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058 キャンプ初日①with楓&ミミ

アクセスありがとうございます。

 この小説を書いていて、ソロ要素がほとんどなくなってしまったので、題名を少し修正しました。

 プロットの中にも、よくよく考えればソロ要素がほとんどなかったので、今更ながらなんでソロって入れてたのかを首をかしげてしまいました。

 まさか近場のキャンプなのに、朝の8時前に出発することになるとは思わなかった。



 むにっ……顔へ押し付けられる、柔らかな感触。それも1度や2度じゃない。ぐいっ、ぐいっ、と、妙に力強い圧力が頬へ伝わってくる。


 まだ眠気が残るまま身じろぎをする。


 だが、圧力は止まらない。猫動画でよく見る踏み踏み攻撃とは違う。もっと腰が入っている。


「……うどんでも練ってるのか?」


 もちろん例えだ……でも、それくらい本気の押し込みだった。


 こんな力で肉球を押し付けられたのは初めてかもしれない。


 ゆっくり目を開けると、目の前にはミミ。


 俺が起きたことを確認すると、今度は前足で、たしたしっ、たしたしたしたしっ!


 容赦なく顔を叩いてくる。


 痛くはないけど……完全に、『早く起きろ!』と言っていた。


「分かった、分かった」


 このままでは顔への攻撃が続きそうなので、ミミを抱き上げながら体を起こして、部屋の中を見回した。


「……まだ真っ暗なんだが?」


 カーテンの隙間から見える外は夜そのものだった。


 スマホを手に取る……


「4時半?」


 思わず二度見する。


「ミミ、さすがに早すぎるんだが?」


 そんなこと関係ない、と言わんばかりに鳴いて急かしてくる。


 昨日寝たのは深夜1時……まだ3時間半しか寝ていない。


「眠い……」


 欠伸を噛み殺しながら聞いてみる。


「ミミ、楓は起きてるのか?」


 すると、ふるふると首を横へ振った。


「……ちゃんと理解してるんだよな」


 だったら、いつものことを考えれば、俺より先に楓を起こすんじゃないのか? 不思議に思いながらも、ミミを抱えたまま1階へ降りる。


「あれ? 母さん、もう起きてるの?」


「昨日はちょっと早めに寝たからね」


 ソファでのんびりお茶を飲んでいた母さんが笑う。


「それに、いつもの癖で起きちゃうのよ」


 長年の習慣は簡単には変わらないらしい。


 俺は腕の中のミミを見る。


「母さん、悪いけど少しお願いできる?」


「いいわよ」


 ミミを渡すと、少し不満そうな顔をした。


「動画でも見て待っててくれ」


 テレビやタブレットを操作できるミミなら退屈はしないだろう。


「俺は……あと1時間だけ寝る」


 本音を漏らしながらリビングのソファへ倒れ込む。せめてもう少しだけ。


 そう思いながら目を閉じる……また顔をたしたしされる。


「まだ30分しか経ってないじゃないか」


 結局また起こされた。


「どれだけ早くキャンプへ行きたいんだよ」


 ミミは尻尾を立てて満足そうに鳴いている……どうやら二度寝は許してもらえないらしい。


「だったら楓を起こしてきてくれ」


「にゃ!」


 元気よく返事をすると、そのまま2階へ駆け上がっていった。


 俺は苦笑しながら母さんへ向き直る。


「朝飯は?」


「今日は食パンを買ってあるから」


 母さんは冷蔵庫を開きながら言う。


「ベーコンエッグとスクランブルエッグを作るわ。それで食べてね」


 好きな組み合わせだ。ただ一つだけ問題がある。


「また卵食べすぎって言われそうだな」


 ベーコンエッグで1個、スクランブルエッグで2個、合計3個……


「準備お願いしていい?」


「もちろん」


「俺はミミに急かされてるから、荷物積んでくるよ」


 昨日まとめておいた荷物を父さんの車へ運び始める。テント、タープ、チェア、テーブル、調理道具、クーラーボックス……必要な物を順番に積み込んでいく。


「ミミ用品も……」


 猫缶、水、食器、ブラシ、お気に入りのおもちゃ、ほとんど積み終えた。


「あとはトイレだけだな」


 出発前に済ませてもらってから積み込もう。


 20分ほど作業を続ける頃には、


「おはよぉ……」


 家の中から楓の眠そうな声が聞こえてきた。母さんが朝食を作り始める音もする。俺もちょうど荷物を積み終えたので家へ戻る。


「あっ、お兄ちゃん」


 楓が聞いてきた。


「ミミちゃんのクッションも積んでくれた?」


「ちゃんと後部座席に積んだ」


「朝ご飯食べて最終確認すれば、いつでも出発できるぞ」


「お兄ちゃん、グッジョブ!」


 元気よく親指を立てる。


「……あれ?」


