041 キャンプ設営スキルの検証
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朝食の準備ができたわよ……そんな母親の声で目が覚めた。
目を開け体を起こすと、まだ目を覚ましたばかりなのに体が軽く動きそうだ……やっぱりキャンプ設営の影響なんだろうな。
部屋を出てリビングへ向かうと、すでに両親がテーブルについていた。
母親はいつも朝は早いから分かるが、父親まで座っているのは珍しかった。休日ならもっと寝ていることが多いからだ。
楓はまだ起きていない。基本的に、あいつはいつも最後だ。
父親がこちらを見ていて、俺が座ったタイミングで口を開いた。
「翼、今日はバイト何時からだ?」
突然だったので少し驚く。
「18時からだけど」
そう答えると、父親は頷いた。
「今日はちょっと出かけるから付き合ってくれ。母さんも楓もミミも一緒に出掛けるぞ」
どこへ行くのか聞こうと思ったが、父親の様子からして今は教える気がなさそうだったので、とりあえず了承しておく。
それから数分後。
階段を降りてくる音が聞こえた。相変わらず眠そうではあるが、それでも以前ほどではない。目を擦りながら席へ向かってくるが、動きは明らかに軽かった。
多分、これもキャンプ設営のおかげだろう。
朝食を食べ終わった瞬間……
「にゃー!」
待ってましたと言わんばかりにミミが鳴いた。そして器用にハーネスを引きずりながら母親の足元へ向かう。その姿に全員が笑った。
「ミミちゃん賢いね。まずは私たちが準備するから少し待っててね」
母親が頭を撫でると、にゃ! と返事をしたように鳴くミミ。
その後、両親は出掛ける準備へ。俺と楓も着替えるために自室へ戻った。
準備を終えてリビングへ戻ると、ミミが熱心に毛繕いをしていた。前足を舐めて顔を拭き、体中の毛並みを整えている。どう見ても出掛ける準備をしているつもりに見えた。
楓が笑いながら専用ブラシを持ち上げて、
「ミミちゃん」
するとミミは即座に反応して、楓のもとへ一直線に駆け寄る。
しばらくして両親の準備も終わり、ハーネスを装着されたミミは上機嫌だった。
そのまま全員で父親の車へ移動する。
出発してしばらく経った頃、
「今日はどこ行くんだ?」
聞いてみると、助手席の母親が振り返り、
「着くまで秘密」
その言葉と同時に母親と楓が笑い、ミミまで楽しそうに鳴く……どうやら俺だけ知らないらしい。
「何だそれ」
不満を口にするが誰も教えてくれない。
車は市街地を抜け、徐々に山の方へ向かっていく。標高はそれほど高くない山だが、周囲の景色は明らかに変わっていた。
ミミは興味津々だった。母親の膝へ立って前方を眺めたり、楓の膝へ移動して窓の外を見たりしている。初めて見る景色が楽しいのだろう。
やがて国道を外れて山道へ入る。
舗装はされていないが思ったより整備されていて揺れは少ない。
初めて来る場所だな……そう思っていると目的地へ到着した。
広い……第一印象はそれだった。
倉庫のような建物があって、そしてかなりの広場……イベント会場にでも使えそうな規模だ。
父親は迷うことなく倉庫へ向かい、そして当然のように鍵を開けた。
いや、待て! ここ家の所有地じゃないよな?
疑問に思っていると、
「翼、手伝え」
呼ばれたので中へ入る。様々な物が並んでいた。運び出した中の一つを見て思わず口にする。
「これって運動会でよく見るパイプテント?」
「それより小さくて軽いタイプだな」
父親が答えた。
「何でこんなものを?」
すると父親は少し笑う。
「お前がスキルのことで悩んでいるのは分かっていたからな」
俺は思わず動きを止めたが、父親は続ける。
「知り合いに頼んでこの倉庫と広場を貸してもらった。物品確認の仕事を引き受ける代わりにな。お前の能力を調べるにはちょうどいいだろ?」
そして肩を叩かれる。その言葉に胸が熱くなった。
気にしているつもりはなかったが、両親には違う姿が見えていたようだ。
イベント機材は重いけど、台車や運搬用具が揃っていたので作業は順調だった。
やがてパイプテントが完成すると、父親が頷いた。
「やっぱり涼しくなるな。気持ち疲れも少ない感じがする」
そこから本格的な検証が始まった。
まず俺が関与しないケース……両親と楓だけでテントを設営するが、結果は効果なし。
次に俺が指示を出して設営すると成功した。俺自身は設営作業に参加していないが、それでも効果が発動している。
さらに検証を続けた。地面から少し浮かせる……すると効果消失。接地が必要らしい。父親が考え込む。
「お前の意思が介入してれば発動するのかもな」
次は離れた見えない場所から指示……結果は失敗。現場にいる必要があるらしい。これで発動条件は大体分かったな。
父親は事前に考えていたらしいメモを取り出し、次に範囲の確認を始める。並列思考のスキルらしく、検証内容が細かく整理されている。
そのおかげで実験は順調だった。
結果として分かったのは、3つ以上のテントやタープが連結すると1つのエリアになること。2つでは発動せずに、3つ以上で初めて繋がる。
さらに連結可能距離は約10m……広く感じるが、レベルが上がれば、どうなるのやら?
そんな検証を続けていた時だった。
突然、頭の中に声が響いた。
『キャンプ設営スキルのレベルが2になりました』
『一般スキルを開放します』
『料理スキルレベル3』
『掃除スキルレベル2』
『片付けスキルレベル2』
『短剣術スキルレベル3』
『建築術スキルレベル2』
『その他10個のスキルを付与しました。ステータスボードで確認してください』
さらに続く。
『この内容はユニークスキルのレベルを上げた者のみ知ることができます。他者へ伝えようとした場合、激しい頭痛が発生します』
そして声が消える。
俺は呆然とした。
そして父親を見る。
「父さん……もしかして並列思考のスキルレベル上がった?」
父親が笑った。
「おぉ。やっと上がったか」
知っていた……全部知っていたのだ。
「うちで最後だったのがお前だからな。話せなかったんだよ」
父親は俺のために考えてくれていたのだ……キャンプ設営のレベルを上げる方法を……
少し泣きそうになったけど、誤魔化すように別の話をする。
「短剣術って何だ?」
「母さんにも出てたぞ。俺と楓には無かったから、包丁だろうな。母さんがレベル2だったから、居酒屋で働いてるお前の方が高いんだろ」
なるほど……そう言われると納得できる。
その時だった。足元に柔らかい感触……視線を落とすと、ミミが体を擦り付けていた。
まるで分かっていたかのように……慰めるように……励ますように……俺はしゃがみ込んで、
「ありがとうな」
頭を撫でてお礼を言うと、ミミは満足そうに目を細めた。
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