039 キャンプ設営の能力が一部判明
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気付けば昼が近付いていた。朝からキャンプ設営の実験をしていたせいで時間の感覚が少し狂っていたが、腹は正直だ。
庭に戻ると、父親が何か準備をしていた。
「何してるんだ?」
「昼飯だ」
見ると、キャンプで使った道具が並べられている。炭、焼き台……どうやら庭で昼食を食べるつもりらしい。
「せっかく快適なんだから外で食べようって話になってな」
確かに今の庭は妙に過ごしやすい……ただし問題もある。
「いや、日向は普通に暑いぞ」
「だからタープ張るぞ」
父親は当然のように言った。結局、俺も手伝うことになる。2人で作業すればあっという間だ。
ポールを立て、ロープを張り、タープを固定する。慣れた作業なので10分も掛からなかった。
日陰が完成すると、そこだけ別世界みたいだった。
「やっぱ涼しいな」
父親が満足そうに笑う。そしてそのままクーラーボックスを開いた。
中には大量の氷……さらに缶ビールがぎっしり入っている。
「飲む気満々じゃねえか」
「休日だからな」
父親は悪びれなく、母親も横から頷いた。
「私も飲むわよ」
「ってことは、焼き係は俺か」
楓に視線を向ける。
「無理」
断られた……理由に使われたのは、足元にいるミミだった。
「ミミちゃんの世話で忙しいから」
「完全に遊んでるだけだろ」
「重要なお仕事です」
言い切られた。ミミも当然のように楓の膝へ乗っている。
駄目だな、戦力にならない……俺は諦めて炭へ着火した。
しばらくすると炭が安定し始めたので、焼き台の上へ串を並べていった。
鶏肉、豚肉中心にお肉系から焼いていく。一度に20本近く並べられる。
「お腹空いた~」
楓が騒ぐ。
焼き始めるとすぐに脂が落ち始めた。じゅうっという音とともに、立ち上る煙。そして香ばしい匂いが食欲を刺激して、腹が減る。
母親が大きめのコップを持ってきた。
「例のタレ?」
「そう」
母親オリジナルのタレだ。醤油をベースにした甘辛い味付けで、昔から家では評判がいい。俺は刷毛でタレを塗りながら焼いていく。
肉が照り始める……いい色だ。
「うまそう」
父親はすでにビールを開けていた。まだ焼けてないんだが……
そして1陣目が完成した。
「できたぞ」
「待ってました!」
楓が即座に動き、大皿を準備する。そこから自分が食べたいものを取っていくスタイルだ。
一口……炭火の香りとタレの甘辛さが合う……これは反則だな。
「ビールに合うな」
「最高ね」
両親は完全に上機嫌だった。
1陣目を食べながら、俺は次の串を並べていく。今度は豚バラ野菜巻き串だ。
こちらは火が通るまで時間が掛かる。じっくり焼かなければならない。
夏場に炭火の前へ立つなんて苦行だが、今日は暑くない。本来なら、熱中症になってもおかしくない。
それなのに。
「本当に涼しいな……」
タープの下は快適だった。汗もほとんど出ないし、不思議な感覚だ。キャンプ場で感じた快適さと同じだった。
その頃……ミミは食事を終えて、芝生の上へ移動し、ごろんと横になる。
「気持ち良さそうだな」
「にゃー」
完全にくつろいでいた。風が毛並みを揺らしている。機嫌も良さそうだった。
そんな中……
「こんにちはー」
声が聞こえたので、振り返ると、近所のおばさんだった。
どうやら様子を見に来たらしい。
まあ無理もないか? 庭に集まって、いい匂いを漂わせて騒いでいるのだ……気になるだろう。
「あら?」
だが、おばさんが庭へ入ろうとした瞬間……ぴたりと止まった。まるで何かにぶつかったような動きだった。
俺は一瞬で理解した。
まずい! 慌てて意識を向けた。入れるようにと念じる……この人は入れる。
「あれ?」
次の瞬間、おばさんは普通に歩き始めた。何事もなかったように……危なかった。
「どうしたんです?」
「今なんか変な感じがして……」
おばさんは首を傾げていた。だがすぐ別のことへ意識が向く……
「あれ? なんか涼しいわね」
驚いたように周囲を見る。
「外なのに?」
「ですよねー」
母親が笑った。
「なんか最近この辺だけ涼しいんですよ」
「そうなの?」
「だから串焼きしてるんです」
キャンプ設営のスキルのことを誤魔化してくれた。俺は内心で助かったと思う。キャンプ設営の話はしたくない。
まだ何ができるか、完全に分かっていないからだ。
しばらく雑談をして、おばさんは帰っていった。
見送った後、父親が真面目な顔になる。
「今の見たか?」
「やっぱり人も止められるんだな」
証明されてしまった……でも問題もある。
「訪ねてきた人まで止めるのは困るわね、でも誰でも通すのは不用心よね」
確かに、悩ましい。
少し考えた後、俺は言った。
「害のあるものは拒否するって感じで試してみるか」
「それがいいかもね」
何が害になるのかは分からない。だが試してみる価値はありそうだった。
その後も昼食は続いた。豚バラ野菜巻き串も無事に焼き上がり、全員満足だった。
3陣まで食べ終わった頃には炭も落ち着いていた。
「じゃあ片付けるか」
立ち上がった瞬間だった。
「にゃっ!」
ミミが飛び付いてきた。
「おっと」
危ない……慌てて受け止める。
「どうした?」
「にゃー」
何か主張している。楓が即座に通訳した。
「まだここにいたいって」
「そうなのか」
「気に入ったらしい」
なるほど、確かに快適だもんな……急ぐ理由もない。
「じゃあもう少しのんびりするか」
俺は父親のキャンプチェアーを持ってくると、
「にゃ!」
ミミが文句を言った。
「今度は何だ?」
「自分の席も用意しろって」
贅沢な猫だな。母親のキャンプチェアーを持ってくるが、まだ不満らしい。
「まだ?」
「クッション」
結局、専用クッションまで設置してようやく満足した。
ミミは優雅に座っている……完全に女王様だった。
俺はチェアーへ深く腰を掛け、タンブラーへ冷たいジュースを注ぐ。
一口飲む。
「うまい」
そして本を開く。
風が心地いい……静かだ……読書には最高だった。
一方、楓はマットを敷いていた。その上からミミを構い続けている。
「かわいいー」
「にゃー」
迷惑そうな顔をしているが、尻尾は機嫌よく左右へ揺れていたので、嬉しいのが丸分かりだった。
そんな時間が続く。
気付けばおやつの時間になっていた。
すると、ミミが立ち上がった。
「にゃ」
満足したらしい。そのまま家の中へ戻っていく。
そこで気付いた。楓が寝ている……マットの上で気持ち良さそうに。
俺は近付き、鼻をつまんだ。
「むぎゅっ!?」
「何するの!?」
「起きろ」
「寝てない!」
楓は不満そうだった……なので言ってやる。
「そのまま寝ててもいいぞ」
「ほんと?」
「タープを自分で畳むならな」
「起きます」
即答して、何事もなかったように家へ戻っていく。
分かりやすいな、タープを片付けた後、俺も後を追った。
家の中へ入ると、両親は並んで座り、仲良く酒を飲んでいた。
昼から完全に出来上がっていたが、休日だからいいか。そんなことを思いながら、俺もリビングのソファーへ腰を下ろした。
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