038 キャンプ設営の検証
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目が覚めた瞬間、妙に頭が冴えていた……スマホを見ると、まだ6時前半。
「早いな……」
昨日寝た時間はそこまで早くないはずだが、体は軽い。むしろ、ここ数日の中で一番コンディションがいい気がする。
寝室を出ると、家の中は静かだったけど、キッチンでは母親がすでに動いている気配がある。
短いやり取りのあと、テーブルに目をやると、簡単な朝食が並んでいた。パンとスープ、目玉焼き、サラダ……椅子に座っていると、階段から足音が聞こえてくる。
「ねむ……」
楓が半分寝たまま降りてきた。
「珍しく起きてるな」
いつもなら起こされるまで寝ているのに……椅子に座り、そして、当然のように。
「ミミは?」
気にしているようだが、見える位置にいるぞ。
俺はパンをかじりながら窓の外を見る。庭の方が妙に静かだった。いつもなら、朝の時間帯は鳥や虫の気配があるはずだ。
だが今日は違う気がする。
食事を終え、少しだけぼーっとする……その時間が妙に長く感じられた。
「よし」
立ち上がり外に出た瞬間……違和感がはっきりする。
涼しくて、そして静かだ……虫の羽音がしないのだ。草むらを見ても、小さな動きがない。
「完全にいないわけじゃないけど……」
昨日までの庭とは別物だった。俺は家の周囲を歩いた。さらにその先、少し離れた空き地の方へ向かう。そこなら何かいるはずだ。
そして案の定、草の間に黒い動きがあった。
「蟻か」
しゃがみ込んで観察する。小さな列が地面を移動している。
俺はポケットから、準備しておいたガラス瓶を取り出した。
蓋は外したまま、そっと蟻を中に入れる。数匹入ったが、ターゲットは1匹に絞る。その1匹だけを捕まえ、瓶の中に入れて蓋を閉じる。
「よし」
準備は完了だ。
俺は瓶を持ったまま庭へ戻った。瓶の中では、蟻が普通に動いている。
「外見上は問題なし」
念のため、しばらく観察する。だが異常はないし、動きも普通だ。
「じゃあ……」
俺は瓶の蓋を開けないまま、その状態で少し意識を向ける。そのまま瓶を持って庭を見渡す。
その瞬間だった。
「あれ?」
瓶の中から、蟻が消えていた……潰れた跡もない。ただ、いなくなっている。
「……は?」
思わず声が出る。
瓶を逆さにしても何も出てこない。さっきまで確実にいたはずの個体が、完全に消失していた。
「どういうことだ……」
俺はもう一度空き地へ向かい、同じように蟻を捕まえる。今度は瓶に入れたまま、慎重に観察する。
そしてそのまま家へ戻り、庭を横切る瞬間……
蟻が消えた。
瓶の中から、またしても完全に。
「……いた」
数歩後ろの地面に、1匹の蟻が歩いていた。瓶の中にいたはずの個体と同じように見えるが、確証はない。
小さすぎて特徴がない……区別がつかない……
「同じ、なのか?」
ただ一つだけ確かなことがある。庭の境界を越えた瞬間に、消えている。テントウムシの時と同じだ。
これは単なる偶然じゃない。
「キャンプ設営のエリア内から、消えた時と同じ現象だな……」
意味が分からないが、ルールはあると思う。
「どうやって検証すればいいんだ……」
考え込んでいると、背後から声がした。
「にゃー」
振り返るとミミがいた。敷地内を普通に散歩していた。さらに少し遅れて楓も出てきた。
「また何かやってる?」
「ちょっとな」
事情を説明すると、楓はすぐに頷いた。
「蟻が消える? へえ」
ミミは俺の足元をぐるりと回りながら一鳴きした。
「にゃ」
そして、庭の奥を見た。何かを確認しているような動きだ。
「どうしたの?」
楓が首を傾げる。
「ミミが、この辺が範囲っぽいって言ってる」
楓はミミを抱き上げながら続ける。
「昨日のタープが繋がって家を中心に、丸い感じで広がってるっぽいって」
「やっぱりか」
俺は庭を見渡す。
確かに、昨日設置したタープの位置は家の周りにあり、家が中心にある。ミミが言った境界線の外へ出ると、何かが違う感じがする……なんか暑い。
「半球状……ってやつか」
楓はうなずく。
「多分それ」
ミミは満足そうに尻尾を揺らしている……まるで分かっているかのように。
「でもさ、設営っていうより、お兄ちゃんが設営したタープの効果が繋がって、周囲に影響を与えている感じ?」
その言葉で、少し腑に落ちる。今朝から感じていた違和感もそれなら説明がつく……疲れが取れ、虫がいない。
「なるほどな……」
俺は庭を見上げる。真夏の太陽は変わらず強いはずなのに、なぜか暑さが和らいでいる。スキルの影響だとすれば、かなり広範囲だ。
「じゃぁさ、このスキルって、戦闘じゃなくて完全に支援系だね」
「まあ、そうなるな」
戦えないスキルだけど、生活する環境を変えるスキル……そういう方向性なのかもしれない。
その時、ミミが庭の奥をじっと見て一鳴き。
「にゃ」
「どこまで行くんだろうな」
俺は呟いた……答えはまだ出ない。だが一つだけ確かなことがある。このスキルは、ただのキャンプ能力なんかじゃない。底が見えていない……そしてスキルのレベルが上がったら、何が変わるのだろう……
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