054 革細工の完成とモデルのミミ
アクセスありがとうございます。
店長から革紐作りの説明を受け、俺たちはさっそく作業を始めた。
「一枚革を加工するのとは、少し勝手が違うからな」
店長は細長く裁断された革を手に取る。
「革紐は細い分、グラインダーへ通しにくい。力を入れすぎると削りすぎるし、角度が悪いと切れやすくなる」
実際にやって見せてもらうと、革を軽く添えるように滑らせているだけだった。
「慣れれば難しくないぞ」
俺もやってみる。最初は革がふらついて上手く当てられなかったが、何本か練習すると少しずつコツが分かってきた。
「そうそう。その角度ならいい」
店長が頷く。
「ありがとうございます」
どうやら革紐は、店で必要になるものだったらしい。
革の裁断までは済んでいたが、優先しなければならない作業が多く、革紐だけ後回しになっていたそうだ。
俺はひたすらグラインダーでヘリを整える。
その横では、楓が色付けを担当していた。染料を塗り、ふのりで仕上げ、丁寧になじませていく。
そして最後は、
「にゃ」
ミミが革紐へ肉球を乗せる。
「店長さん、ミミちゃん検品です」
「ははは、厳しい検査員だな」
店長は笑いながら1本受け取る。
「うん、十分な品質だな。まぁ、時間は掛かってるけど仕事じゃないから問題なし」
20本ほど完成した革紐を見て、工房の棚を指差した。
「この辺の端材を使って、首輪用の革紐を作っていいぞ」
「ありがとうございます」
俺は棚へ近付く。そこには色も厚さも違う革がずらりと並んでいた。
「……すごいな」
革と言っても、本当にいろんな色の端材がある。
同じ赤でも深い赤、鮮やかな赤、少し茶色がかった赤。黒も真っ黒だけじゃない。 少し灰色っぽい黒や、艶のある黒まである。
その中から細長く使えそうな端材を探していると、
「お兄ちゃん! 決まったよ!」
スマホの画面を覗き込む。
「これにしよう! 2色を2本ずつ使った編み込みのやつ! ツク棒も通せるから、サイズも自由にできるよ」
思わず感心する。
「細めになるから、ミミにも負担が少なくて済みそうだ」
店長も画面を見て頷いた。
「いいチョイスだな」
ただ、一つ問題がある。
「編み込みの方法を説明したサイトとかあるか?」
「うん、大丈夫! そのサイトも見つけてるよ! 私は分からないけどね!」
「全然大丈夫じゃないだろ……」
店長や店員さんは、その様子を見て笑っていた。
結局、自分で動画を見ながら覚えるしかないらしい。
俺は赤と白の端材を選ぶ。ちょうど細長い物が残っていて都合が良かった。
「まずは等間隔に線を引く」
専用の道具を使うと、同じ幅の線が何本も引ける。
「少し厚めに切るんだぞ」
「厚めですか?」
「後でグラインダーで削るからだ。最初から細いと切れる可能性がある」
「なるほど」
慎重に裁断していく。そのまま、グラインダーでヘリを研磨していく。
そのあとは、楓が色付けとなじませをしてくれるので、その間に編み込みの練習をすることにした。
「お兄ちゃん、準備できたよ」
20分ほど練習していると、ようやく手が覚えてきて、そのタイミングで楓の作業が終わったようだ。
本番の革紐を編み始める。
赤、白、赤、白……少しずつ模様が出来上がっていく。
今回はアクリル塗料での仕上げをしていないため、乾燥時間を待つ必要がなかったから、すぐに作り始めた。。
「最後はこれだな」
店長が猫用首輪の金具を持ってきてくれる。
「ツク棒はこれを使えばいい」
教えてもらいながら取り付ける。
最後の金具を固定した。
「……できた」
初めて作った猫用の首輪……店長は手に取って確認すると、
「編み込みタイプは加工技術より、手先の器用さが重要なんだ」
少し笑って続ける。
「あっちの店員より編み込みの才能あるぞ」
思わず顔が緩んだ。認めてもらえるのは、やっぱり嬉しい。
「ミミ」
首輪を付けてやる。赤と白の編み込みが白黒の毛並みによく映える。
「にゃ!」
ミミは胸を張り、その場でくるりと向きを変えた。
楓は夢中でスマホのシャッターを切る。店長まで写真を撮っていた。
「完全にモデルだな」
その言葉通り、ミミはどこか得意げだった。
撮影会が一段落すると、店長が真面目な顔になる。
「翼君、センスがあると思うから、暇な時間があったら手伝いに来ないか?」
「え?」
「時間は決めない。好きな時でいい」
さらに続ける。
「本格的に来ることが決まったら、インセンティブ形式になると思うけど、よかったら考えておいて」
「ありがとうございます」
素直に嬉しかった。まだ始めたばかりなのに、そう言ってもらえたことが何より嬉しい。
その後は店長が懇意にしている食堂で昼食をご馳走になり、ミミも店の許可をもらって一緒に過ごした。
ミミと楓と一緒に家へ帰る……今日はバイトが休みだったので、のんびり過ごしていると、17時頃に母さんから電話が掛かってきた。
「翼? 悪いんだけど買い物お願いできる?」
仕事が思ったより忙しく、帰りが遅くなりそうらしい。
買い物へ向かう。
この時間になると売り切れている野菜も多いが、今日は運良く必要な物はそろっていた。
こういう買い物は、大抵俺の役目だ。楓に頼むと鮮度を気にせず選んでしまう。
その代わり、米を炊く担当は楓だった。
俺も何か作ろうかと思ったが、そこまで遅くならないから大丈夫とのことで、母親の帰りを待つことになっている。
18時半頃、母さんが帰宅すると、慣れた手付きで夕食を作り始める。
さらに19時頃、父親も帰ってきたが、真っ先に向かったのは、
「おっ、首輪できたのか!」
ミミのところだった。
そして、何枚も写真を撮り始める。どうやら父親が楓に頼んで、楓からミミにモデル役を頼んだようだ。
「そうだ、母さん」
俺は封筒を差し出した。
「お手伝いしたら材料費も道具代もタダにしてくれたから、お金使わなかった」
今日の買い物のレシートと一緒に返す。
「にゃぁ!」
急にミミの鳴き声が聞こえたかと思うと、父さんが構いすぎたせいで、ミミに逃げられていた。
「嫌われた……」
肩を落とす父さんを見て、思わず笑ってしまう。本当に昔から変わらない人だ。
夕食が並び始めると、
「お母さん、これが完成した時のミミちゃんだよ」
楓がスマホを見せる。そこには胸を張ってポーズを決めるミミが写っていた。
「やっぱり、ミミちゃんは美人さんよね」
母さんまで完全に親ばかだった。
そんな主役のミミはというと、家へ帰ってから何度も玄関の姿見の前へ行っては、自分の首輪を眺めている。
その姿が可笑しくて、何度も笑ってしまった。
食事をしている最中、
ピッ……突然テレビの電源が入る。
「ん?」
見ると、リモコンを操作していたのはミミだった。さらにタブレットまで前足で操作し、旅行動画を再生し始める。
「ロックは掛けてないから開くことはできるだろうけど……」
俺は遠い目になる。
「動画アプリを起動するところからできるようになったのか……」
ミミは、日に日に賢くなっている気がした。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
ブクマや評価をしていただけると幸いです。
これからもよろしくお願いします。




