048 貢献者に対して理不尽な仕打ち
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今も悲鳴が聞こえている。
「きゃあああっ!」
「うわああああ!」
間違いない。しずかちゃんとりゅうすけ君の声だ。俺は声のした方向へ全力で走った。草を踏み分け、川沿いを駆け抜ける。
「大丈夫か!」
叫びながら飛び出した先で、俺は思わず足を止めた。
「なんだ……あれ?」
2人が必死に走っている。その後ろには、同じくらいの背丈の緑色の何かがいた……醜悪な顔……異様に長い腕……ボロ布のようなものを腰に巻いている。
ネットで見たことがある。
「ゴブリン……?」
似ている……? いや、ほぼそのままだ。しかも1匹ではない。3匹もいたのだ。
考える暇はなかった。俺はそのまま2人の元へ駆け寄る。
「お兄さん!」
「たすけてー!」
左右から飛びついてきた2人を抱え上げた……思ったより軽い。
「捕まってろ!」
そのまま車へ向かって全力疾走する。後ろから変な鳴き声が聞こえた。
振り返らない! とにかく走る!
車へ到着すると後部座席の扉を開け、2人を押し込んだ。
「絶対に外へ出るな!」
「う、うん!」
「わかった!」
扉を閉める。そして近くへ置いてあった包丁代わりのナイフを手に取る。
「どこいった……?」
周囲を見回すと……ゴブリンたちは止まっていた。
いや、正確には進めなくなっていた。俺のキャンプエリアの境界付近……見えない何かへ、体を押し付けるように前傾姿勢になっている。
だが中へ入れない。
「キャンプ設営か」
助かった……少なくとも今は安全らしい。
後ろを見る……車の中から2人が不安そうにこちらを見ていた。今なら攻撃できるが、さすがに見せられないよな。
子どもたちに暴力シーンを見せるわけにはいかない。
俺は大声を出した。
「2人とも目をつぶってろ!」
慌てて2人が目を閉じる。俺はシアター用のタープを1枚解体し、そのまま車へ被せた。これで中からは見えない。
ナイフを握り直し……ゴブリンを見て少し考えた。
動物に刃物を使うのは抵抗がある……俺はナイフを地面へ置いた。そして近くに落ちていた太めの木の枝を拾う。
ゴブリンへ近付くと、1匹が唸り声を上げたため、とっさに足が出た……ゴブリンを思い切り蹴飛ばしていた。
鈍い感触……吹き飛んだゴブリンが腹を押さえて転がった。
痛みは感じるらしい。
「行くぞ!」
木の棒を振り下ろした。何度も、何度も、無我夢中で殴って、殴って、殴り続ける。
途中で腕が痛くなり、息も上がったが、止まれなかった。
やがて……緑色の血のような液体を撒き散らしながら、3匹とも動かなくなった。
「はぁ……はぁ……」
疲れた……ものすごく疲れたが、まずは2人を帰そう。
俺は車へ戻り、家に送ることを説明しながら2人を落ち着かせた。途中で落ち着きを取り戻した2人は、必死にゴブリンの特徴を説明していた。
家へ到着すると保護者へ状況を伝える。周囲にモンスターがいる可能性と、外出を控えた方がいいこと。
そして、資格講習で聞いた内容を思い出した。
「モンスターを発見した場合は、ダンジョン管理局へ連絡だったな」
すぐに電話をかける。簡単に事情を説明すると、テレビ通話へ切り替えるよう指示された。
再びキャンプ場所へ戻り、死体を映す。
『確認しました。ゴブリンです』
やっぱりか。
『すぐに人員を派遣しますので、その場で待機してください』
「は?」
思わず声が漏れた。
『待機をお願いします』
「いや、モンスターが出た場所なんですよ?」
『理解しています』
「今すぐ帰りたいんですけど」
『申し訳ありませんが、現場保持のため待機をお願いします』
最悪だった。だけど、無視するわけにもいかない。仕方なく、いつでも逃げられるよう片付けを始める。必要ない物は全部車へ収納。
テントも撤収したが、キャンプ設営のスキルを維持するため、1枚だけタープを車の上へ張って残しておく。
「これで多少は安全か」
そう思い、待つことにした……
1時間…
2時間……
3時間………
4時間…………
「遅すぎるだろ!」
本気で帰ろうかと思った頃だった。ようやく軍用車両のような車が現れ、そこから数人が降りてくる。事情を説明すると、兵士のような人たちは3人1組で周囲へ散っていった。
残った隊長らしき男性へ聞く。
「もう帰っていいですか?」
「申し訳ありません」
即答だった。
「ダンジョン入場資格保有者であり、通報者でもありますので、協力義務があります」
「俺、戦えませんよ?」
「それは把握していますが、帰れません」
理不尽だった……空が暗くなり、兵士たちは戻ってきて食事を取った。
そして再び山へ入っていくが、俺の分の食事はない。
「はぁ……」
缶詰を開け、そのまま食べる……なんだこの扱い。
深夜2時頃……兵士たちが集まり始めた。どうやらダンジョンが見つかったらしい。未発見だったダンジョン。
最近問題になっているモンスター流出対策部隊……そういう説明を聞かされた。
「俺いらなくないか?」
誰も答えてくれなかった。結局、朝まで拘束された……民間人に徹夜を強制するなよ! せめて寝させてくれ。
タープの下にいたおかげでキャンプ設営の回復効果は受けていが、それでも眠かった。
朝になると、第2陣が資材を積んだ車で到着した。
そこでようやく……
「解放です」
その一言を聞けた俺は、すぐに撤収した。
帰る前にしずかちゃんたちの家へ寄り、簡単に状況を説明して帰路についた。
だが途中で限界が来た。温泉施設を見つけ、事情を話して駐車場を借りる。
車内で仮眠して、目が覚めた頃にはかなり回復していた……せっかくなので温泉へ入る。汗も疲れも流し、施設の人へお礼を言って車へ戻る。
その後、母親へ連絡して、事情を説明し、家へ帰る。
昼を大分過ぎた後、ようやく帰宅した。
「ただいま」
「おかえり」
母親が出迎えてくれる。
「大変だったみたいね」
「本当に大変だった」
リビングへ入った瞬間、違和感に気付いた。
「エアコンつけてるの?」
「そうなの、今日の10時前くらいにミミちゃんが急に鳴き始めてね。楓に確認してもらったら、効果が切れるからエアコンをつけろって」
「10時前……」
計算する。
「俺が出てから約24時間か……ということは、俺の能力って、俺が離れると効果が切れるのか?」
その瞬間だった。
縁側を見ていたミミが窓をタシタシ叩き始めた。外へ出せという要求だ。
母親が窓を開けると、ミミは当然のように縁側へ移動して、満足そうだ。
「そういえば昼ご飯食べてないんでしょ? 何か作ろうか?」
「助かる……何でもいいから食べたい」
「牛スジが残ってるから、牛スジ丼でもいい?」
「全然いい」
数分後、牛スジ丼をかき込む。美味い……温かい……母親の飯は最高だった。
食べ終えた瞬間、強烈な眠気が襲ってくる。
「ダメだ……」
仮眠はしたが、限界だった。
「ミミ、隣で寝てもいいか?」
「にゃー」
許可が出たので、縁側へ横になると、ミミが当然のように俺の腹へ乗ってきた。
そのまま丸くなった……温かい。
「おやすみ……」
目を閉じた次の瞬間には、もう意識は沈んでいた。
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