066 キャンプが終わり、両親にプレゼント
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「にゃ」
ミミが急に顔を上げて、じっと一方向を見つめている。
「誰か来るのか?」
視線の先を見ると、小さな人影が近付いてきた。
「お兄ちゃん!」
しずかちゃんと、お母さんだった。
「今日帰るって聞いたから、ご挨拶に来ました」
「ありがとうございます」
しずかちゃんは真っ先にミミのところへ駆け寄る。
「ミミちゃん、また遊ぼうね」
「にゃ」
嬉しそうに喉を鳴らしながら撫でられている。ふと右腕へ目を向けると、昨日プレゼントした革のミサンガがしっかり付けられていた。
大切にしてくれているんだな。それだけで嬉しかった。
しばらく話をした後、
「それじゃあ」
「またね!」
手を振り合って別れる。
俺たちも最後のタープを片付け、キャンプ場を後にした。
車が走り始めると、
「にゃ!」
ミミが急に元気になる。楓の膝へ飛び乗ったかと思えば、後部座席へ移動し、窓の外を興味津々に眺め始めた。
「危ないぞ」
そう声を掛けても、ふらつく様子はない。身体能力が上がっているせいか、車の揺れにも軽々と対応している。
「本当に運動神経良くなったよな」
そんな様子を眺めながら車を走らせ、やがて家へ到着した。
「ただいま」
「ただいまー!」
「にゃ」
玄関を開けると、家の窓はすべて閉まっていた。
「……これが普通なんだけどな」
思わず苦笑する。
最近は家でもキャンプ設営の効果を利用するため、窓を開けて過ごすことが多かった。閉まっているだけで違和感を覚えてしまう。
母さんが出迎えてくれた。
「おかえり」
そして笑いながら窓へ向かう。
「翼が帰ってきたから、エアコンを止めて窓を開けましょうか」
俺が過去に設営へ関わった場所なら、能力の範囲へ入るだけで効果が戻る。逆に24時間ほど範囲から離れると、その場所の効果は消えてしまう。
今のところ、分かっている仕様だった。
「母さん、ゴミだけお願い」
「分かったわ」
分別しておいたゴミを渡し、俺と楓は荷物を運び始める。
楓は車内の掃除。俺は荷物の仕分けをして、倉庫へしまえる物から片付けていく。テントもタープも撤収前に綺麗に掃除してある。干す必要もない。
「余裕を持って片付けると、帰ってからも楽だな」
全部終わる頃には、ちょうど昼食の時間になっていた。
「ご飯できたわよ」
母さんに呼ばれ、家族全員で食卓へ向かう。
「今日のお昼は、そうめんよ」
テーブルの中央には、大きなガラス鉢へ盛られたそうめん。
その横には、めんつゆとごまだれの2種類が用意されていた。さらに刻みネギ、ミョウガ、大葉、おろしショウガ、白ごまなど薬味も並んでいる。
「豪華だな」
「キャンプから帰ってきた日は、こういうのが食べやすいでしょ?」
暑い日には、こういう昼食がありがたい。
その隣では、
「にゃ!」
ミミが自分の食器を見つめ、目を輝かせていた。
「そんなに待ちきれないのか」
最近は本当によく食べる。
「それじゃあ」
「「いただきます」」
「にゃ!」
挨拶をした瞬間、ミミは勢いよく食べ始めた。
「相変わらずすごい食べっぷりだな」
「健康ならいいことじゃない?」
母さんが笑う。
確かに、以前よりずっと元気そうだ。
そうめんをすすりながら、今回のキャンプであった出来事を話していく。
川遊びのこと、釣りのこと、旅動画に夢中になっていたミミのこと、楓は途中から身振り手振りを交えながら、楽しそうに話していた。
「そうだ」
思い出して立ち上がる。
「これ」
荷物の中から取り出したのは、キャンプ中に修理した両親の腕時計だった。
「革ベルト直したから、付けてみて」
「もう直ったのか?」
父さんは少し驚いたような顔をしながら腕時計を受け取る。母さんも自分の腕時計を受け取り、ゆっくり腕へ巻いた。しばらく眺めていた父さんが、小さく笑う。
「……言っちゃ悪いが、あまり期待していなかったんだがな」
