053 革細工作り?
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バイトを終えて家へ帰ると、玄関の扉を開ける前から聞き慣れた声が聞こえてきた。
「ただいま」
扉を開けると、真っ先にミミが足元まで迎えに来る。その後ろには楓まで立っていた。
「おかえり、お兄ちゃん!」
なんだろう……この組み合わせは嫌な予感しかしない。
「待ってたよ!」
「それが余計に怖いんだけど」
俺が苦笑すると、楓はミミを抱き上げた。
「お兄ちゃん、ミミちゃんが革の首輪が欲しいって。お兄ちゃんの作った、心のこもった首輪がいいって」
「どう考えても、お店で買ったやつの方がいいだろ……それに、心のこもった首輪ってなんだよ?」
「ミミちゃんが言うには、自分のことを思って作ってくれればいいってさ。私にもそれ以上のことは、よく分かんない」
そう言われると困る。
既製品なら丈夫で見た目もいい物がいくらでもある。それなのに、わざわざ俺が作る理由なんてあるんだろうか。
ミミを見る……
「にゃ」
真っ直ぐ俺を見返してきた。そこまで言うなら仕方ない。
「明日、散歩がてら、あのお店に行ってみるか」
「やったね、ミミちゃん! 一緒にお散歩行こうね!」
「にゃー!」
嬉しそうな1人と1匹を見て、俺はため息をつく……1人で相談しに行くつもりだったんだけどな。
翌朝、目を覚ましてリビングへ向かうと、父さんも母さんもスーツ姿だった。
「あれ? 今日から仕事?」
「そうよ。忘れていると思うけど、今日は月曜日よ」
母さんは笑いながら答える。
「早めに休みを取ったから、お盆の出勤にはなるけど、社外の仕事が少ないから、社内の仕事がはかどるのよね」
そういえば、そんな話をしていた気がする。
「翼は課題が終わっているって話だからいいけど、3週間後には夏休みが終わるんだから、準備しておくのよ」
「そっか……もう8月も半ばなんだな」
ダンジョンやキャンプばかりで、日付なんてまったく気にしていなかった。
「あっ、そうだ」
俺は思い出したように言う。
「ミミが手作りの革の首輪が欲しいみたいだから、今日またあのお店に行ってくるよ」
「革代や多少のお金なら出すから、いいものを作ってあげてね」
母さんが財布から数枚の紙幣を取り出して机へ置く。
「ありがとう」
……これでもう、作らないという選択肢は完全になくなったな。まあ、作る気ではいるんだけど。
しばらくすると楓が起きてきて、朝食を済ませるや否や、ミミへハーネスを付け始めた。
「おいおい。さすがに早いぞ。店が開いても10時くらいだったはずだから、まだまだだぞ」
楓が固まる。ミミも俺の言葉を理解したのか、
「にゃぁ……」
不貞腐れたように鳴くと、そのまま縁側へ歩いて行き、だらっと縁側に寝そべった。
「お兄ちゃん、ミミちゃんすねたよ」
「店が開いてないのに行ったら、迷惑どころの話じゃないぞ……」
1人と1匹の様子に、父さんと母さんは顔を見合わせて笑う。
「ここに、お金置いておくから、足りなかったら自分たちで出すのよ」
「分かった」
本当はバイト代だけでも足りる。でも、革や金具は両親のお金を使わせてもらって、工具類は自分で買うことにしよう。
その方が何となく区切りがいい気がした。
出発の20分前……まだ時間があるというのに、楓とミミは玄関で待機していた。
「気合い入りすぎだろ……」
「早く行こうよ!」
「にゃ!」
結局、時間になるまで2人をなだめ続けることになった。
外へ出ると、真夏の日差しが照り付けていた。数分歩いたところで、
「にゃぁ……」
ミミが立ち止まる。
「どうした?」
「地面が熱いんだって」
「そりゃそうか」
楓がミミを抱き上げると、今度は両手が塞がってしまった。
「ほら」
俺は日傘を広げ、楓とミミの上へ差し掛ける。
「ありがと、お兄ちゃん」
のんびり歩きながら工房へ向かう。程なくして店へ到着した。
「店長さん、失礼します」
「おっ、いらっしゃい」
店長は革を裁断しながら顔を上げる。
「今日はミミの首輪について相談に乗ってもらいたくて来ました。どういう革を使って、どんな加工が必要なのか、それと必要な道具も教えてもらえますか?」
「作業しながらでいいかな?」
「もちろんです」
店長は笑って頷いた。
「猫ちゃんの首輪なら小さいから、端材を使えばかなり安くできるかな。道具もグラインダーは必須じゃない。手動のヤスリとヘリを磨く道具、それから色を付ける道具くらいで十分だ」
「模様や文字を打つ道具って、高いですよね?」
「全部そろえようと思えばな。でも2、3種類ならそこまでじゃない」
そう言って笑う。
「本格的に始めるか分からないんだろ? だったらカービングくらいはここでやっていいぞ」
「本当ですか?」
「その代わり」
店長の視線が楓の腕の中へ向く。
「ミミちゃんを撫でさせてくれ」
「にゃ」
言葉を理解したミミが、自分から店長の前へ降りて座った。
「本当に分かってるんだなぁ」
店長は満面の笑みで頭を撫でる。
「可愛いなぁ」
……仕事、大丈夫なんだろうか。
「端材でも商品になる革ですよね?」
「もちろん」
店長はメジャーを取り出す。
「ミミちゃん、ちょっと失礼」
首回りを測り終えると、
「このサイズなら、500円で2本作れるくらいの端材を売れるかな」
「え? そんなに安いんですか?」
「首輪は、使う革が少ないからな」
さらに2枚の大きな革を見せてくれた。
「これはいくらだと思う?」
「……10万円くらい?」
「惜しいな。こっちが5万円、こっちが15万円」
思わず目を丸くする。
「革細工は革を売る仕事じゃない。技術を売る仕事なんだ。同じ材料でも作り手で価値はまったく変わる」
その言葉は妙に納得できた。昨日見た仕事ぶりを思い出す。あれだけの技術があれば、値段が変わるのも当然だ。もちろん、デザインとかも重要ではあるが、やはり技術がものをいうらしい。
「それで、高い革の端材は小さくても、なかなか捨てられないんだよ」
10cmほどの細長い革を見せながら説明してくれる。
「小物や革紐にも使えるからな」
「革紐で編み込む首輪もありますよね?」
「ああ。完成品を買うと高いけど、自分で作れば安いぞ」
「グラインダーとか借りられます?」
「じゃあ条件付きだ。ちょうど作りたい革紐があってな、一緒に作ってくれたら道具代はいらない」
「やります!」
「出来が良かったら昼飯くらい奢るよ」
「お願いします!」
その横で、何故か楓とミミまでやる気満々だった。
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