068 夏休みが終わった
アクセスありがとうございます。
ミミの定期受診が決まってから1週間ほどが過ぎ、気付けば夏休み最後の日だった。
「明日から大学か……」
革細工の店を手伝ったり、居酒屋でバイトをしたりと、それなりに忙しい夏休みではあったけど、明日からはそこへ大学が加わるだけだ。生活そのものが大きく変わるわけじゃない。
夏休みの課題は、かなり早い段階で終わらせていた。
友達と遊ぶこともなくなり、時間だけは余っていたので、そのまま予習まで進めてしまっていたくらいだ。
両親との約束で、大学だけはきちんと卒業することになっている。通わせてもらっている以上、その期待には応えたい。友達との付き合いがなくなったからといって、大学そのものが嫌いになったわけじゃない。
少し窮屈には感じるけど、趣味だったキャンプはまた楽しめるようになった。
居酒屋の店長や従業員とも良好な関係を築けている。革細工の店では、店長や職人さんたちに可愛がってもらいながら技術を教えてもらっている。
思い返してみれば、それなりに充実した毎日を送っている気がした。
「にゃ」
考え事をしながらブラッシングを続けていると、ミミが少し不満そうな声を上げた。
「あっ、ごめん」
手が止まっていたらしい。
「ちゃんとやるから許してくれ」
気持ちを切り替え、毛並みに沿って丁寧にブラシを動かしていく。
ごろごろごろ……
さっきまでの不満そうな様子はどこへ行ったのか、気持ち良さそうに喉を鳴らし始めた。思わず笑ってしまう。
ブラッシングを終えると、ミミの頭を優しく撫でた。
「明日から昼間は、お前だけになるからな」
「にゃ?」
「1階の窓は、一応閉めることになってる。風通しがいい場所がいいなら、俺の部屋か楓の部屋の窓際へ行くんだぞ」
今日までは夏休みだったので、昼間は俺か楓のどちらかが家にいた。
だけど明日からは違う。楓も仕事へ行くし、父さんと母さんも仕事だ。ミミだけで留守番をする時間が長くなる。
前にも説明したことだけど、念のためもう一度話しておく。
「そうだ、お兄ちゃん」
楓が思い出したように声を掛けてきた。
「ミミちゃんが、お兄ちゃんの部屋のテレビを使えるようにしておいてだって」
「テレビ? ああ、俺の部屋にあるモニターのことか」
テレビは置いていないけど、パソコン用のモニターなら置いてある。
昼間は1階の窓を閉める。そうなると、どうしても2階の方が風通しはいい。ミミも2階で過ごす時間が増えるだろう。
「でも、タブレットで見ればよくないか?」
そう言うと、
「にゃぁ」
ミミが不満そうに鳴いた。楓が苦笑しながら通訳する。
「大きい画面で見たいんだって」
思わず苦笑する。まあ、確かに旅動画を見るなら大画面の方が楽しいのかもしれない。
「父さんのお古のタブレット、まだ余ってたよな。じゃあ、それを部屋に置いて同期させておくか」
父親のお古なら、操作方法も今使っているタブレットとほとんど同じだ。これならミミも迷わず使えるだろう。
ミミは、満足そうに尻尾を揺らしている。
その日のうちにモニターとタブレットの設定を済ませ、ミミが簡単に操作できる位置へ設置した。
これで明日からの留守番も退屈しないだろう。こうして、少しだけ環境を整えた夏休み最後の日は、静かに終わっていった。
翌朝。
いつもより少し早く起きて支度を済ませ、家族そろって朝食を囲む。
今日は1限目から講義がある。
母親の車で駅まで送ってもらい、俺と楓は並んで後部座席へ乗り込んだ。駅へ着くと、
「じゃあ、お兄ちゃん行ってらっしゃい」
「楓も仕事頑張れよ」
「うん!」
楓は職場へ向かい、俺は大学へ向かう。駅から歩いている途中、ふと視界へ見慣れた建物が入った。
ダンジョンの入場資格を取得した施設だった。
何となく資格を取っただけだった。その結果、夏休み中は散々な目に遭った。
父親も居酒屋の店長も、管理局へ何かしら抗議したと言っていたけど、その後どうなったのかは聞いていない。
「まあ、今さら考えても仕方ないか」
気持ちを切り替え、そのまま大学へ向かった。講義室へ入り、いつも通り目立たない辺りの席へ腰を下ろす。
前すぎず、後ろすぎず。周囲に人が集まりすぎない場所を選ぶのも、いつの間にか慣れてしまった。スマホを取り出し、ペットカメラのアプリを起動する。
いつもはリビングへ置いていたペットカメラだったけど、今日は俺の部屋へ移動させてある。
「ミミは……」
画面へ映ったのは、ベッドの上でのんびり毛繕いをしているミミだった。その横ではモニターに旅動画が映し出されている。
暑そうな様子もない。風通しも良さそうだし、快適に過ごしているようだった。
「九十八君、おはよう」
顔を上げると、同じ講義をいくつか受けている女子学生が笑顔で立っていた。
「おはよう」
「何見てたの?」
「家で留守番してる猫」
興味を持ったようで、自然と隣の席へ座る。
「うち、おばあちゃん猫がいるんだ」
画面を見せると、
「かわいい!」
「何歳なの?」
「十二歳」
「全然見えないね」
「最近すごく元気になってさ」
そんな話をしているうちに、近くにいた学生も興味を持ったらしい。
「猫飼ってるの?」
「名前なんていうの?」
「人懐っこい?」
気付けば小さな猫談義になっていた。それほど長い時間ではなかったけど、講義開始が近付くと、それぞれ席へ戻っていく。
「じゃあまたね」
久しぶりに大学らしい雑談をした気がした。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
ブクマや評価をしていただけると幸いです。
これからもよろしくお願いします。