そう言いながら腕時計を眺める。
「思っていた以上に出来がいいな」
母さんも何度か腕を回しながら嬉しそうに頷いた。
「これならまた一緒に付けられるわね」
その言葉に父さんも笑う。
昔から仲がいい夫婦だとは思っていたけど、こういうやり取りを見ると改めてそう思う。
だからこそ、疑問に感じることがあった。
「なんで今まで直さなかったの?」
父さんと母さんは顔を見合わせる。
「ん~……」
母さんが少し考えてから首を傾げた。
「何でかしらね」
「壊れた頃には新しい腕時計を使っていたし、そのまま思い出として残しておこうか、みたいな話だった気がするな」
「そんな感じだったわね」
どうやら本人たちも、あまり覚えていないらしい。
俺が物心付いた頃には、もう写真と一緒に飾られていた。少なくとも15年くらい前の話になる。
「それと」
もう一つ思い出す。
「ミミが調べてくれたんだけど、この革ベルト、バリアみたいな能力が付いてるらしい」
「バリア?」
「怪我を少し軽くしたり、痛みを和らげたりする効果みたい」
父さんも母さんも揃って首を傾げた。
「どれくらい効果があるかは分からないけど、安全のお守りみたいな感じかな」
「なるほど」
父さんは納得したように頷く。
「身体能力が上がるより、そのくらいの方がありがたいかもしれんな」
母さんも笑う。
「私たちは今でも十分元気だもの」
ミミの場合は身体能力そのものが強化されている。
両親もユニークスキルのレベルが上がり、他のスキルを覚えたことで身体能力が上がっている。だから、これ以上上がっても生活しづらくなるだけだろう。
両親には、こういう能力の方が合っているのかもしれない。
昼食を終え、食器を片付けていると、
「にゃ」
ミミが俺の足へ体を擦り寄せてきた。
「どうした?」
立ち上がって歩き出す。そのまま縁側まで歩いていき、一度振り返る。
「一緒に来いって?」
「にゃ」
誘われるまま縁側へ腰を下ろす。ミミは俺の隣で丸くなり、気持ち良さそうに目を細めた。
「別に疲れてるわけじゃないんだけどな」
キャンプ設営の能力で、夏の日差しは暖かく、吹き抜ける風も心地いい。そのまま横になると、
「……眠くなってきた」
ミミも小さく欠伸をする。
「少しだけ寝るか」
目を閉じると、心地よい風を感じながら、ゆっくりと眠りへ落ちていった。
「お兄ちゃん」
肩を軽く揺すられて目を開ける。
「ん……」
目を擦りながら起き上がると、楓が苦笑していた。
「もうおやつの時間だよ」
「そんなに寝てたのか」
「うん。バイトもあるんでしょ?」
時計を見ると、思っていたより時間が経っていた。ミミも起きていたようで、縁側へ座ったまま大きく伸びをしている。
「にゃぁ」
「お前も寝てたのか」
返事をするように尻尾をゆっくり揺らした。
軽く顔を洗い、お茶を飲みながら時間を潰す。
「じゃあ行ってきます」
「行ってらっしゃい」
「お兄ちゃん、頑張ってね」
「にゃ」
2人と1匹に見送られながら家を出る。
居酒屋へ着くと、ちょうど開店準備の最中だった。
「おはようございます」
「おう、お疲れ」
店長が笑いながら振り返る。
「キャンプ楽しめたか?」
「かなり楽しめました」
「それなら良かった」
軽く雑談をしながら準備を終え、営業が始まる。
今日は平日だったが、それなりに客が入った。
「生2つ!」
「焼き鳥追加!」
「今持っていきます!」
注文を取り、料理を運び、空いた皿を下げる。キッチンの手が足りなければ、手を洗いエプロンを着け直し、調理を手伝ったりした。
気付けば閉店時間になっていた。
「今日もお疲れさん」
店長に声を掛けられ、軽く頭を下げる。
「お疲れ様でした」
「また明日な」
帰宅して風呂へ入り、そのまま布団へ潜り込む。
キャンプ帰りの疲れもあったのか、すぐに眠ってしまった。
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