介すれば信用問題になる。真面目に頑張っている学生が優先されるのは、不公平というより自然なことだと思った。
努力した人間が評価される……それだけの話だ。そんな風に大学生活は少しずつ変わっていった。
そして、夏休みが終わって1ヶ月近く経った頃……
「お兄ちゃん、今日は病院の日だよ」
「分かってる」
ミミの定期検査の日がやってきた。
キャリーケースを見るなり、
「にゃぁ……」
嫌そうな声を出すミミ。
「採血だけ我慢すれば終わるから」
楓が優しく撫でると、
「……にゃ」
渋々といった様子でケースへ入っていった。車へ乗り込み、いつもの動物病院へ向かう。
しかし、
「……え?」
思わずブレーキを踏みそうになった。
「何か増えてる」
病院が広くなっていた。以前はなかった建物が横へ増設されていて、さらに、その奥にはプレハブまで建っていた。
1ヶ月でここまで変わるか? 俺も楓も驚くしかなかった。
車を駐車場へ止めると、受付の獣医さんが苦笑しながら出迎えてくれた。
「驚かれましたよね」
「かなり驚きました」
「研究設備を入れることになりまして」
どうやら獣医師協会が機材を持ち込み、専用設備を整えたらしい。前日から研究員も来ていて、隣のプレハブへ泊まり込んでいるという。
「……研究員さんも立ち会うんですか?」
少し気になって聞いてみる。
「申し訳ありません。説明が遅れてしまいました」
獣医さんは頭を下げた。
「ただ、直接こちらへ来るわけではありません。研究員は別室から映像を見て、必要があれば私へ指示を出す形になります」
それを聞いて俺は少し安心して、ミミを見ると、
「にゃ」
それなら構わない、とでも言いたげに小さく頷いていた。
俺たちは新しく作られた診察室へ案内される……勝手に真っ白な部屋を想像していた。
だけど実際は違い、落ち着いた色合いの壁紙に、森の景色を写した大きな写真……どこか自然の中にいるような空間になっていた。
「実は、楓さんへ相談させていただきまして」
獣医さんが笑う。
「ミミちゃんが落ち着ける部屋を目指しました」
なるほど、ここまで配慮してくれていたのか。
思わず楓と顔を見合わせ、小さく笑った。楓もここまでしてくれるとは思っていなかったようだな。
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