 そういえばミミがいない。リビングを見回すと、


「いた」


 縁側だった。出発前の恒例になりつつある毛繕いを始めている。


 しばらくすると玄関へ移動。姿見の前で立ち止まり、自分の毛並みを確認する。そしてまた縁側へ戻って毛繕い。


 もう一度姿見……


「……おしゃれさんになったな」


 本当に自分の見た目を気にしているらしい。そんな様子を眺めながら朝食を食べ終える。食器を片付けると、


「お兄ちゃん、行こ!」


 楓がミミを抱き上げて立っていた。


「いや、キャンプ場じゃないから時間は気にしなくていいんだけど」


 時計を見る……まだ7時半。


「確認してから出発しても9時前には着くぞ?」


「にゃー!」


「ほら!」


「……味方がいると強いな」


 1人と1匹の勢いは止められそうにない。忘れ物がないか最終確認を済ませ、俺たちは出発した。


 走り始めると、前回も通った道なのに、どこか景色が違って見える。


 父さんの車だから視点が高いというだけじゃない。楓とミミが一緒だからか、そんな気分の問題なんだろう。


 1時間もしないうちに河原へ到着した。


「ここきれいだね! キャンプをするためにある場所みたい!」


 俺は少し先の家を見る。


「この前の果物のお礼を言いに行こうか」


「お兄ちゃんが持って帰ってきた、ぶどうと桃とブルーベリー?」


 頷いて歩き出す。チャイムを押すと、すぐに元気な声が聞こえた。


「しずかちゃん、久しぶり。お母さんいるかな?」


「お兄ちゃんだ! お母さーん! この前のお兄ちゃんが来たよー!」


 家の奥から早足で近付いてくる音がする。お母さんは俺たちを見るなり、また深々と頭を下げた。


 俺は苦笑しながら首を振る。


「気にしないでください。当たり前のことをしただけですから」


 そして今度はこちらがお礼を言う。


「果物、ごちそうさまでした」


 楓を紹介し、またキャンプへ来たことを話すと、


「あんなことがあったのに、また来てくださるなんて」


 少し笑われてしまった。どうやら従妹のりゅうすけ君はお家へ帰ってしまったようだ。


 しずかちゃんはこちらを見つめたまま目を輝かせていた。


「もしよければ、またしずかちゃんと遊んでもいいですか? 今回は妹もペットも連れてきているので」


 しずかちゃんのお母さんは娘の潤んだ目と俺たちを見比べ、


「……お願いします」


 と微笑んだ。念のため電話番号を交換し、何かあればすぐ連絡できるようにしてから河原へ戻る。


 その道中、楓としずかちゃんは手を繋ぎながら、楽しそうにお喋りを続けていた。


 そして車へ戻ると、たしたしっ、たしたしっ……ミミがタープ袋を前足で叩いている。


「はいはい。今から設営だな」


 まずはしずかちゃんへミミを紹介する。


「かわいい……」


 恐る恐る撫でた瞬間、顔がとろけた。俺は笑いながら設営を始める。


 最初にタープ、次にテント、最後は車のバックドアを利用したキャンプシアター用の遮光タープ。


「お兄ちゃん、この空間は何なの?」


「映画館になるんだよ」


 プロジェクターをセットし、試しに旅動画を映すと、しずかちゃんの目がきらきら輝いた。


「夜になったら映画を見る予定なんだ」


「私も見たい!」


「後で、お母さんに聞いてみようね」


 しずかちゃんは嬉しそうに頷いた。


 ふと見ると、ミミは専用チェアでクッションにもたれ、すっかりくつろいでいる。


「ミミちゃん、かわいいね」


 しずかちゃんが優しく撫でる。ハーネスとリードのおかげで、20メートルほどの範囲なら自由に歩ける。


 ちょうど設営が終わった頃、


「こんにちは」


 しずかちゃんのお母さんが、混ぜご飯のおにぎりと漬物を持ってきてくれた。


「お昼にどうぞ」


 簡単に済ませる予定だった昼食が、一気に豪華になる。その横では、しずかちゃんがキャンプシアターの説明を一生懸命していた。


「ここで映画見るの!」


 少し悩まれるかと思ったが、


「いいわよ」


 返事は意外なほど早かった。楓たちが喜んでいる隙に理由を尋ねると、お母さんは少し照れたように笑う。


「この前、自分の危険を顧みず、あの子たちを守ってくださったじゃないですか」


 まっすぐ俺を見る。


「そんな方を信頼するのは、当たり前だと思います」


 顔見知り程度の間柄……それでも、命懸けで守ったという事実は、それだけ重いものだったらしい。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

ブクマや評価をしていただけると幸いです。

これからもよろしくお願いします。

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